表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

二度目の人生

作者: oga

 とあるバイクが高速で唸りを上げた。

どんどんどんどん加速して、横の車を追い越していく。

乗っている男の手は血に塗れていた。

男の名前はシンジ。

先程、バイト先の店長の背中にサバイバルナイフを突き立て、逃げ出して来た。


「畜生、畜生……」


 その時のシンジは不安定だった。

町の声全てが自分を罵っているように聞こえていた。

その日も、バイト先のコンビニの店長とそこで働く女子がただ談笑しているだけなのに、シンジはカッとなり、バックヤードの自分の荷物の置いてあるテーブルに向かった。

カバンから取り出したのは、サバイバルナイフ。

シンジは、誰かに罵られたらこいつで刺す、と考えていた。

そして、惨事は起きた。

 バイクを運転しながら、シンジは酷く後悔していた。

店長を刺したことではなく、今までの自分の人生に、である。


(もう少し、勉強が出来りゃあなぁ……)


 シンジはフリーターだが、そこから抜け出すべく、就職活動をしていた。

しかし、ことごとく採用試験を落とされ、30を超えた頃には書類すら通らなくなっていた。

そこでようやく、シンジは気が付いた。

学校で習う勉強などくそ食らえだと思っていたが、そのしっぺ返し。

採用試験は学校で習ったことをベースに作られているのだ。

もはや、やり直しは利かない。

自分は一生、底辺なのだとシンジは悟った。

目からは涙が流れ、それを指先で拭う。

目に汚れが入り、シンジの視界は真っ暗になった。

シンジは願った。


(神様、もう一度、人生をやり直させて下さい。 お願いします、神様……)


 叶うはずの無い願い。

分かり切ったことだったが、シンジはそれを心のそこから懇願した。

その刹那だった。

バイクが壁に激突した。









 気が付くと、シンジは見知らぬ場所にいた。

それは誰かの家だったが、体を起こしてウロウロする内、信じられない面持ちになった。

しかし、その後すぐに口元がにやけた。


(……願いが、通じた!)


 シンジは思った。

バイクが高速の壁に激突し、そのまま魂が抜けて誰だか知らない子供の体に入り込んだのだ、と。

洗面台の鏡で体を確認したかったが、背が届かない。

代わりに、そこら辺にあった手鏡で自分の顔を確認した。

子供になったと分かったシンジが最初に思ったのは、勉強しよう、ということだった。

今から勉強すれば、いい大学に入って、いい会社に入れる。

それが叶わなくても、公務員試験に合格できる程度の学力があれば安泰だ。

シンジはすぐにそれを開始した。









 シンジは小学生になった。

毎日、親が驚く程に勉強に打ち込んでいた。


(これなら絶対、上手く行く)


 社会に出るまではイヤという程時間はある。

ところが、小学校の授業はひどく退屈だった。

シンジと言えど、足し算引き算、ひらがななどは今更である。

それが毎日毎日飽きもせず行われる。


(頭がどうにかなりそうだ……)


 しかし、飛び級など出来ない。

恐ろしく退屈な授業を一日4時間も受けなければならず、子供にとっては新鮮な授業も、シンジにとってはただただ辛い。

更に、中身が大人のシンジと、周りの低学年の子供とが合うハズも無く、次第にシンジは孤立していった。










 ある時からシンジは周りと打ち解けるのをやめた。

大学受験の参考書や、公務員試験の参考書をひたすら読む日々。

そしてとうとう、不登校になった。


(やってられるかっ!)


 まさか、一度目の人生よりも、上手く行かないことになるとは。

シンジは理解した。

一度知っている事程、退屈なことは無い。

二度目の人生は絶対マンネリする。


(人生は一度で十分だ)

  

 そこでシンジは目を覚ました。

そこは、病院のベッドの上だった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『人生は一度で十分だ』 タイムマシンで過去へ向かえばとか 生まれ変わったらとか それが出来たなら 人生はやり直せる。 とか安易に考えていましたけど この作品を読んでみると 結局「人生に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ