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1-23 入学式と噂の美少女(前編)

 ──思い返すと、異世界転移前の高校生活は、青春の色も匂いも感じられない悲惨なものだった。


 ◇


 雲一つない快晴に、満開の桜。空色と桃色が支配する美しい空間を、初々しい黒が行き交う。


 ──入学式。


 学生にとって、新生活の始まる日。ある者は新たな生活、新たな仲間との出会いを思い期待に胸を膨らませ、ある者は環境の変化に果たしてついていけるのかと、不安を覚える。


 そんな良くも悪くも入学式というイベントと今後の学生生活に深い関心を持つ者が多く存在する中、1人何の関心を示す事もなく、薄暗い雰囲気を纏いながら歩く少年の姿があった。


 彼の名は一ノ瀬桔梗。県立王我高校の新入生である。


 中肉中背で、ありふれた容貌で、特に着飾った様子も無く、もしもアニメの世界であればモブキャラとして登場する事すらも叶わない様な、いわば盤外の存在……。


 そしてそれを証明するかの様に、周囲を歩く新入生と思わしき少年少女は、彼に一切の興味を抱く事無く、ほんの少しですら視線を向ける事も無く、とぼとぼと歩く桔梗を追い抜かしていく。


 しかし、例え追い抜かそうとも、桔梗の周囲を歩く者達も新入生ならば目的地は同じで。


 桔梗は自身の先を行く新入生が集っている場所、クラス分けの書かれた掲示板の前へと向かう。


 そして到着と同時に、その人の多さに辟易としながらも、早速自身のクラスを確認しようと顔を上げる。──しかし、前方で蠢く黒波に阻まれ、掲示板を見る事は叶わない。


 仮に高身長であれば、この位置からでも確認できたのかもしれないが、残念ながら桔梗の身長は168cm。平均よりも低いのである。


 ……とりあえず退くまで待つか。


 桔梗の中には人の波をかき分け前の方へと進むという選択肢は無く、となればこの場でじっと待つほか無い。


 という事で、桔梗は前方へと目を向けながら、無心でボーッと立つ。


「…………」


 何故か、無心でいる時というのは、やけに周囲の声が鮮明に聞こえてくるもので。


 友人と同じクラスになれたと喜ぶ声や、逆にクラスが離れてしまい悲しむ声など様々な声が桔梗の耳に届く。


 そんな数ある声の中で、幾度となく呼ばれる名があった。


 皆その名を口にしては、同じクラスである事を喜び、違うクラスである事を心の底から悲しんでいる。


 彼らの呟く名は──水森彩姫。


 昔から人との関わりが少ない桔梗ですらも、その名は知っている。


 有名なファッションデザイナーであり、その美貌からテレビにも引っ張りだこである水森麗華の娘であり、桔梗とは別の中学校でありながらも噂として伝わる程の美少女。


 同じ高校に通いたいと人が殺到し、例年王我高校の倍率は1.1〜1.2倍に収まる所、今年はなんと2.6倍。家が近いからという理由で高校を選択した桔梗からすれば、たまったもんじゃなかった。


 そんな前代未聞である倍率を生み出してしまう程、高校という人生の大きな選択を『一緒の学校に通いたいから』という理由で決してしまう者を多数輩出してしまう程、圧倒的なまでの美貌の持ち主。


 それが水森彩姫という存在なのである。


 ……とは言え、水森彩姫を実際に見た事がない桔梗からすれば、その前代未聞の美貌というものも架空のものなのではないかと考えてしまう。


 噂が広まる内に話が大きくなってしまっただけで、実際はそれ程でもないのではないか。

 大体、倍率を大きく動かす程の美貌とは一体なんだ。幾ら整った容姿をしているからといって限度があるだろう。


 ……と、受験を困難なものとした噂の美少女、水森彩姫に悪態をつきながらも、


「あ、同じクラスだ」


 やはりその美貌というものが気になりはするのか、ある程度人が退け、掲示板を確認できた桔梗は、自身の名と共に水森彩姫の名を見つけると、ポツリと呟く様に声を漏らした。

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