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真・阿修羅伝  作者: 緋櫻りゅう
天界の章
6/14

6.天界大戦


 窓からは天界の赤い太陽が光の帯を作りながら差し込んでいた。少し斜めに傾いたそれは、阿修羅と蓮華姫を一つの影にし、長く伸ばして白く冷たい床に落としている。


「どうした? 阿修羅、姫とは話ができたか?」


 それからどれくらい経っただろうか。多分数分もなかっただろう。隣室の扉が開き帝釈天の足音が近づいてきた。


「う……」


 だが、帝釈天は足を止めた。いや、止めざるをえなかった。

 鬼だった、そこにいたのは。姫を静かに横たわらせ、振り返った阿修羅は怒りにその身を炎と(たぎ)らせ、憎悪に支配される鬼だった。


「蓮華姫は死んだ。今、自ら毒を含んで」

「な……なに!」


「なめるなよ、この私を。たとえ剣など持たぬとも、お前の首なぞ引きちぎってやる!」

「阿修羅! 待て、私を嫌うな! お前のその冷たい目が私に罪を犯させる!」


 阿修羅の目には、憎しみをぶつける相手の姿しか見えていなかった。耳は何も聞こえていなかった。怒りで全てを見失っていた。


「遅い……遅いぞ、帝釈天……。私は、お前を許さない!」

「あしゅ……」


 俊敏な動きが影すら残さなかった。取り押さえようとした兵たちは(ことごと)く倒され、剣まで奪われた。その剣先は真っすぐに帝釈天へと向かう。

 

 持国天達側近は、慌てふためく帝釈天をその場から逃がすのがやっとだ。


「逃げるか、帝釈天! この怒り受け止めよ!」


 阿修羅は帝釈天の首を目掛け、剣が血を欲するまま兵を蹴散らしていった。


「謀叛だ! 阿修羅が謀叛をおこしたぞ!」


 六界最上の美しさを誇る善見城は、一瞬にして鮮血に塗れた。





 阿修羅の館周辺に集結しつつある兵達の耳に、その声はほどなく届いた。


「よし、行くぞ」


 影闇は後方に従える数千騎に及ぶ兵を見渡した。


 ――帝釈天、貴様も悪くない王だった。が、しくじったな。阿修羅を怒らすとは。奴の力は剣だけじゃない。これだけの兵が阿修羅に付く。それこそが本当の奴の恐ろしさだ――


「行けえ! 敵は王宮の賊将、帝釈天だ!」

「おおぉ!!」


 怒声とともに起こった地響きが、まさに天界を轟かした。王宮のあちこちで火の手が上がり、曇ることなどなかった天界の空は、たちまち暗雲たれこめる闇と化していった。


 ここに天界を真っ二つに分ける血みどろの戦、天界大戦が勃発した。




 阿修羅は自らを修羅の王と名乗り、影闇とともに帝釈天に挑んだ。が、帝釈天の軍も持国天ら四天王を筆頭に、強く勇ましく、戦いは容易には収まらなかった。

 実に三百万年の膨大な年月をかけて死闘は繰り返され、一進一退のまま、未だ雌雄を決するに至らない。


 この長きに渡る戦いのため、天界はその世界を維持することすら困難となった。命を落とした神々は、下界である地の星に降り、生命の進化の中へと埋没していった。


 阿修羅は既に鬼と化していた。怒りが全てであり、その全てを剣にぶつけていた。何のためにこの戦を起こし、何のために帝釈天の首を狙っていたか、時々忘れるほどだった。

 だがそれでも剣を振るうのを止めなかった。


 


 不毛の戦いの中で、気の遠くなるような年月が過ぎていった。



 地の星、地球で人類が誕生して二十万年、人間界で奇跡が起こった。

 

 “仏陀(ぶっだ)” の覚醒である。


 この “目覚めた人” の出現により、天界の悪しき気は浄化され、神々は自らの愚かさにようやく気付き始めた。




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