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まいったね、こりゃ 1-10

不定期更新になるとはこれいかに・・・むごごごごご

とは言え、次回投稿はそれなりに先になので年内では最後の投稿になりますね

ではでは、第10章が始まりますよ~

 第10章 作戦


「ぐぬ~」

「どうした?艦長」

 いつもの様に30隻以上もの輸送船団の護衛をしている最中、シフトで艦橋にいた俺は珍しく頭を悩ませていた。そんな俺にミッチャーが反応したので、俺はこう答えた。

「いやさ。ちょいと前に、クルスクの人攫いにあった娘達を助けたじゃん」

「おう」

「その時に、他の助けられなかった行方不明者の情報をオムレス宙佐に渡したやん?」

「あぁ、渡してたな」

「その中継している惑星がわかったから、そこを襲撃してほしいってオムレス宙佐からの依頼が来たわけさ」

「場所はどこだい?」

「要塞惑星ミルヒクー」

「・・・はあ!?あの惑星を襲撃しろって!?」

 ミッチャーが驚くのも無理はない。要塞惑星ミルヒクーと言うのは、ランキング83位の海賊ギャレンが率いるブラック・クロウの本拠地だからだ。しかもその海賊団、保有している戦闘艦は優に2000隻を超え、少マゼラン王国の中でも屈指の数の多さを誇る。更にその数の多さに加え、戦闘艦の性能も少マゼラン王国の正規軍の一般的な戦闘艦を超えているため、同じ数での戦闘ではまず負ける事はない。

 その事を知っているため、ミッチャーは驚いたのであって艦橋にいたクルー達もざわついている。

「・・・で?艦長はどうするんだい」

「ん~。なるべく早く行うように、とは書いてあるが期限は書かれてないからまずは情報収集かな?」

「それで勝てるような相手ではない、とわかったら?」

「丁重にお断りするかな。クルーの命はお金には変えられないから」

「・・・それを聞いて安心したよ」

 ミッチャーや艦橋にいるクルーは一安心しているが、今の俺の脳裏にはもう一つ悩みがあった。

 それは・・・

「ヴァレリ、お金の方は大丈夫かい?」

「正直言ってカツカツだわ~」

 そう、艦隊が所有しているお金のやりくりがかなりしんどくなってきているのだ。

 理由としては、ここ数週間の間に大きな戦いや依頼が発生しておらず、あったとしても今行っている輸送船団の護衛や小規模の海賊退治などである。そのため、費用対効果が悪く、このままでは白鯨艦隊は解散するハメになる。

 艦長、いや軍艦のコアとしてそれだけは避けたい。せっかく会えた仲間達だと言うのに、こんな情けない形で終わらせたくないのだよ、ワトソン君。

 という訳で、輸送船団を送り終えたばかりの足で少マゼラン王国の中でも大きい部類に入る惑星、タウロスの地上部分にある酒場に向かったのである。


~~~~~~


「はぁ、困った」

 酒場にきたが、ブラック・クロウズに関しての情報がこれといっていい物はなかった。いや、情報は収集できたのだが攻略法がわからない、と言ったほうが正しいな。

 性能自体では、こちらのほうが勝っているが向こうは数の暴力で対抗できる上、惑星そのものを強力な防衛システムで囲っているため、なんとか敵の艦隊を突破できてもその先で相当な損害が出る。

 だから、攻略できずに困っている。せめて、きっかけさえ掴めれば話は変わってくるんだが。

「ここ、いいかい?」

「ん?」

 声を掛けられたため、視線を声のした方に向けるとそこには妙齢の女性とイケメンな少年が立っていた。

「席なら他の所が空いていますよ」

 そう。今の時間帯の酒場は空いていて、二人組なら十分に隻の確保はできるはずだ。

「席ならな」

「・・・どうぞ」

 その答えで、俺は2人を席に座らせる事にした。ゴネると将来的に色々と面倒になるし。

「それで何の用だい?こっちはあまり時間がないんだ」

「その割には随分と座り込んで、眉間にしわが入っているようだね」

「・・・本題に入りな」

 どうやらこの女性、前々から俺の艦隊に接近しようとしていたみたいだ。だから俺は遠回しな言い方ではなく、直接聞く事にした。

すると、

「フィレンツェ共和国で初の艦船を持ち、当時の皇帝を抹殺。その後、各地を転戦し、つい最近ではスカーレル海賊団を壊滅させた白鯨艦隊の艦長ミーナ、だな?」

「そうだとすると、どうするんだい?」

「あんたに協力を仰ぎたい」

「協力?」

 どうやら、保安局の類いで来た連中とは違うらしい。だからと言って、警戒してよく身振り手振りを観察していこう。この手の話は別段珍しい話ではなく、Aという邪魔な存在を消すためにBとCが手を組んだり、Bを利用してAとBを消耗させてから、Cが両方とも消すやり方がある。

 彼女達の話を聞くと、どうやら前者のようではあるがね。


 30分後


「なるほどね。オムレス宙佐から例の依頼が来たから私の所に来た、と」

「あぁ、正直言って私らだけでは分が悪いんでね」

 話を聞いて、少なくともトスカという妙齢の女性は嘘をついている、という感じではないな。この世界に来て半年以上、いろんな人物と接してきた経験ではあるが、俺が逆の立場だったら嘘をつく理由がない。

 トスカが連れてきたユーリという美少年の艦隊は、巡洋艦が1隻、駆逐艦が4隻の小規模の艦隊で装備や船体は少マゼラン王国の標準的なものだ。

 対して俺らの艦隊は、戦艦や空母などを揃えて120隻という大規模艦隊に加え、大マゼラン帝国に戦争を吹っかけても同じ数での戦闘では、互角以上の戦いをできる装備を持っている。

 そんな奴らと戦ったらどっちが勝つかは、子供でもわかるレベルだ。まぁ、バックにでかい組織があってユーリの艦隊を攻撃したら逆襲される、とかだったら話は変わってくるがね。

「話はわかった」

「じゃあ・・・」

「だが、こっちからも質問をさせてくれ」

「質問?」

「あぁ」

 正直言ってこの話、タイミングが重要になってくる。つまり、1つタイミングがずれると全てが台無しになって失敗してしまうんだ。

 失敗した事が、失敗しちゃったねアハハー、で済めばいいが、多少の損害が出るようなら話は別だ。

 だから少し意地悪な質問をした。

「こんな依頼を受けちゃったユーリ艦長は、私達の艦隊に何をもたらしてくれるんですかね」

「それは・・・」

「私達は慈善事業でやっているんじゃあない。やるからにはそれ相応の対価を求めるよ」

 俺がそう言うと、ユーリ少年は俯いて考え込んだ。そして少ししてから覚悟を決めた顔で、

「今はまだ対価を払えません。しかし、必ずやそれ相応の対価を払います。だからお願いします!手伝ってください!」

 やれやれ、決意に満ちた顔をされるのは苦手なんだよなぁ。自分の目的が達成できるなら、あらゆる犠牲をも厭わないっていうかさ。軟弱で臆病な俺とは正反対だな。

「わかった、協力しよう」

「!ありがとうございます!」

「ただし!そう簡単に返し切れると思うなよ?」

「うちの艦長を舐めるんじゃあないよ」

 俺が怪しくにやつくとトスカが笑って返した。

 その後、どういう風に攻略するか、について打ち合わせをした。


~~~~~~


「で?ここで落ち合うって話か」

「あぁ。彼女の話ではここをよく使うって事だ」

 俺達がいるのは、小マゼラン王国と要塞惑星ミルヒクーの中間に位置する宙域でスターダストと言う。なんだかメルヘンチックな名前ではあるが、実際にはもともとあった惑星が何かしらの力で粉砕されてできた宙域らしい。

 らしい、というのは人類が初めてここに来た時にはすでに粉砕されていたようで原因はいまだにわかっていない、との事だ。

 そんな宙域に2時間前に到着した白鯨艦隊とユーリの艦隊は、そこらじゅうにある隕石群の物陰に隠れて獲物が来るのを待っている状態である。

「艦長。彼女らの話、信じているんですか?」

「というと?」

「正直言って、あの艦隊の言うことは信用できないんです」

 艦橋クルーが疑問に思うのは当然だ。なぜなら、ユーリの艦隊の名声ランキングは12,572位で、これから来るはずの獲物の名声ランキングは26位。普通ならスルーされて終わりである。

「・・・ウォルフの言っているのは確かだが、1つ見落としがあるぞ」

「というと?」

「彼の艦隊に乗っているのは“打ち上げ屋”のトスカだ」

「打ち上げ屋のトスカってあの!?」

 打ち上げ屋と言うのは、宇宙船を持たないで地上で生きる者達に宇宙船を持たせ、0Gドッグに迎える奴らの事をいう。トスカという女性は、その中でも優秀だ、という噂が立っていた。

「あぁ。しかも副長として乗っている。となれば、少なからず無視はできない存在なはずだ」

「しかし、それだけで本当に止まってくれるんでしょうか」

 そう不安そうに言ったのは、レーダー手のルナだ。

「大丈夫だ、ルナ。いざって時は、こっちからもカードを切るさ」

 今回の獲物はサマラ、という海賊団で、小マゼラン王国で違法行為のしまくっている海賊団だ。そのため、エルメッツアにいるオムレス宙佐に頼み込んで特例を出してもらうようにしてもらった。

 今頃、オムレス宙佐は大変な作業に追われていると思うが、人の艦隊を動かすんだからそれ相応の働きをしてもらわないと釣り合わないと思っている。まぁ、それで胃に穴が空いたらごめん、という事で。

「!味方哨戒機からの報告!」

 通信手であるポプリが、白鯨艦隊から射出した哨戒機の通信を傍受した。

「読め」

「目標艦艇を補足。戦闘中の模様」

「戦闘?相手の方は?」

「どうやら軽巡のようです」

 やれやれ、こんな所で妨害か。その後、多少の様子見をしていたが、軽巡の方がボロボロになり始めたので仲裁に行くとしよう。

「ユーリの艦隊にもそう打診してくれ。あのままでは話しにならん」

「わかりました」

 その後、仲裁に入ったら軽巡の艦長であるギリアスと名乗る少年から逆ギレされるし、獲物は逃がすしで散々だったよ。


~~~~~~


「はぁ~、疲れた」

「お姉ちゃん、お疲れ~」

「ははっ、お疲れ様です」

「まぁ、それが艦長の役目さ」

 ミッション失敗後、俺達はスターダストに10隻以上の巡洋艦を残して近場の惑星で小休憩を取っていた。

「しかし凄いですね。白鯨艦隊、というのは」

「ん?」

「指示1つで艦隊が生き物のように動いていましたよ」

「あれは凄い連携だったね」

「まぁ、あれは色々とやってますからね~」

 まぁ、今までに色々やってきたがここで一言で表現しろ、と言われても困る。だから曖昧な返事で返した。

「しっかし、私も長く打ち上げ屋をやってきたがあんたらの艦隊は最近知ったね」

「そりゃ、最近結成しましたからね」

「・・・あんた、あれだけの艦隊をどうやって集めたんだい」

「そいつは企業秘密ですね」

「ふーん」

 0Gドックで長くやっているせいか、トスカさんが遠回しをせずに艦隊の核心に聞いてきたが、そいつだけは口が裂けても言えないぜ。

 それに、そんな雰囲気の変化を感じ取ったのか、トスカは何も聞いてこなかった。そこから察するに、言いたくない内容に関してはあまり聞かない方がいいかもしれない。不用意に知ってしまえば文字通り、消されても文句は言えないからね。

 それはともかく、ここで内緒にしてもいずれはばれてしまうため、その時はその時で対策や対応をしていこう。

「それはそうと、あのギリアスってやつはどう思う?」

「あぁ、あの無謀な戦いをしたやつか」

「僕としては、変な奴にしか思えませんでしたが」

「お姉ちゃん。一応調べてみたんだけど、どうやら11,576位の人らしいね」

 ・・・どうやら今までずっと無口だった妹は、携帯端末でギリアスの名声ランキングを調べていたため、会話に入れなかったらしい。とはいえ、ナイスタイミングだ。

「えーっと、どれどれ。うわっ」

「どうしたんだい?」

「この人、ずいぶんと無茶しているよ。見てみ」

「どれどれ」

 俺がその携帯端末をトスカたちに渡してみると、

「うわ、大物ばかり狙って返り討ちにされまくってるじゃん」

「それでよく生き残っていますね」

「単純に相手にされてないだけかもしれないねぇ」

 結果だけを見てみると、単純に力負けしているだけだが、何かしらの目的があるんじゃないかな。つい最近だって、奇妙な撃沈艦を見つけて意味深な映像を発見したばかりだし。

「それはそうと、ミーナ」

「ん?」

 俺が考え事をしていると、トスカが真剣な表情で俺を見てきた。

「あんたの所で妙な船を見かけなかったかい?」

「妙な船?」

「あぁ、撃沈された船なんだが、その傷跡がそれまでの撃沈艦とは違うんだ」

「ほう」

「気になった知り合いが船内調査をしたんだが、肝心のブラックボックスがない」

「めずらしいな」

「だから、誰かが持ち出したんじゃないか、と思ってあんたに聞いたんだが」

「聞いてどうするつもりだい?」

「小マゼラン王国に注意を促すんだ」

 あぁ、この人はユーリとは違うがよく似ている。自分の使命に燃えてはいるが、これはダメなパターンだ。だから俺は、やや真面目な顔をしてこう言った。

「例え、そのブラックボックスの内容を知っても、自分たちの経験からの憶測からは出られんよ。彼らは」

「・・・!!」

「それってどういう事ですか?」

「お姉ちゃん・・・」

 ユーリ少年だけは話についていけていないのか、頭の上に?マークを浮かべていたが、トスカは俺の言葉に顔をゆがませる。それは俺達がブラックボックスを見つけ、データを抽出して見た結果を物語っているからだ。

 俺は、彼女がどんな過去を持っているからはわからないが、それが報われない事だけはわかる。それは最早、この世界に来る前に小説やゲームに接してきた俺だからわかる事だ。

 だから俺はこう言った。

「自分の信念に燃え、行動するのはいい。何もしないよりかはマシだ。だが、それは時と場合による。今の私や君ように」

「まるで、見てきたかのような言い方だね」

「まぁ、伊達に20年ちょい生きてきた訳じゃないからねぇ」

 俺の言い方に、トスカはちょっと呆れたような顔をしながらもその思いは、自分の中で反芻するかのようにも見えた。

 そんな話をしていると、スターダストに残してきた巡洋艦から連絡がきた。

「なんだって?」

「どうやら獲物が見えたらしい」

「早いな」

「それだけ彼女が頻繁に使っているのと、うちらの哨戒機の精度がいいんだ。行くよ」

 俺らはこの報告を受け、勘定を済ませてからすぐにそれぞれの艦艇に向かった。


~~~~~~


「索敵の範囲を広げておいてよかったですな」

「あぁ、おかげで気付かれる事なく艦隊を配置できた」

 まぁ、スターダストの近場だったし、何よりつい最近になってようやくステルスモードにできる装置が開発できた事がでかい。

 今までは、電波妨害装置によって敵のレーダーを潰す事しかできなかったが、これによって不用意に接近したり、戦闘宙域に入らなければ気づかれる事なく艦隊を進める事ができるようになった。無論、宇宙港に入る時なんかはステルスモードを解除しないと使わしてもらえないが、それを補って余りある利益が見込める。

 さすがは技術班、そこに痺れる、憧れるぅ!


 ・・・それはともかく、今は目の前の事に集中だ。

「目標艦艇、スターダスト宙域に進入」

「檻の中に入るまで下手に動かないように各艦に厳命」

「各艦、了解との返信あり」

「艦隊、各艦のバッテリーは正常値のままだ。後、半日は持つ」

「ユーリの艦隊はうまくやってくれるでしょうか」

「今は祈る事ぐらいしかやる事なはない、な」

 艦橋クルーからの報告を聞きながら、俺も同時並列的に確認していく。こういった場面で、1つのミスでまたもや獲物を逃してしまうと、今度はこのルートを使わなくなるかもしれないからだ。だから、慎重すぎるぐらいがちょうどいい。

 そんな訳で、待つ事30分。本来だったら、10分程度で突っ切ることができる宙域をここまでゆっくりと進んでいるのは先日の事件の結果だろう。

 そして、獲物が檻に入ったのを確認して、

「くぉらぁあああ!サマラ!あん時の貸しを返してもらおうか!」

 とまぁ、白鯨艦隊の旗艦である俺が出たのを確認してからトスカが叫び、それと同時に俺達の艦隊が順々に出る。その配置は、味方に対して流れ弾が当たらないようにしつつ、的には確実に当たるような形にしてみた。

 言わば包囲殲滅戦をイメージした訳だが、実際に殲滅するのは動力部だけだな。じゃないと、作戦もへったくれもなくなってしまう。

『その声と下品な言い方、トスカ・エリミナだね』

「そうさ、あんたとサシで話したくてね」

『わかった、私の艦の左舷に接舷させろ。後、周囲を囲んでいる艦隊を黙らせろ』

「あいよ、ミーナ」

「わかった~、すぐ行く」

 話がすぐにまとまってよかったぜ。

 まぁでも、トスカとサマラは昔、一緒に仕事をしていたからその信頼があっての事だろう。今までに収集したサマラの噂は、冷血無慈悲で夜の女王なんて言われている。そのため、自分の利益や知り合いなんかがなければ取り合ってくれさえしなかっただろう。

 それに、実際に会ってみないとわからないが、結構な迫力なんだろうな。俺もふんどしを締め直さないと。ふんどしはないけど。

 その後、艦隊はそのままで白鯨艦隊の旗艦を左舷に接舷、接続ハッチの連結を確認してから、トスカを連れてその場所に向かった。


「あんたが白鯨艦隊の艦長だね?」

「あぁ、そうだ。白鯨艦隊艦長、ミーナだ」

「ふん、サマラだ」

 お互いの自己紹介が済むと、サマラは俺を見定めるようにガンを飛ばしてきた。

 かなり用心深いのか、部下である浅黒い肌と白い髪の長身猫背の男を先にこさせて、確認してから彼女に道を通すようにしていた。いや、寧ろこっちのほうが正常なのか?ふーむ、もう少し用心すべきだったな。

 それはともかく、彼女の雰囲気は歴戦の戦士としての迫力がすごく、普通の人なら女王様と言いながら跪くだろう。実際、昔の俺だったらそうしていた。だが、ひよっこではあるが俺もそれなりの修羅場を乗り越えてきたんだ。多少なりとも、艦長の維持を出さなければ。

「ふぅん。トスカ、随分と変わった趣味に走ったな」

「あー、違う違う。本当は別の船に乗っているのさ」

「そうですね。彼女は実際に、別の艦艇の副長さ」

「ふん、それはまぁ、どうでもいいさ」

 どうでもいいって言われてるぞ、ユーリ艦長よ。

「それより、私に話があるんだろう?」

「あっ、はい。しかし、ここでは何ですから会議室に案内します」

「わかった、案内されよう」

 しかし、随分と余裕があるな、この人。いや、余裕があると思わせて実際にはすぐにでも頭を撃ち抜ける用意ができていたりして。・・・実際にありそうで怖い。

 そんな訳で、夜の女王サマラとその副官を会議室に案内する事にした。


~~~~~~


「話は分かった」

 こっちの一通りの内容を話すと、サマラは少し考え始めた。

 こっちが話した内容とは、要塞惑星ミルヒクーの防衛システムをダウンさせるために協力をしてほしい、というものだった。

 この事は小マゼラン王国としても死活問題であり、この要塞惑星を放置しているとオムレス宙佐達がいる宙域と小マゼラン王国の首都がある宙域が分断され、その間を行き来する海運が壊滅する危険性がある。しかし、海賊相手とはいえ、ブラック・クロウの艦艇は強力である上に鉄壁の防衛システムがあるため、手出しができないのだ。

 そのため、オムレス宙佐達は俺達を介して、サマラの協力を得ようとしているのだ。

「で?私が協力する対価は何だい?」

「エルメッツァ軍の幹部によれば、小マゼランでやった今までの犯罪行為をすべて特赦するってさ」

「ふぅん、どんな手を使ったんだい?」

「まぁ、コネでちょいとね」

「はっはっはっ、新入りの癖にやる事は豪快だね」

「はぁ、どうも」

 どうやら、俺がやった事がツボに入ったらしい。数分の間、爆笑された。

「ふっふ、それはともかく。私がそれで協力すると?」

「してもらわないと困るねぇ。じゃないと、こっちはその先の宙域に進めない」

 そう、このあたりの海賊のほとんどを“金のなる木”に変えたため、やる事といえば運送業ぐらいしかない。だが、それではコストがかかりすぎて割に合わないから新天地に行かないといけない。

 だからこうやって、話し合いのテーブルに無理やり座らせた訳だ。

 それに彼女は、こっちの話を突っぱねることをせず、むしろこっちの出方を試すような事をしている。ならば、こっちは打って出ないといけないような気がしたのでそうした。

 すると、

「ふっ、考えてやらなくもない」

「お嬢!本気ですかい!?」

「ガディ、ミルヒクーに入るチャンスだろう?」

「あ~、なる」

 サマラと長身猫背のガディとのやり取りで、俺はおおよその事を察した。要塞惑星ミルヒクーを運営していたは意外にもエルメッツァ軍であった。だが、一部の将校がそれまでの弱小海賊であったブラック・クロウに寝返ったため、主導権はブラック・クロウに移ったのだ。

 そして彼女の表情を察するに、ギャレンとサマラの間には何らかの確執があったとみた。だから、こんな突拍子のない提案に乗ったのだ。

「では、話がまとまった所で、保安局に来てもらえますかね」

「じゃあ、私はそこまで同行し、そこで逮捕された、という事にしてくれそれが私からの条件だ」

「はいよ」

 サマラがそういうと、ガディさんは彼女が乗っていた艦に戻ろうとした。彼女が乗っていた艦、エルトロントと一緒に行くと、そこで軍に拿捕、没収になるからな。抜け目がないぜ。

「まぁ、こんな艦で悪いが、目的地まではゲストとして歓迎します」

「あぁ、歓迎されよう」

 こうして、サマラがゲストとして乗艦した事で、備蓄されていた酒類の8割が一晩で消えたのはいい思い出になるだろう。


~~~~~~


 艦隊ネットワーク内 VIPエリア


「また、ミーナが何かやらかそうとしている」

 最初に口を開いたのはミズーリだった。

 いつものように、いつものメンバーでVIPエリアで会合している上、今回の事の概要を戦術ネットワークにアップロードしているので、おおよその予測はついているのだろう。

「全く、あなたという人は何度言えばわかるんですか!?」

「寧ろ、ティアこそ俺がこういう奴だってわからん方が不思議だなぁ」

「私は貴女の事が心配で注意してるんです!」

 前回の口移しの件でだいぶおとなしくなったが、今回は襟元をつかまれて前後左右に揺さぶられている。ネットワーク上だから俺は平然としているが、この揺さぶり行為、生身の人間では危険なほど高速でやっているのだ。全く、どこぞやの嫉妬姫の如くものすごく嫉妬のオーラを出している。

「ティア、やりすぎるとまた口移しするよー?」

「・・・っ!!」

 俺がそう言うと、すぐにやめてくれた。流石に、頭を揺さぶられ続けるのは精神的にきつい。

「全く、うちの妹はどうしてここまで俺に対して厳しくなったんだか・・・」

「ミーナ、それ、本気で言ってる?」

「いいや、全然」

 俺が冗談を言っていると、ティアの目線がきつくなる。

「てか、なんでミーナはそんなにティアをいじめるんだ?」

 そんなやり取りを見て、末っ子のレナウンは疑問を俺にぶつけた。まぁ、普通はそうなるわな。だって彼女達は元々、人格を持っているとはいえ、戦闘艦としての考えが強い。そのため、どうしてもそこから越えた考えとかはすぐには理解できないようだ。

 とは言え、だからといって馬鹿ではないため、ちゃんと説明すればそんなもんか、と思うのだ。

 だから、

「ほら、よく言うじゃん?好きな子には意地悪したくなるって」

「なっ!?」

「そういうものなのか?」

「そういうものです」

 俺がそう言うと、ティアは顔を真っ赤にしてレナウンは神妙な顔をして納得した。

 それで一件落着、と行きたかったんだが、

「な、な、は、破廉恥です!旗艦ミーナ!貴女はそんな目で私を見ていたのですか!?」

「そんな目って?」

「そ、それは・・・。そ、そう!淫らな感情を持った人間のような目です!」

「ふーん。つまり、ティアは真面目な顔をして実は、物凄い変態な思考を持ってたり?」

「な!?なんでそうなるんですか!?」

 ふーむ、そういういじり方もあるのか。でも、やり過ぎると話がこじれるしなぁ。まぁ、彼女の様子次第だな。

 俺はそう思いつつ、話を進める。

「いや、だってねぇ。そういう想像をしちゃったんでしょう?」

「た、確かにそうですが・・・」

「何を思うかは個人の自由だが、うちの妹が変態だって事、みんなに知られたくないなぁ」

「うっ・・・」

 俺が残念そうな顔をしながらそう言うと、ティアは少し冷静になったのか、もじもじし始めた。

「ふむ。なら、これならどうだろう」

 ミズーリがそう言うと、データを秘匿モードでアップした。データの容量からこれは・・・マンガか?

「なっ・・・!?」

「あー、これかぁ」

「ほう、これはすごいな」

 それは、大人向けのマンガだった。そしてそれは、女性同士が絡み合う内容だった。

「ミズーリ!会話を聞きながら、こんなのを検索していたのですか!?」

「だって、話の流れからこんなのがいいのかと・・・」

「ふーむ。この場合、どっちが受けでどっちが攻めなのだろうか・・・」

「レナウン!?何を言っているのですか!?」

「話のネタにはなるだろうが、自分がその主役になるのは嫌だな」

「ミーナまで!」

 俺はともかく、ティアは口では嫌がっているが内容には興味があるようで、さっきからパラパラとページを捲っている。

「ふむ、ティアが興味津々だから今度4人でやるか!」

「え!?」

「だ、大丈夫なのか?」

「ふーむ、色々と問題になりそうだな」

「まぁまぁ、そう激しくしないから大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないから言っているんですー!!」

 俺がティアにそう言うと、ティアは頭から湯気が出そうな勢いで俺に叫んだ。それを見たミズーリとレナウンは、勢い良く笑った。


 こうして、和気藹々とした時間が今日も流れていく。俺はこんな時間をもっと大事にしたい、という思いを胸に話題を振っていく。

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