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秋のみのり  作者: 朧嶺月
1/3

1.はじまりのよくあさ



――とある平日の夜。


私――金澤(かなざわ)カエデ――は在宅でしている仕事が終わり、使っていたパソコンの側を離れると、気分転換にと空気入れ換えるため窓を開けた。


――胸元まである茶色い髪が窓を開けた拍子にふわりとゆれ、焦げ茶色の瞳は夜空を見上げた。


空には何個かの星と月が見える。

街灯とか家の灯りが多い地域では満天の星空は望めないけど、星が見えただけでも、今の私には気持ち的に軽くなった。



「…天国から見ててくれるかな」



数週間前。

私の愛犬であった【けん】が老衰でこの世を旅立った。

普通の犬より(よわい)も重ねてて、掛かり付けの病院から、


『いつ亡くなっても……』


と言われていたから、覚悟はしていた。


亡くなるその日は、朝から様子がおかしかった。

いつもなら私が口に運ばないと食べなかったご飯を自ら、少し戻しながらもゆっくりと食べていた。

トイレはさすがに介護が必要だったけど、それでも普段はベッドで寝たきりで私を見つめていた【けん】は、ヨボヨボと歩き、全盛期良く遊んでいたボールをなんとか咥え、私の前に落とした。


『遊ぼう』


そう言われた気がして、負担をかけるのを分かっていても、【けん】の願いならと、少しだけボールで遊んだ。

遊んだといっても、遠くまで投げたら取りに行くまで時間がかかるから、投げたフリをして【けん】が後ろを向こうとした瞬間に、そっと近くに転がしたりを何度か繰り返すと、満足したと言いたげに【けん】は尻尾を揺らした。


遊び終わった【けん】は私の膝に顎を乗せいつも以上に甘えてきた。

睡魔が来るまで私の側から離れなかった【けん】を寝床に戻すと、私は近くのテーブルで仕事をした。


『ーーー』


枯れたような【けん】の鳴き声のような音が聞こえ、寝床を見ると、呼吸をしていないように見えた。

私は急いで【けん】の側に行き、呼吸しているか確認した。

微弱だけどまだ息はしていた。

私はできるかぎり【けん】の身体を撫でつつけた。

病院に行っても間に合わない、もう…逝くのだと分かった。


言葉をかけた。感謝の言葉を、かけ続けた。



それから数分後。



【けん】は呼吸をしなくなった。



当然泣いた。

里親さんから受け取ったときから私が名付け、世話をした。

家族の一員だった。

一人暮らしするとなったときも、私は【けん】を一緒に連れてった。

外に出て働いている間はペットカメラで状況を見たり、近かったから休憩時間に帰ったりした。


泣かないなんて無理。


涙も枯れかけ気持ちも少し落ち着いてきた頃、電話口で家族に【けん】の悲報を告げ、【けん】の身体を丁寧に整えると、必要な事をし始めた。


そのあとの葬儀で【けん】を見送って、また泣いて、泣いてしまって、それで……



「あー!また悲しい気持ちになってきちゃった!ダメダメ!」



亡くなったら空から見守ってくれてる。なんて言葉を信じるのなら、今の私を【けん】が見たら、ボールを持ってきて『遊んで!』って私を悲しい気持ちから遠ざけようとしてくれる。

でも、もう【けん】はいないから悲しんでばかりもいられない。


私は悲しくなった気持ちを振り払うように仕事を再開した。








――翌日。



「ん…」



昨日、あのあとまた仕事を少しして……うん。記憶がないから寝落ちしたかもしれない。

目の前に置いてあるパソコンに触れると、書きかけだった資料の後半が文章になっていなかった。



「消えなくて良かった…」



私はキーボードを乱雑に押したであろうにも関わらず消えなかった事に安堵の声を漏らした時――



「――大事なお仕事のだもんね」

「うん……えっ?」



1人暮らしで誰ともくらしていない部屋で、ありえない返答があった。


私は恐々としながら声の方、後ろのベッドへと身体を向けた。



「おはよう、ご主人様」



そこには、クリーム色の髪に黒目の男が毛布にくるまっていた…



誰!?





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





この世界は、元異世界と呼ぶこともできる惑星。

魔法ではなくテクノロジーが発展を遂げたためか、現代と呼ばれる場所とは少し違いがある。

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