1-26 彩姫のお誘い
授業が始まってからは特に何も起こる事は無く、平和な時間が過ぎていった。一つ体感3年前と変化があるとすれば、授業中問題の解答を求められた桔梗が全てを完答した事くらいか。
異世界で勇者として成長する中で伸びたのは身体能力だけでは無かったという訳だ。
そんな多少の変化はあれど、ひとまずは平和な日常を送っていた桔梗であったが、それも昼休みには崩壊する事になる。
原因は勿論彩姫である。
昼休みが始まり、桔梗は誰と関わるでも無く、自身の机でコソコソと自作の弁当を取り出すと、食べようと蓋を開けた。
桔梗の目に、栄養バランスが良く、彩り豊かなおかずの数々が映る。
その出来栄えに、我ながら良く出来たと思い、うんうんと頷いていると、ここで遠方の机から、全く知らない少女の驚くような声が聞こえてくる。
しかしその声が、特別緊急事態を告げる様なものではなかった為、桔梗は特に気にする事はなく。「みんなちゃんと生活できてるかなー」とお留守番をしている少女達を心配しながら箸を手に取った。
そしておかずを掴み、いざ食べようとした所で──突如起こるざわめき。
原因を理解しながらも、桔梗がとりあえず右へと視線を向けると、そこには彩姫の姿が。
「桔梗、あんたいつもこんな感じだったのね……」
言って、1人で誰とも関わろうとしない桔梗に呆れた様にジト目を向ける。
対し桔梗は、クラスメイトの前でこんな普通に話しかけてきて大丈夫? とは思いつつも、ここまできてしまえば最早誤魔化しは効かず、そもそも何が起きようとも対応できると思い首を縦に振る。
「まぁうん、そうだね」
桔梗の反応に、彩姫は小さく息を吐いた後、
「……お弁当持って私の席へ来なさい。一緒に食べるわよ」
と言う。ポカンとしながら彩姫の席へと目を向けると、彼女の友人である少女が少しだけ困惑した様子で座っている。
「……いや、それはやめておいた方が──」
「──大丈夫よ。唯香も了承してくれたわ。それに良い子だから、きっとすぐに仲良くなれる」
「そこじゃないんだよな」
彩姫は自身がどれ程男子に人気があるのか理解していない。いや、理解はしているのかもしれないが、今まで頑なに男と関わらなかった彼女が突然1人の男と絡むようになった際、どの様な弊害が生まれるのかをわかっていないのだ。
だからこそ、平然といつものノリで関わろうとする。勿論嫌では無いが、こんな事を続けていたらいずれ問題が発生しそうだなとは思う。
「ほら、とにかく行くわよ」
「わかったよ」
とは言え、彩姫が1人教室の端に居る自身を心配してくれているのはわかったし、そもそも今後彩姫との仲を隠し通せるとも思わなかった為、桔梗は了承すると、とりあえず弁当を包み彩姫の机へと移動した。