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1-25 3年振り(?)の学校

 クラスメイトの視線が桔梗の方を向いている。


 そんな多くの視線に晒されながら自身の席へと向かう桔梗であったが、ここで彼は疑問を覚える。


 ……3年前は居ないもの同然だったのに、何でこんな注目されるんだ? 


 と。桔梗にとっては3年前、クラスメイトにとって数日前までは、桔梗が教室に入っても、クラスメイトは一瞬視線を寄せるだけで、すぐに興味を失った様にそれぞれの行動に戻っていた筈である。


 しかし今日はどうか。


 異世界に行く際、女神の力で容姿は変わらない様に固定されていた為、見た目における変化は一つもない。


 それなのにもかかわらず、クラスメイト達の視線は、ジッと桔梗の方へと向いているのである。


 ……本当、何なんだろう。


 思い、桔梗は現状を訝しむ。しかしだからといって別段何かする訳でもなく、桔梗は数ある視線の中、左端後方にある自身の席へと腰掛ける。


 久しぶりに座った自身の席。目前の机には、過去に誰かが付けたのだろう、所々に傷が付いている。その傷が物語る机の歴史と、感じずにはいられない暖かみに、桔梗は懐かしさを覚え、思わずスッと机を撫でた。


 その後、1限目の準備をしようと、リュックサックをガサゴソと漁る桔梗であったが、しかし平静を装おうにも妙に落ち着かずにいた。


 というのも、席についてからも、クラスメイトがチラチラとこちらを見ながら、こそこそと何かを話しているのである。


 今までこうも注目を浴びる事は無かった為、やはりどうしても気になってしまう。いっその事、彼らが何と言っているのか聞いてしまおうかとも思ってしまう。


 確かに、現在の桔梗であれば、聞こうと思えば彼らが何を話しているのかはわかる。


 しかし、異世界では形を潜めていたが、往来の臆病さ故に、どうせプラスになる様な内容では無い筈と考え、話の内容が聞こえない様に遮断。

 とりあえず1限目の準備を終えた為、時間まで本を読む事にした。


 ペラペラとページをめくりながら、小説の世界に没頭する。


 異世界にも本はあった。しかし当然ではあるが言語が違う為、表現と言うべきか、細かい部分でどうしても違和感を感じてしまう事があった。


 だからこそ、久しぶりの日本語の活字に桔梗は心地良さを感じた。


 と桔梗が気分良く物語の世界に入っていると、ここで周囲にざわめきが起こる。

 同時に聞こえてくる「水森さん」「彩姫ちゃん」などといった声。


 どうやら彩姫がやってきた様だ。


 彼女が教室に来ると、毎度このざわめきが起きる。1人の少女がただ登校しただけでざわめきが起こるなど、普通に考えたら異常な光景なのだが、このクラスでは最早当たり前の光景であり、桔梗は寧ろ懐かしさすら感じた。


 しかし同時に、桔梗は微かな違和感を覚える。というのも、この日のざわめきには今までとは違った色が窺える様な、そんな気がしたのである。


 とは言え、少なくとも何かしらの害を被る様な反応では無かった為、桔梗はとりあえず杞憂であると考え、これ以上は考えない事とした。


 という事で読書をしていると、ここで何やらざわめきが大きくなる。


 何だろう? と思いつつも、自分には関係ない事だろうと読書を続けていると、誰かが近づいてくる気配を感じる。


 そしてその気配は桔梗の後ろで止まり──


 いや、後ろに人が来るのはおかしい。というかこの気配はまさかと思っていると、ここでぽんっと肩を叩かれる。


 いや流石にそんな筈はと思いつつも、ゆっくりと後方へと視線を向けると、そこには彩姫の姿があった。

 彼女はハッキリと桔梗へと視線を向けると、クラスメイトの誰1人として見た事無いであろう柔和な笑顔で、


「おはよ、桔梗」


 と言い、その後桔梗の言葉を待たずに自分の席へ戻った。


 席へと戻る彩姫を目で追いながら呆然とする桔梗。あり得ないものを見たとでも言いたげなクラスメイト。そして──嫉妬からか、桔梗へと殺気を飛ばす男達。


 予想だにしなかった彩姫からの接触とチクチクと刺さる様な周囲からの視線に、


「うん、退屈しない学生生活を送れそうだ」


 と思いながら、桔梗は心の中で苦笑するのであった。

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