1-5 はじめての異世界(地球)飯 3
あの後、シアに一つ一つ教えながら料理をしていき、遂に味噌汁が完成した。
具材である玉ねぎや豆腐は若干歪であるが、味自体は悪くない出来だ。
味噌汁と同時並行的に進めていたハンバーグやサラダも完成し、遂に夕食のメニューが揃った。
長方形のテーブルに並べ、囲うように座る。
因みに並びは少女達の厳正なる話し合いにより、ラティアナとルミアが隣同士で座り、ラティアナの向かいにリウ、その隣にシア、そしてラティアナの角を挟んで右隣に桔梗という事になった。
「ラティ、特に違和感はない?」
「うん! だいじょーぶ!」
人間の3歳児程度のサイズになったラティアナが笑顔で答える。
異世界の時からそうなのだが、彼女は食事中のみ変身の魔法で身体を大きくするのだ。
ここ日本で彼女が魔法を使うのは初めてであった為、多少の不安はあったが、どうやら杞憂だったようで、これといった違和感も無く使えているようである。
さて、心配事が無くなった為、早速食事に移る。
メニューは先程挙げたハンバーグ、サラダ、味噌汁に、日本食に欠かせない白米を加えた日本ではよくある組み合わせだ。
しかし、異世界にお米や味噌を食す文化がない──そもそも存在するのかもわからないが──為、少女達からすれば新鮮なようで、皆一様に目を輝かせ、早く早くと急かすように桔梗の方を見ている。
そんな彼女達の姿に、微笑んだ後、桔梗は自身も空腹だった事もあり早速手を合わせると、
「いただきます」
と言う。
それに続くように、少女達も手を合わせ「いただきます」と声を上げると、思い思いに食べ始めた。
「…………っ! おいしい!」
ラティアナが口の周りをソースでベタベタにしながら目を輝かせ、
「……桔梗……天才……」
リウが静かにそう言った後、グッとサムズアップをし、
「……お上品で美味しいですわ!」
ルミアはその繊細な味に目を見開いた。
──ルミアが言う程上品と呼べるような味ではない筈なのだが、異世界の飯が大味のものが多かった事もあり、ただの日本食でもそう思えてしまうのだろう。
と。皆が笑顔で初めての日本食に舌鼓を打っている中で、シアだけは一口も食べずに、じっと桔梗の事を見ていた。
大方、桔梗が味噌汁を飲むのを待っているのだろう。
……先程味見をしたから、美味しいのはわかっているんだけどね。
桔梗は心の内で苦笑する。
とは言え、ここは直接伝える方が良いのは間違いない為、桔梗は味噌汁を飲むと、ウンと頷く。
「……うん、美味しい。よくできてるよシア」
続き、ルミア、リウ、ラティアナが声を上げる。
「……シアさんお上手ですわ!」
「……シア……美味しいよ……」
「しあすごい!」
……ダークマター職人である彼女にとって、初めてとなる味への称賛。
その喜びは格別なのか、
「うへへっ。……良かったっす」
と言うと、だらしなく表情を崩す。
そしてすぐに、安心した事でお腹が空いたのだろう、
「……さて、私も食べるっすよ〜!」
そう言い、フォークを手に取ると、ハンバーグへと挿し……そのままガブリとかぶり付いた。
「…………っ!?」
瞬間、溢れ出す肉汁。同時に口内に広がる繊細でありながらも強烈な肉の旨味。
向こうの世界では経験した事のない幾重にも重なる味の暴力のその凄まじさに、シアはボコボコにされたのか、ノックダウンするかの如くガクリと項垂れ──
「……ううっ。レベルが違うっす」
自身が作った味噌汁とのレベル差を痛感し、1人嘆くのと同時に……いつかは桔梗みたいな料理を1人で完成させ、皆に喜んでもらえるようになりたいなと、心の中で思うのであった。