2.くるまるおとこ
私は毛布にくるまっていた不法侵入者である男から離れた。
「だ、誰ですか!?」
ただ失敗したのは、離れたときにスマホをテーブルに置き忘れたこと。
距離を取れたのはいいけど、逃げるために玄関に向かうのは怖い。
「落ち着いて、ご主人様。俺は何もしないから」
男は私に落ち着けと、何もしないと言ってきた。
「な、なにもしないって…家の中に入ってる時点で何かしてるの気がついてないんですか!?」
私は怒りと恐怖から声を荒げ、男の言葉に反論した。
「……確かに。ごめんなさい、ご主人様」
「それにご主人様って!私にそんなことを誰かに言わせる趣味はありません!やめてください!」
落ち込んでいるような男を気に止めることなく、反論した勢いのまま、男が『ご主人様』と言葉にしていたことに強く否定した。
「……ごめんなさい。でも説明させてくれる?」
「説明」
一体何の説明なんだと思った。
「そこのベランダの所にある紙袋に、俺が誰か書いてあると思うから」
「自分ではしないんですね」
「ここから動いたら、ご…貴女が怖がるから」
「……分かりました。でもそこから動かないでくれてありがとうございます」
この状況を打破できるのならば、今は下手に出ている男をこれ以上は不快にさせない方が良いと、動かないでくれることに礼を言った。
「うん!」
男が笑顔になった。
その笑顔にほんの少し罪悪感を抱きつつ、私は紙袋がある方へとゆっくりと移動した。
その途中、スマホをこっそりと取れれば良かったけど、さすがに出来なかった。
――ガサゴソ。
紙袋の無事手に取ると、男から距離を取り、中に入っていた紙束を外に出すと1枚ずつ読み進めた。
――おめでとうございます。
あなたの愛情が我ら神々の神力となったため、その一部を使用し彼の者の願いを叶え、彼の者に必要な全てを整えておきました――
最初の文章だけを読めば、何かの勧誘の事を指し示しているとしか思えなかった。
ただ、男に面と向かってそうなのか否かを聞くのは憚られたので、黙って最後まで読むことにした。
最後まで読み終えた私は、問うように男の名を呼んだ。
「けん…?」
「うんっ!」
――【けん】と呼ばれた男は鳴くように返事をしたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もしよろしければ、ブックマーク・評価などお願いします。
又、タグについては随時考え中のため、変更する場合があります。