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輝き町友愛銀座商店街  作者: 二糸生 昌子(にしお しょうこ)
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輝き町友愛銀座商店街

美緒は次第に家の中だけでなく、店に出て手伝うようになった。いつも人の良さそうな笑みを浮かべ元気に声を張って野菜を売った。

「奥さん、今日はキャベツとひき肉団子のスープなんてどう?、キャベツは昨日食べたの?じゃあ、新ジャガ行っちゃって!」

美緒は店に出た初日からこんな調子だったので、商店街は美緒の話で持ちきりになった。

焼き鳥うまひまとスーパーどっちもの社長が居酒屋ホイキタで話し合っていた。

「あの美緒ちゃんって子、い〜い度胸してるなあ」うまひまが続けた。

「ほんとだよ!昨日長ネギ買いにおやおやに行ったんだけどさあ、もう20年来の付き合いかと思う程、なんというか近いんだよな〜」

「馴れ馴れしいんだろ? 」

「そう。馴れ馴れしいんだ」

「実家が店でもやっているのかなあ。あれは経験ありだよなあ」

商店街での美緒の評判は良いものと、あまり良いものとは言えないものとに別れた。

「この商店街に来たのはついこの間だと言うのに、態度がでかいじゃないか」とか、「なんだか図々しいよねえ?かみさん気取りにはちょっと早過ぎないかい?」と言ったものと、

「明るくていいよ」「笑顔が可愛いじゃないですか」と言う感想とで、どちらも半々といったところだった。


美緒が初めて八尾家に来た日、美緒は大介の手を取って

「まあ、ハンサムで賢そうな坊ちゃんですこと!」と八尾の目を覗き込みながら笑顔で言った。八尾は困った顔のまま握られた手をそっと、けれど断固とした意志を持って美緒の手から引き抜いた。一瞬美緒の顔から笑顔が消えた。

八尾にはその瞬間からなんとなく美緒への警戒心が生まれた。しかし大介の父親は料理の腕もある働き者のこの女性に感謝し、気を許すようになって行った。そして赤の他人の女性が家で寝起きしているのは、息子にとってよくないだろうと、正式な妻に迎える決断をした。父親は美緒が見せる大介への心遣い、その優しさを信じていた。

だが、その辺りから美緒は八尾の躾に厳しくなった。そしてその躾は父親の目のないところでなされるのだ。

美緒は八尾の父親を前にすると、優しい顔をしているのだが、八尾が一人になるとちょくちょく態度を変えた。

「新いノートが必要だということなんか、いちいちお父さんに言わないで、私に言いなさいな」

不機嫌な顔で美緒が言った。昨日八尾は父親にノートが必要だと話した。それを父親は美緒に頼んだようだ。

「いくら必要なの? 300円? それじゃあそこに座って、両手をついて頭を下げて言いなさい。私はノートが必要でございます。300円くださいませって」

驚いた八尾はノート無しで学校に行き、先生に叱られた。

が、さらに3日もノートを持って来なかったので、とうとう泉先生が八尾の自宅に電話をかけた。美緒が出て「少しも知りませんでした」と答えた。


父親は小学校の生活指導にあたっている泉先生が話した息子の問題児っぷりを美緒から聞いて、亡くなった妻から聞いた息子との違いの大きさに戸惑っていた。実は美緒との再婚を、息子は嫌がっているのだろうか?

以前思い切って息子に聞いたことがあった。

「美緒さんをどう思う?」

「ん?」

「美緒さんて良い人だよなあ」

「そう?」

「このまま家に居てもらうと言うのはどうだ?」

「ん・・・別に良いけど・・」

口下手な父親はこう言った話をする照れ臭さもあって、こんな細やかなやり取りを息子との話し合いと取り、息子の気持ちを十分に聞き承認を得たものと思い込んだ。

美緒が買い物に出た隙を見つけての短い時間だった。


今父親は息子ともう一度話をしなければならないと思っていた。だが、なぜかそんな機会を作れないままずるずる来てしまう。美緒は大介を愛してると思っていたが、父親は提出するつもりでいた婚姻届を机の引き出しの奥に押し込んだ。


ある朝八尾は美緒から、自分の食べた茶碗を洗ってから学校へ行けと言われ、今日は花壇の水やり当番だから早く行かなくてはならないと答えた。すると美緒はそれは自分が早く起きなかったから悪いのだ。いくら当番でも、自分がやるべきことをやってから行けと怖い顔で言う。お父さんがいる時にはこんなことは一言も言わないのに。

八尾は慌てて食器を流しに持って行き、ガラスのコップを割った。美緒は

「朝に食器を割るのは縁起が悪いのに!とっとと片づけなさいよ!」それは押し殺された怒りの声だった。

八尾は黙って割れたガラスを片付けた。その時ガラスの破片で指を切ったが八尾はティッシュで傷口を押さえて学校に行った。

学校には遅刻で、花壇の水やりもできなかった。

泉先生は廊下を歩いていた八尾を呼び止めて、責任を果たさなかったのはどう言う訳かと聞いた。

そこに保健室の山口先生が通り掛かり、後ろ手にして立つ八尾の手から血液が滴り落ちているのを発見し、慌てた。

「泉先生!血が!」

初めて八尾の怪我に気付いた泉先生は、蒼白になった。































































































































































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