見つからなかった探し物
彼とは最近、話していない。
別に大ゲンカしたとか、どっちかが浮気したとか、そういうことは一切ない。
でも、刺激も一切ない。
交際してもうすぐ一年経とうとしてるのに、彼は食事に連れて行ったり、遊園地とか映画館みたいな「カップルの定番」みたいなところに連れて行ってくれるだけだ。
簡単に言っちゃえば、キスとかハグとかそういうことをほとんどしてくれない。
私とは、そういう「めっちゃ仲の良い女友達」みたいな関係の方が良くて、実は他に好きな人でもいるんじゃないのかな?なんて考える。
------------------------------
彼女は最近、話してくれない。
別に大ゲンカをしたような覚えもないし、浮気なんてもってのほかだ。
なんで、話さなくなっちゃったんだろう?
なるべく彼女の好みに合うようなレストランとか、彼女が好きな絶叫系が多い遊園地に行ったりとか、彼女が気になってそうなホラー映画を見に行ったりとか「彼女が好きそうなこと」をしてるのに。
しかも、なるべく彼女には過剰なスキンシップをとらないようにしてるのに。
本当は、「普通の成人カップル」がするようなことだってやりたいし、でもやっぱりそういうことしていいのか分からないから必死に抑えてるのに。
僕の電話に着信が来た。彼女からだ。
「ねぇ、あのさ...」
「はぁぁぁぁぁぁ」
久しぶりの彼女の声を聴いて、心の中にあったモヤモヤが大きなため息とともに抜けていった。
「えっ?なに?!電話、嫌だった?」
「いやいやいやいや!そうじゃなくて、このまま何もなくて、別れちゃうんじゃ、ないかって思ってたから、つい、安心して」
少しずつ視界が揺らいでいく、声も詰まってしまってうまく話せない。
「ちょ、ちょっと!泣かないでよ!」
「ご、ごめん」
「いや...別に、謝らなくても良いけどさ。もう、そんなに泣かないで?ね?」
彼女は、優しく声をかけてくれて、僕が彼女に恋をした日を思い出した。
ちょっとしてから、僕が落ち着くと彼女は静かに話し始めた。
「、、、でさ、話したかったことなんだけど、今週末ってなんか予定ある?」
「あー...う、うん、あるよ」
「え?あ、そっか。そうだよね、急にごめ」
------------------------------
彼が泣き始めて、少し動揺して、「泣かないで」って言った。
こうなったら、彼は決まって
「ご、ごめん」
やっぱり、悪くもないのに謝るんだ。あの日、仕事で頭を下げ続ける日々に疲れていた彼を思い出した。
「いや...別に、謝らなくても良いけどさ。もう、そんなに泣かないで?ね?」
ちょっとしてから、彼が落ち着いたようなので話を再開した。
「、、、でさ、話したかったことなんだけど、今週末ってなんか予定ある?」
「あー...う、うん、あるよ」
聞かなければ良かった。やっぱり、私たちのことなんか、私のことなんか忘れちゃうんだよね?もっと些細な事なら良いけど、やっぱり、こんなことまで忘れるってことはそういうことなんだよね?
「え?あ、そっか。そうだよね、急にごめ」
「僕たちの付き合って一周年、でしょ?」
「え?」
少しずつ視界が揺らいでいく、声が出そうだけど頑張って抑える。
「あれ?違ったっけ?、、、いや、今週末だよね?合ってるよね?カレンダーに印もつけてるし」
頬を伝う涙の感触が絶えない。声を抑えてるからか、のどとか頭が熱くなって、ジンジンする。
「ねぇ?泣いてる?」
「泣いてない!」
「泣いてるじゃん。前に言ったでしょ?せめて、僕と話すときは泣くの我慢しないでって」
「うん、、、うん、、、」
抑えてたものが溢れ出てきて、いらないものが心から抜けていった。
ずっと探してたぽっかり空いた心の隙間を埋めるためのものも見つかった。
ずっと見つからなかった探し物は、こんな近くにあったんだ。