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17話『仮面の中身』

《ガーネット》



漸く戦闘は終了を迎えた。

ペストマスクは完全に伸び、床に大の字で寝転がっていた。裕仁も親父臭い声を上げながら、その場に倒れこんだ。



「あぁ、くそっ! 疲れた!」



「本当にね。もう面倒ごとは懲り懲りだわ。」



「二度と戦闘には巻き込まれたくないね。」



三人は緊迫による束縛から解き放たれ、口々に愚痴を吐き捨てた。そして少し、喧騒と沈黙の空白部分が生まれた。


そんな時、路地と比べて何やら大通りの方が騒がしく感じた。野次馬や通行人が次々と集まり始めている。もしや人形が一人でに動いているという怪奇現象を見られたのではないかと、雪乃は不安になったのでそっと路地裏から覗いてみた。


どうやら大通りでは、交通事故が勃発した様だ。人垣が出来ており、そろそろこの場所も人目が危なくなってきた。なるべくこの人形の残骸を見られたくはない。下手すれば様々な服やからマネキンをくすねた泥棒扱いだ。なので、早急に場所を移す必要がある。



「ちょっと裕仁。そっち持って。このペストマスク野郎を人に見られないように運ぶわよ。」



雪乃はペストマスクの頭部を持ち上げ、裕仁に手伝うように促した。



「面倒クセェ……。」



裕仁は露骨に嫌そうな顔をしながら、ペストマスクの足を抱えた。二人で黒尽くめの不審者を持ち運ぶ様は、傍目から見れば異様で仕方がないだろう。



「と言っても、何処に移すんです?」



海音はそんな二人に今後の動向を問うた。

雪乃は暫く考えると、乾笑して言った。



「取り敢えず、通行人に見られないような奥へ運びましょうか。」




ペストマスクを裕仁と共に運んだ。








・・・





「こいつ、縛っておかなくてもいいのか?」



路地の行き止まりの部分まで担いで運び、壁にもたれ掛からせるようにペストマスクを下ろした。



「心配ないわ。こいつの外套を壁と繋げておいたわ。」



それに、と雪乃は言葉を繋げた。



「この付近に人形や縫いぐるみの類はないわ。恐らく奴だけなら、戦闘能力は其処まで高くはないはず。人形に戦闘を全て任せていたのがいい証拠よ。」



ペストマスクは壁にぐったりと凭れ掛かっていた。まるで傀儡子に捨てられた操り人形のように動かない。奴自身も人形ではないかという疑問もあったが、先ほど運ぶ際に確認した。間違いなく生身の人間だ。


呼吸はある。恐らく軽く気絶しているのだろう。



「マスク取っちゃう?」



海音はペストマスクを近くに落ちていた木の枝で触れながら、雪乃に提案してきた。個人的には大いに賛成だ。今から叩き起こして詰問するつもりだが、先に幾つか情報を得ておくべきだ。マスクを取れば、性別と年齢、そして容貌が分かる。それだけでも、奴の情報を得ることが出来る。



「ペストマスクなんて見たの初めてだからなぁ。これどうやって外すんだ?」



裕仁はペストマスクの被ったフードを外し、物珍しそうに眺めている。



「これはベルト式ね。髪に隠れてるベルトを外せばいいと思う。」



雪乃は奴の肩ほどまで伸びた髪を掻き分け、固く締められたベルトのホックを外した。

すると、するりと仮面は剥がれ、奴の素顔を拝むことができた。特に食いついたのは裕仁と海音だった。




「マジかぁ……。」




「髪の長さから大体想定してたけど…やっぱり『女性』だったのね。」



挿絵(By みてみん)



そう。ペストマスクの下から現れたのは、整った顔をした女性だった。いや、まだ少女だろうか。若く瑞々しい肌をしている。それを台無しにするかのように、髪は所々跳ねている。



「身長もシークレットシューズの高さを引けば大体160……。女性にしては少し高めね。」



「どうする? そろそろ起こす?」



海音は心躍るように言った。

彼女の楽しみのツボは分からない。意外と他人の不幸を喜ぶサデイズムなのかもしれない。それとも、ただの天然なのか。



「そうね。海音、起こしてちょうだい。」



雪乃は少し呆れ気味に言うと、床へ落としたペストマスクを拾い上げた。そのマスクは鳥の嘴のように尖った部分に縫い目が走り、波模様のようになっているのが特徴的だった。医療時に空気感染防止にハーブを詰める場所に、小型の変声期が配置されていた。



「あーさでーすよー。おーきーてー。」



海音は適当なことを言いながら彼女の頬をペチペチと叩いていた。女性は暫く無反応だったが、次第に呻き声を上げ、うっすらと目を開けた。



「あ、起きた。」



瞬間、女性は驚いたように海音、裕仁、雪乃を交互に見て、そして仮面がないことに気づく。顔を覆おうと手を動かすも、黒色の外套の裾が壁に繋がっている所為で動かなかった。



「……見たな。」



女性はぐっと三人を睨みつけ、恥ずかしそうに顔を伏せた。



「さてと、もう自分の状況は分かっているわね。名前と宝石と異能の種類。そして私たちを狙った理由と目的。全部吐いてもらうわよ。」



雪乃は彼女の目線まで座り込み、冷徹な笑みを浮かべた。顔は笑っているが半ば脅しのような目つきだ。ペストマスクの女性は観念したかのように話し始めた。




「……常葉とこば あおい。宝石は『ルビー』。さっき見せた通り、能力は『人形を操る』というもの。目的なんかないわ。ただのストレスの発散よ。」



一つも隠すことなく、流れるように全て白状した。雪乃は立ち上がりながら溜息をつき、ペストマスク……もとい葵を見下げた。



「ストレスの発散で私たちは襲われたのね。いい迷惑だわ。」



『私は少しそこの小さな子供を虐めていただけ。それを妙な仲間意識で大事にしたのは貴方達よ。」



「子供って……私のこと?」



『小さい子供』呼ばわりされた海音が煩く喚いているのを無視し、雪乃は疑うように言った。



「本当に唯のストレス発散? 宝石を奪いにきたのではないの?」



それを聞いた葵は、面倒くさそうに言った。



「今年、大学受験なのよ。それでムシャクシャして……。ただ、それだけ。」



「……成る程。」



それでどうする、と裕仁は暴れる海音を抑えながら雪乃に質問した。


裕仁は雪乃に判断を委ねたように見えるが、実際彼は既にこうしたいという理念を心の中に持っているのだろう。雪乃もそれは分かっていた。だから、雪乃はこう言った。



「仕方がないわね。彼女のことは厳重注意で済ませるわ。」



「それがいい。」



やはり、そうだった。

裕仁はその提案に一切の疑問や反感を抱くことなく賛成した。そして、次に彼が思い描くのはこれに違いない。



「それでも貴方は危険だわ。また、こういった事を起こさないという可能性はない。これからは監視という名目のもと、私達の仲間に加わってもらうわ。」



雪乃は胸を張り、高らかに宣言した。

「仲間に加われ」というその一言に、一番驚いていたのは葵だった。葵は予想外の展開に戸惑いながら、素っ頓狂な声を上げた。



「え…?」



「別にいいでしょ? 皆。」



雪乃は態とらしく、みんなに確認を取った。既に答えは分かりきっている。



「勿論だ。」



「……子供呼ばわりさえしなければね。」



雪乃の想像通り、裕仁も海音も頷き、快く了承してくれた。葵は大きく目を見開いた後、くすりと微笑んだ。



「……お人好し集団ね。分かったわ。」



「決まりね。今日はさっさと帰って勉強頑張りなさい。」




雪乃はそっと、壁に繋げていた外套の袖を外し、葵に帰るよう促した。



葵はゆっくりと立ち上がると、分かったと言いながらペストマスクを被り、再び人形を引き連れて帰って行った。彼女が小声でありがとうと言ったのは、雪乃達には聞こえなかった。




原因不明の風邪の所為で、投稿が遅れました。

皆様も風邪には気をつけてください。


以上。

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