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13話『海音の縫いぐるみ』


《サファイア》




「ーーー!」



海音の持つ宝石に望まぬ光が灯った。淡く優しい光だが、彼女にとってその輝きは攻め立てるような冷徹な光だった。


ただの不可思議現象ではない。一歩、また一歩と死神が歩み寄って来る足音だ。宝石所持者が、確実に海音に向けて接近しているという証拠だ。そのプレイヤーが敵が味方かなどはこの際関係ない。とにかく、敵と断定する。




海音は急いで雪乃と裕仁の二人に向けて、ヘルプメッセージを素早く打ち込んだ。最近はスマホ一つで複数の人に連絡が届く便利な世の中になった。メールの様に時間差もなく、的確で迅速に伝えたいメッセージを届けることができる。それらのアプリケーションのことをSNSというらしい。


そして海音のネット上の発言に、すぐに既読マークがついた。メッセージを送信した相手がそれを確認すると、“既読”という受け取った事を示す機能も搭載されている。便利な事この上ない。数秒して、裕仁から「了解」の二文字。更に雪乃から「了解」という意図を示したスタンプが送られてきた。つい数分前まで敵対視していた筈だったが、何故か今はとても心強く感じる。スマホの画面を見ながら笑うのは何時振りだろうか。



だが、海音の目線は直ぐに携帯の画面から逸らされる事になった。注目すべき何かが起こったからだ。





海音が持ち歩いていたクマのぬいぐるみが、上目遣いで見上げるようにして、海音の足元に“立っていた”。



「……何…これ?」



何度目を擦っても見間違いではなかった。

疑いようもない。


ぬいぐるみは間違いなく立っていた。


そんな光景を見て冷静でいられる人は果たしているだろうか。確かに最近がサイズ大きめで、動作を行う人形も出来ている。だが海音の持つクマのぬいぐるみは、所謂テディベアだ。動くことも出来なければ、立つことすら出来ない。


だがそのぬいぐるみは、まるで自我を持ったように海音の周りをぐるぐると走り回った後、ふらっと何かに誘われるかのように路地の奥へと進み始めた。海音は思わず声を上げた。



「……待って!」



呼び止めてみるも、ぬいぐるみに言葉は通じなかった。期待はしていなかったが、もしかしたら待ってくれるのではないかと密かに思っていた。それどころか、まず聞こえているかすら分からない。


縫いぐるみは海音の声に反応することなく、千鳥足で先へと進んでいった。



海音も急いで追いかけることなく、一定距離を保ちながら、足音を立てずに慎重に追跡した。直ぐに捕まえても良いのだが、海音はそうはしなかった。



何故なら、ぬいぐるみが囮、若しくは罠だという可能性があるからだ。





少し考えすぎかも知れないが、警戒する事に損はない。未だ見えぬ相手の異能が、ただぬいぐるみを動かすだけとは限らない。可能性は幾らでもある。





例えば、ぬいぐるみで狙撃ポイントまで誘導。


例えば、ぬいぐるみを掴んだ瞬間爆発。


例えば、ぬいぐるみに気を取られている隙に背後から奇襲。



可能性は意地悪で、悪い方向に無限大だ。

ここは忍耐強く様子を伺い、無意味なまでに警戒しながら進むべきだ。きっと雪乃だってそうするだろう。





暫く海音はぬいぐるみと付かず離れずの距離を取りながら、壁に背を当てて尾していた。相変わらずぬいぐるみは蹌踉めきながら不慣れに歩いている。だが、入り組んだ路地の四つ角に突き当たっても、縫いぐるみは迷う様子もなく一点へと足を進めていった。当ても無くふらふらと浮浪している訳ではなさそうだ。


しかし、何かがおかしい。


海音は、何処かに小さな違和感を抱いていた。



「おかしい……。何故、敵から何かしらのアクションもない?」




海音は唾を飲み込んだ。



「もうかなりの距離を歩いている…。私を攻撃するチャンスはいくらでもあった。」



海音は縫いぐるみの後を付けながら、一度全ての可能性を捨て去り、新たに考察を始めた。


これはあまり深く考えすぎない方が良い気がする。恐らく相手も熟考していない。


よくよく考えてみれば、宝石の効力が及ぶ範囲から考えたならば、犯人は狙撃などといった遠距離攻撃は出来ないだろう。海音自身、見えない場所の角度は操れない。当然敵にも異能の範囲が存在するはずだ。だが、範囲内の隅の方に拠点を構えていれば、縫いぐるみの一つ程度なら操れ無いことも無いかもしれない。もしそれならばクマのぬいぐるみのよちよち具合にも納得がいく。


だが、いくら視界の開けているであろう場所を通過しても、一切の接触が無い。もし相手が狙撃を狙っていたのならば、撃つ機会なら何度もあっただろう。だが、撃たない。だったら、狙撃の線は薄いだろう。


縫いぐるみが爆発なんてのもかなり無いに等しい可能性だ。もともとあれは海音の縫いぐるみだ。敵が用意したとなれば話は別だが、海音の知らぬ間に細工というには少し厳しい。だったら考えなくても良い可能性だ。



ならば消去法で残ったのは、単純にぬいぐるみは海音を釣るための誘惑物だ。



もしそうだった場合、ぬいぐるみの進路の先に、宝石の所持者がいる事になる。縫いぐるみが迷わずに道を進むのも、誘導を受けていると言えば納得できる。


これでかなり推測はできた。相手の宝石の力は、『人形や縫いぐるみを自由自在に操る』というものだろう。



海音の勘ぐっていたような罠や仕掛けは存在しなかった。


クマの縫いぐるみは、海音を誘き出すための餌に過ぎなかったのだろう。







そんな疑念は、ぬいぐるみに誘われるまま追蹤し、可能性は慥かになった。






海音は罠の蓋然性が非常に低くなった瞬間、ぬいぐるみを引き止めるべく急駛した。




「…捕まえなきゃ!」




だが、一足遅かった。





縫いぐるみが角を迂曲した刹那、海音の目に飛び込んできたのは『人形達の兵隊』だ。


マネキンにぬいぐるみ、日本人形から西洋人形、蝋人形や木偶・・・。


種類は様々だが、夥しい数の人形が軍兵を成して、一人の人間に付き従っていた。



いや、奴は人間なのだろうか。



兵隊の一番手前に、奇妙なペストマスクを被り、全身黒尽くめの恐らく人間が堂々と立っていた。顔も性別も分からない。髪型も深くフードを被られた所為で見ることが敵わない。身長もブーツで底上げし、体型も黒色のローブの所為で判断の材料にはならなかった。



そんな奴を見た海音の感想は、一言だ。



「不気味な奴だ。」



この格好で、そしてこれだけの人形を連れて此処まで歩いて来たのだろうか。もしそれならば既に正気は無いのかもしれない。周りの視線が痛いくらい目立って仕方が無いだろう。最悪の場合、通報されてもおかしく無い。



「私のぬいぐるみ…‥‥返してくれない?」



海音は中央にいる黒尽くめの奴を睨みつけた。顔が見えない分、相手の表情や感情が窺えない。果たして嘲笑しているのか、それとも殺気に満ちているのか。高慢な顔をしているのか、警戒する色を見せているのか。まるで分からない。



海音にとって、全ての情報を遮断されたに等しい。情報を得られないというのは、言葉にできないような惧れだ。


恐怖心が海音の神経を牛耳ろうとする。

だが、ここまで来て折れる訳にはいかない。

震える足を気合いで抑え、海音は再びペストマスクに鋭い双眸を向けた。



「“Hey I'm sorry,” …残念だが、このぬいぐるみはもう私のものなんだ。」



ボイスチェンジャーで加工された声は、海音の耳に冷たく突き立てられた。それに取って付けたような英語。発音も確実に日本語読みだ。何もかもが作り物で偽物、人工物のように感じられた。




…………雪乃と裕仁の到着まで数分。





「ならば……取り返すしかないようね。」




それまでの間、死なないように上手く立ち回るしかないようだ。





「……損な役回りね。でも、時間稼ぎって少年漫画とかで少し憧れていたのよ。」










没キャラ案①


挿絵(By みてみん)


実は話の筋を考えるより、先に落書きでキャラを考えてます。この中で唯一採用されたのは雪乃さんでした。



こういうのも、色々投稿していけたらなーと思ってます。


後、文章で分かりにくいなと思ったところにも、落書きでちょっとしたイラストでも入れようかなと思ってます。



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