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1-27 彩姫の友人とお弁当

 彩姫の机には既に先客が居た。唯香と呼ばれていた少女である。彼女は桔梗へと控えめな視線を向けながら緊張した面持ちでいる。


「……えっと、こんにちは」


 とりあえず桔梗が声を掛ける。


「こ、こんにちは」


 返答しつつも、突然見知らぬ男が席にやってきたからか、未だ多少の警戒を滲ませる唯香。


「ごめんね突然。一ノ瀬桔梗です、よろしくね」


「2組の春町唯香(はるまちゆいか)です。……いえ、彩姫ちゃんの突拍子も無い行動には慣れていますので」


「母親譲りのね」


「ちょっと何よ2人して」


 彩姫のツッコミに、桔梗と唯香は顔を合わせ小さく笑う。交わした言葉は二言三言であるが、互いに見せかけのものではない、彩姫の本物の友人なんだなと実感し、少しだけ心を開いた。


 その後、桔梗は彩姫が用意してくれていた椅子に座った。


 彩姫の机を囲う様に座る3人。


 今まで2人で共有していた机を3人で使うとなると、中々に窮屈感がある。

 しかし、入学以降1人で昼食を取っていた桔梗からすれば、この窮屈さがむしろ心地良かった。……欲を言うのならば、周囲から向けられる刺さる様な視線が無ければ更に良いのだが。


 着席した桔梗が、自身のお弁当を開く。するとやはり彩りの良い美しいおかずの数々が現れ……唯香が目を丸くする。


「わぁ、凄く綺麗なお弁当……一ノ瀬君のお母さん凄いね……」


 感心した様子の唯香。それを目にし、アハハと苦笑いを浮かべる桔梗に、彩姫が口を挟む。


「これ作ったの桔梗よ?」


「えぇーー!? ほんと!?」


「まぁ、うん」


 言って桔梗が曖昧な笑顔で頷くと、唯香がガーンと音が聞こえてきそうな表情になる。


「うぅ……男の子に女子力で負けるなんて……」


「で、でも春町さんのお弁当も凄く可愛らしくて──」


「──お母さん」


「え?」


「お母さんが作ってくれたの」


「あ、えっと……」


 確かに、全員が全員自分で作る訳無い。いや、寧ろ高校生までは親に作ってもらう人の方が多いくらいだろう。


 ……うん、やっぱ久しぶりの学校で多少気が動転してるな。


 幾ら異世界に行き成長したと言っても、やはり深層心理で、学校という環境に苦手意識があるのだろう。異世界や実家よりも判断能力が低下しているようだ。


 と思いながら、桔梗が何かフォローの言葉をと考えていると、ここで彩姫がからかう様な声音で、


「唯香が作ったらきっと真っ黒なお弁当が出来上がるわね」


「彩姫ちゃんーー! そうだけど、そうなんだけど今それは言わないでーー!」


 と言いながら、2人は楽しそうに笑う。


 そんな2人を目にしつつ、「家庭的に見える春町さんは料理が苦手で、逆に料理が苦手そうな彩姫が得意と……」なんて心の中で思っていると、彩姫が桔梗へと視線を向け、


「──ちょっと桔梗。何か失礼な事考えてない?」


「カンガエテナイヨ?」


「怪しいわね……全く」


 言いながら、ようやく彩姫がお弁当を取り出す。

 そしてごく当たり前の様に蓋を開け──ここで復活した唯香が何かに気づいた様子で、


「あれ、彩姫ちゃんのお弁当いつもとちが──って、ん? 一ノ瀬君のと同じ……?」


 呟く様な唯香の声に、耳を傾けていたのか、そこら中からガタッという音が聞こえる。


 固まる桔梗と彩姫。


 そう、2人は失念していたのだ。桔梗と彩姫のお弁当が全く同じという事を。


 そんな2人を他所に、唯香が妄想を爆発させる。


「……そう言えばさっき一ノ瀬君が自分でお弁当作っているのを彩姫ちゃんは把握して──えっえっそういう!?」


 誰にも聞こえない程の小声で呟いた後、唯香がキラキラした目で2人を見つめる。


『どうしよ』『どうしましょ』


 チラと視線を合わせる桔梗と彩姫。


 何となくクラス全員が耳を傾けているような異様な雰囲気の中で、良い方法が何も思いつかなかったのか、


「春町さんが思っている様な関係じゃないよ」


「えぇ、友人……そう友人よ」


 と2人はとりあえず否定する。


 しかし、その様があまりにも辿々しかったからか、唯香はじーっと2人を見つめた後、聖母の様な笑みを浮かべると、


「ふふっ……そういう事にしておくね」


 と言う。


 その優しい笑顔に、「あっ、これ誤解されてる奴だ」と2人は思うのであった。

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