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16話『宝石の可能性』



《ペリドット》



「…海音⁉︎」



海音は突如として前線に飛び出した。逃走を優先する少女が自ら戦線へ身を乗り出したことに裕仁は驚いた。知り合った頃に比べて、明らかに顔付きが変わっている。これは覚悟を決めた顔だ。



「私が道を開いてあげるっ!」



海音は掌を波を描くように動かし、そして払いのけるように振り切った。


するとどうだろう。


海音の持つ『サファイア』の力によって、大きく角度が食い違い、ペストマスクへと繋がる一本の道が出現した。だが、一度に複雑に捻じ曲げたせいで、その効果は長くは持たないようだ。徐々にだが角度は戻り始めている。ビルを傾けた時もそうだった。やはりどの宝石にも能力の限界はあるようだ。



「よし! 一気に突っきれ‼︎」



裕仁は雪乃に行動を促し、海音が作り出した勝利への経路を駆け抜け始めた。


だが、ペストマスクも黙って見ているわけではない。突如の出来事に狼狽しながらも、周囲の護衛人形の数を増員させた。将棋のような攻めようのない囲いだ。


だが、裕仁は突っ切る覚悟でいた。ここで引けばまた逆戻りだ。攻めてくる人形を相手に凌ぎ合いをするだけだ。海音の開いた活路を無駄にするわけにはいかなかった。雪乃もそのつもりのようで、回転させる足を緩める事はなかった。


しかし、予想外の出来事が起こった。


ペストマスクはその希望の道を逆手にとって利用した。人形の陰から現れた特攻隊員の正体に、裕仁は目を見開いた。



「………剥製⁉︎」



「………猪よ!」



分岐のない道に、最悪の特攻隊を差し向けられた。下顎から上に向かって生える立派な牙。茶褐色の剛毛。間違いない。


裕仁達に向かってきたのは、猪の本剥製だった。剥製は人形に定義させるのか、それとも人形だけを操る異能ではないのか。それは定かではないが、言葉通り猪突猛進で今にも一本道を駆け抜けようとしている。



「ねぇ、裕仁。大きめの傘って持ってない?できればワンタッチで開くジャンプ傘。」



「持ってるように見える?」



「……ですよねー。」



相手は速度は時速40キロを超える猛獣だ。背を見せて逃げ切れる可能性はゼロに近い。もし出会ってしまった場合、刺激を与えないように背を向けず、ゆっくりと後退るのが得策と言われている。だが、猪は威嚇の過程を吹き飛ばし、裕仁達目掛けて強襲してくる。最後の切り札である傘もこの場には存在せず、二人は生命の危機を迎えていた。



……だが、これはいい機会チャンスだ。




「…海音‼︎ 頼んだ‼︎」




裕仁はそう叫ぶと、足を止めることなく猪へと向かって走り続けた。このまま行けば正面衝突も免れないだろう。そうなれば幌車に轢かれたも同然の衝撃が襲うだろう。雪乃もそれは承知している。だが、彼らは退くこともなく、止まることもなかった。



「……了解‼︎」



海音は慌てて返事を返した。



猪の剥製はそんなやり取りは気にも留めず、全速力で襲撃を仕掛けてきた。剥製とはいえ、野生さながらの脚力だ。一度出会ったことがあるが、自動車の原動力に追いつき、突進を仕掛ける様はまさに狂牛だった。




そんな猪に二人が衝突する刹那ーーー。



猪は綺麗に方向転換をした。


二人を避けたわけでもなく、逃げようとしたわけでもない。そして、急激にUターンするような仕草も一切なかった。


勢いを殺すことなく、そして細い路地で方向を全転換する方法は一つしかない。



海音が180度、角度を入れ替えてくれたのだ。



「goodjob!」



思わず裕仁は海音に親指を立てた。


ペストマスクは驚愕したように焦燥の挙動を見せた。表情は仮面で窺えなかったが、仕草で何となく分かった。



ペストマスクは急いで護衛の人形を前へ敷こうと動かし始めた。恐らく盾にする気だろう。今から走っても逃げられないという事を理解している上での行動だろう。


だがそれを見逃す程、雪乃は甘くはなかった。



「……繋げる。」



雪乃は前へ出ようとする人形達の手を繋げて、ペストマスクの逃走経路を塞ぐバリケードと化した。ペストマスクは繋がれた人形の腕に押し出されるように前へと蹌踉めいた。


当然、ペストマスクにも生存意欲はある。周囲に存在する多種多様な人形を寄越して、押し続ける人形達の繋がれた手を破壊しようとした。


だが、人形はあろう事か、ペストマスクの退路を更に囲んで狭くした。



「…何?」



ペストマスクにとって予想外の出来事の連続だったに違いない。




「俺に寄越した人形の数は覚えているか? 悪いが、そいつらは今や全員俺の与えた命令通りに動く人形だ。与えた命令は『死んだふり』……そして次に『囲い込め』と上書きした。」




裕仁は『運動命令の組み合わせ』、そして『上書き』という応用能力を習得していた。


簡単に説明するならば、囲い込むという行動は、「ペストマスクの少し後ろまで歩く」。そして、「近くの人形と手を繋ぐ」といった幾つかの命令によって構成されている。複数の運動を組み合わせる事によって、複雑な運動命令を与える事が可能となった。


そして『上書き』とは、一つ事前に命令を与えておき、それとは別にもう一つ命令を植え付けておく。先に与えられた命令を遂行した後、別に与えておいた命令を優先させるように発動させる。そうする事によって、その場に合わせた臨機応変な対応が可能となった。


『運動力と向きを操る』という『ペリドット』の可能性は無限大だ。どうやら一度に与えられる命令の数に制限はない。プログラミングのように、運動を組み合わせて新たな運動をさせる事ができる。正直ぶっつけ本番で不安だったが、結果は上手くいった。




「こんの…畜生がああああああ‼︎」




ペストマスクは声を荒げ、怨嗟を含んだ声音で金切り声を上げた。加工された音声でも伝わるくらい、奴は切羽詰まっていた。


猪は勢いを緩めることなく、猛烈な速度でペストマスクへと突撃を仕掛けた。


ペストマスクは避けることができず、正面から衝突し、大きく吹き飛ばされた。そのまま抵抗することも叶わず、ペストマスクは建物の側面に強く叩きつけられ、そのまま崩れ落ちるようにその場に倒れ伏せた。


ペストマスクが倒れるのと同時に、人形もバラバラと音を立てて崩れ、糸切れたマリオネットように動かなくなった。



苦戦はしたが案外呆気なく、そして静かに戦闘は終了した。そこに達成感も勝利に対する優越感もない。ただ虚しく息を切らしながら、散らばった残骸の中で倒れ伏せるペストマスクに視線を向けることしか出来なかった。





「あ、私のぬいぐるみ発見!」





そんな中、海音だけが楽しそうに笑っていた。


キャラクター⑦


挿絵(By みてみん)



まだ名前未登場なペストマスクさん。

デザインも最後まで決まらなかった。ってか今も決まってない。


未だ謎多い人。でもぶっちゃけ深い設定は特にない。

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