第四話 牛車の亡霊
「なぁ、赫座。『牛車の亡霊』って何なんだよ!」
拠点に戻り準備を進めていると、牛頭が単刀直入に聞いてくる。と言うかあなた、獄門の門番じゃないですか。今まで、どれだけ適当に仕事していたんですか。
「私も、この目で見るまで断定はできませんが、予想通りなら『牛車の亡霊』とは、全ての女性を妬み、また憎んでいた女性の末路です」
女性は、ある男性に恋心を抱いていた。しかし身分の違いから恋が実る事は無いと諦めていた。そんなある日、男性が主催する花見大会が催された。
自分は男性に近付けないが、目立つ場所を取ることが出来れば男性側から声を掛けてもらえるかもしれない。
そう考えた女性は、男性から見付けてもらいやすそうな場所を探した。しかし、やっと見付けたその場所は、同じ考えを持つ他の女性達も狙う場所であった。結果として女性は場所取り争いに敗れ、その場所を取ることが出来た他の女性が男性と結ばれた。
「絶望に苛まれた女性は自ら命を断ち、全ての女性に牙を剥く復讐の鬼と化した、と言う事です。牛車は、場所取り争いの際に使われた当時の乗り物ですね」
「なんか……可哀想な人っスね……」
馬頭の気持ちは分からないでもない。しかし、可哀想だろうと地獄から逃げ出した脱獄衆の一人には変わりない。それに、奴は女性を襲って生き胆を喰らう。野放しにはしておけません。
「男、最っ低だな」
「当事者達は数百年も昔に死んでしまっていますから、我々が何と言おうが何も変わりません。それに、彼女の事を可哀想だと思うなら一刻も早く捕縛しなさい。時間が経つ程に人を殺め、地獄での罪が重くなります」
「「了解」」
良い眼だ。対象の生い立ちを知り、想う心を忘れない。しかし私情は切り捨てる。曲がりなりにも獄卒を務める二人なら、迷う事なく彼女を地獄へ導くでしょう。
「これより『牛車の亡霊』を捜索する」
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「牛頭、目撃例が多いのはこの辺りで間違い無いですね?」
「ああ、警備員のおっさんが間違えてなけりゃな」
どちらにせよ、他に情報を持たない我々は此処で網を張るしかありませんが……。考えていても仕方ない。此処に現れると言う前提で仕掛けをしておきますか。
「私は準備をして来ます。馬頭は頃合いを見て予定通りに、牛頭は馬頭の周囲を警戒していなさい」
「う……本当にウチがやるんスね……」
スーツを着て人間のOLに扮した馬頭はとても嫌そうに顔を引き攣らせている。この作戦は、対象が『人間に扮した馬頭』を狙って来るかで成否が決まる。とても重要な役目だ。ちなみに牛頭は、対象が現れた時の馬頭の護衛役である。馬頭の姿を見て笑い転げているが、まぁ大丈夫でしょう。
「あなた達の働きに全てが掛かっています。頼みましたよ」
そう言って二人を残し、夜の通りに消えて行く。正直不安しか残りませんが、仕方ない。手早く済ませましょう。ついに、現世に来てからの初仕事『牛車の亡霊』捕縛作戦が開始する。