第三話 大物
現世に転送されて一日が経過した。現在、三人は険しい表情で我が家唯一の家具、卓袱台を囲んでいる。
ちなみに借りている物件は一戸建てで、その間取りは……玄関を入って廊下の両側に二部屋、牛頭と馬頭の部屋である。その横にそれぞれ廊下を挟む形で、御手洗いと洗面室と浴室があり、廊下の突き当たりが私の部屋となっている。そして、今は私の部屋に集まっているのだが……
「家具、買いに行きましょう!」
馬頭が朝からずっとこの調子である。家具の必要性について延々と語られ、牛頭など頭から煙を立ち昇らせている。このまま放っておくと日暮れまで熱演されそうなので、実はある秘策を講じていた。
「はぁ……分かりました。そこまで言うのであれば買いに行きましょう。しかし、我々は遊びに来ている訳ではありません。無駄な物は省きます。……入って来なさい」
「「失礼します」」
手を叩きながら合図すると、廊下から屈強な肉体の鬼が二人入って来た。
「あ、赫座さん……この人達は……?」
「紹介しましょう。橙色の鬼が熱鬼、水色の鬼が冷鬼。二人には暖房と冷房、及びレンジやトースター、冷蔵と冷凍の役目などを……」
「「却下ーーーっ!!」」
馬鹿な……。我ながら完璧な案だと思っていたのに……。自慢気にポージングしていた二人もシュンとしてしまったではないですか。
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結局家具、家電を買い揃える事になった三人は大型ショッピングモールを訪れていた。そこなら人も多いので、聴き込みもしやすいと踏んだからである。しかし……
「有益な情報は得られなかったですね……」
店員や買い物客に話しを聞いても不審者扱いされるだけで、情報はまったく入って来なかった。それどころか牛頭と馬頭は、何度か警備員に学校の情報を聞き出されそうになっていた。無理もない。獄卒に年齢の概念は無いが、見た目だけなら二人は高校生くらいなのだ。
とは言え『女子高生二人を連れ回している変質者』として見られているのは心外です。
「あっ、そう言えば、さっき話し掛けてきた警備員のおっさんが変な事を言ってたぜ?」
ベンチに腰掛け、聴き込みを続けるか悩んでいると、両手にアイスを持った牛頭が思い出したように言ってきた。あなた……常に何か食べていますね……。
「変な事……っスか?」
「ああ。えっと……『女だけで出歩いてると、牛車の亡霊に攫われる』……だったかな?」
「牛車の亡霊……赫座さん……」
人間達の間で広まった噂話だから、多少あやふやな点はあるが、『牛車の亡霊』。恐らく……いや、間違いなく脱獄衆の一人であろう。確認を取るように此方を見る馬頭に、肯定するように頷き返すと立ち上がり荷物をまとめる。
「牛頭、馬頭。急いで戻り、準備をしますよ。これ以上の被害者が出ない内に捕縛します」
噂話になると言う事は、すなわち襲われた者がいると言う証明。『牛車の亡霊』……現世での初仕事は意外と大物が掛かったみたいです。