01.追放
01.追放
「解呪師マモル、あんたは追放だ。この世からもな!」
ドシュッ!
「うあっ!?」
僕、マモル・フジタニは。
いきなり脇腹に走った焼けつくような痛みに、膝をついた。
「う……ああぁっ……」
脇腹を手で押さえると、べったりと血がつく。
震えながら、顔を上げると。
「ご苦労だったな! せいぜい、あの世でゆっくりしてくれや!」
そこにはナイフを握る、勇者ダイトの姿があった。
ヘラヘラと、ゆがんだ笑いを浮かべている。
「な……ぜ……?」
状況が理解できなかった。
どうして勇者が、僕を刺す?
「何で……こんなことに……?」
僕の頭には、ぐるぐると。
勇者パーティーに加入してからの出来事が思い起こされていく。
きっかけは、1週間前だ。
(18歳になった僕のもとを、勇者パーティーの4人が訪ねてきた)
彼ら4人は語った。
魔王討伐のため、『封印の塔』に封じられた伝説の武器を入手したい。
武器の封印を解くために、力を貸りたい、と。
それから、今朝。
(僕は勇者パーティーとともに、ここ『封印の塔』を訪れた)
彼らに手を貸すことは、僕にとっても願ったりかなったりだった。
彼らと旅をすることで。
……僕が探す『犯人』に、近づけるかもしれないと思ったから。
そして、2分前。
(僕は塔の最上階で、『いにしえの勇者』が施した封印を解いた)
『いにしえの時代の勇者パーティー』が5人がかりで施した、強大な封印。
僕の解呪の力は、その封印を打ち破った。
強大な伝説の封印も。
10年間復讐に身を焦がして解呪の力を磨き続けた、僕の敵ではなかった。
その結果、1分前。
(勇者パーティーが、伝説の武器を手にした)
聖剣、魔剣、聖杖、魔杖。
4人は嬉しそうに、武器を手に取ると。
勇者ダイトが僕に笑いかけ、そして……。
(今、僕は……勇者にダイト刺された)
「どう……して……?」
激痛に耐える、僕の耳に。
「だってあんた、もう用済みじゃん?」
勇者ダイトの、馬鹿にしたような声が響く。
「オレたちはこれから、魔王退治に行くわけよ。わかる? ま・お・う・た・い・じ! 解呪しか能がないあんたを連れてっても、邪魔になるだけだろ?」
言いながらダイトは、ニヤリと笑った。
「だから死んでもらう、ってわけ。カンタンな話だよな?」
「な……な……!?」
用済みだから、殺す?
邪魔になるから、殺す?
こいつはいったい、何を言ってるんだ!?
「ダイトの言う通りだな。悪く思わないでくれよ?」
女剣聖のサリィが、冷たく僕を見下ろす。
ダイトの幼なじみだという、勇者パーティーの前衛担当だ。
「ついでに言わせてもらうと、だ。お前は私たち勇者パーティーの名声に、キズをつける可能性がある」
サリィの顔には、冷酷な表情が張り付いていた。
「ロクに素性のわからない解呪師ごときに、選ばれしものたちが手を借りた? そんな事実が表に出るなど、あってはならないことだからな」
「そーそー! しょうがないよねー! キミが優秀すぎるのがいけないんだよ?」
大聖女のシャルロッテが、サリィの言葉を引き継ぐ。
勇者パーティーの回復や補助などをこなす、ダイトの実の姉だ。
「このままキミを放っておくと、世間のシャルちゃんの評価が怪しくなりそうだしー? シャルちゃん、自分がいちばんじゃないと気が済まないの!」
シャルロッテの口調は……ウキウキと弾んでいた。
「だからキミが有名にならないうちに、つぶしておかないとなーって! わかるでしょ? ねっねっ!」
こ、こいつら……!?
こいつらは、いったい何なんだ?
名声にキズをつける可能性があるから、殺す?
自分がいちばんじゃないと気が済まないから、殺す?
そんなことが……許されるのか!?
「ま、運が悪かったということで。愚かな人間の末路なんて、だいたいこんなものですよ……ふふっ」
女賢者のツカサは、ふくみ笑いをもらした。
勇者パーティーの魔法攻撃要員で、ひとり旅の途中に加入したという。
「世界を救う! なーんて触れ込みで猫をかぶってると、ストレスがたまるんですよねー。だから、適度に発散しないといけないわけです」
おとなしそうな雰囲気とは、裏腹に。
ツカサの瞳には、狂気の色が宿っていた。
まるで、エモノをいたぶるみたいに。
「弱いものイジメは最高のストレス解消法って、知ってました? アハハハハ♪」
「ぐ……ぐぐっ……!」
僕は、苦痛と悔しさでうめいた。
連中の話には、理解できないことがたくさんあった。
でも、ヤツらの本質は理解できた。
コイツらは、勇者なんかじゃない。
とんでもないゲスの集まりだったのだ、と。
「んじゃ、そういうことで! サリィ、シャル姉、ツカサ! 後始末は頼んだ!」
ダイトの号令を受け。
「ああ、まかせておけ」
ドシュッ!
サリィが僕の太ももに、レイピアを突き刺した。
「うぐ……ああっ!? ぐああああぁぁ!」
激痛で、のたうち回る僕に。
「パラライズ・ミスト!」
「パープル・ポイズン!」
バヂバヂバヂ! ボフゥン!
シャルロッテとツカサの魔法が直撃した。
「あ……あ……うあっ……」
僕の体は力を失い、あお向けに横たわる。
体はしびれて動かない。
脇腹と太ももからは、血がドクドクと流れる。
毒が少しずつ、命を蝕んでいくのがわかった。
「おし! そろそろ行こうぜ! オレたちに伝説の武器があれば、魔王なんて敵じゃねえさ!」
遠くから、ダイトの声が聞こえる。
「それじゃあな! あばよ、チョロ甘の解呪師さん!」
「世話になったな! せいぜいあの世から、私たちの活躍を見てるがいいさ!」
「シャルちゃん、キミのこと忘れないよ? 2日ぐらいは、だけど! キャハハハハ!」
「さようなら。せいぜい、たーくさん苦しんで死んでくださいね♪」
あざけるような言葉をぶつけ。
4人は、僕のもとを去っていく。
(待て……!)
叫んだつもりだった。
でも、舌はしびれて動かない。
体温は出血と毒とで、少しずつ失われていく。
(死ぬのか……僕は)
いやだ。
(10年前……僕のすべてを奪った犯人に、復讐することもできず……)
そんなの、いやだ。
(死んで……たまるか……)
僕は、涙を流しながら。
今にも消えそうな意識を、必死でつなぎ止めるのだった……。
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