まいったね、こりゃ 1‐9
第9章 反乱
「いやぁ、助けてもらって申し訳ない!」
〝俺達”が人形の体のなった翌日、廃墟で見つけた老人が目を覚ました、との報告を受けた俺は医務室の一室に何人かの艦橋クルーと共に、その老人といた。
「廃墟の一室で、あなたが倒れていた所を見た時は驚きましたよ」
「いやはや!あの時は空腹でどうしようもなかったのじゃ」
どうやらこの老人、好き好んであそこにいたわけじゃないらしい。まぁ、当然だわさ。あんな廃墟、俺だったら速攻で他の所に移住しているよ。
「ところで、ご老体。名前と職業を聞いてもいいかな?」
「その前に、そちらから名乗るのが礼儀じゃないのかのぅ」
「おっと失礼」
本題に入る前に名前を聞こうとしたら、指摘されてしまった。まぁ、当然と言えば当然だが口調や見た目に限らず、結構元気だな、このおっさん。
「白鯨艦隊所属、旗艦ミーナの艦長、ミーナです」
「研究者のジュロウ・ガンじゃ」
「ジュロウ・・・だと・・・!?」
同席していたクルーの中で一番驚いていたのが、何を隠そうサナダだった。
理由としては、ジョウロ・ガンという人物が研究者でありながら〝パンドラの箱”の研究で第一人者である。未だに解明されていない部分が多い中、解明した範囲は今までの4割を超えた研究者である事から、その分野で超有名な人物だ。
そのため、技術者であるサナダにしてみればすごい先生であり、生涯で一度は講義を受けてみたい人物じゃないだろうか。といっても、俺は技術者じゃないからそこら辺はよくわからんがね。
「ジョウロ先生!」
「ん?」
「白鯨艦隊の技術班、班長のサナダです。あなたの本である・・・」
「あぁ、あれはのう・・・」
とまぁ、俺が聞きたい事をそっちのけで二人で盛り上がってしまった。
「艦長」
「何だい?ミッチャー」
「いいんですかい?二人で盛り上がらせて」
「仕方ないでしょう。彼にとって、その道の師匠みたいなものなんだから」
この世界に来て半年ぐらいしか生きていない俺にとって、そういった人物はまだいないが元の世界で憧れていた先輩は何人かいた。なんていうか、ずっと昔のような感じだ。それだけ、充実した日々を送れているんだろうけどな。
それはともかく、この2人を放置していると1時間でも2時間でも話し込んでしまうため、こちらの要件や彼の要求などを話し合う事にした。じゃないと、話が進まないしね。
「なるほど。お金がなくてあそこにいた、と」
「そうじゃ。捨てていったやつら、お金にならない老人に住ませる場所はないと言って、はした金で置いてけぼりにしあったのじゃ」
「許せませんね」
サナダの言う通り、無駄飯ぐらいの老人研究者とはいえ、高名な研究者だ。道の途中の惑星に降ろすとしても、ある程度の便宜は図るべきだと思う。まぁ、サナダと同じように彼からマッドサイエンティストのにおいがするから、それに嫌気がさして捨てた可能性があるがね。
「今となっては、それはもういいんじゃ。ところで艦長」
「何でしょう?ジョウロさん」
「この艦隊には、知らないものがたくさん使われておるのう」
「えぇ、うちの技術班が好き勝手にやらかした結果です」
「好き勝手って、艦長も共犯じゃないですかぁ」
サナダが声を上げるが、否定している訳ではない。そこに興味があったのか、ジョウロ氏は乗り出しながらこう聞いてきた。
「わしもその班に入れるのかの?」
「いくつかの条件を呑めるんだったら、大丈夫ですよ」
「頼む!わしもその班に入らせてくれ!」
彼は、頭を下げてそう言った。無論、こっちとしてはそれを拒否する理由はないし、マッドサイエンティストが一人ぐらい増えたって大した事はない。寧ろ、優秀な人材はこっちがほしいぐらいだ。
「頭を上げてください、ジョウロさん」
「で、では!」
「えぇ、いいですよ。ただし、条件があります」
「条件?」
「はい。一つ目、艦長である私の命令には基本的に受け入れてもらう事。その命令は無理だ、と思ったら断ってくれてかまいません。二つ目、研究開発で無断で他の部署のクルーを巻き込まない事。他の部署と共同でやりたいならば、事前にその概要を私に報告する事。それが無理のない範囲であれば、基本的に許可します。三つ目、他の部署の予算を勝手に流用しない事。技術班の予算はしっかりと出していますので、それを超過しそうな場合、随時報告してください。こちらで調整します。これらを守っていただければ、乗艦を許可します」
「そ、それだけでいいのか?」
「えぇ」
「わかった、飲もう」
こちらが提示した条件を聞くと、ジョウロ氏は即決して乗る事になった。マッドサイエンティストがまた一人乗る事になったため、ヴァレリにドヤされそうだ。後で、メイド服で紅茶でも持っていくか。彼女は無類のメイドが好きだからな。
それはさておき。
ジョウロ博士を艦隊クルーにしてから1日半後、束の間に休息を経た俺達、白鯨艦隊は出港準備に取り掛かっていた。
惑星テロスに到着したのが3日前で、その日のうちに輸送している荷物の一部を卸す作業を行っている間にジョウロ博士を回収した。なぜ3日も滞在していたかというと、彼の意識が戻ってから体に異常がないかの精密検査をするのに半日掛かったのと、原則として一つに宇宙港に滞在するのは3日までと決めているからだ。
乗員たちもその事を理解しているため、その期間内で思い残しの無いようにしている。もっとも、少マゼラン王国に隣接しているとは言え、特に大きな見どころがない宙域のため、暇を弄んでいたクルーがちらほらといた。それでも、小遣い稼ぎと休息、燃料補給と点検ができたので良しとする。
「艦長、出港準備が完了しました」
「わかった、サナダ」
思考の海に沈んでいる俺に、副長のサナダから出港可能の合図が来た。
「白鯨艦隊、全艦出港ー!」
俺の掛け声と共に、艦隊はゆっくりと宇宙港から出港していく。やはり、120隻もの艦隊ともなればかなりの大所帯になるため、素早く出港できなくなるのが欠点かな。それでも、その欠点を補って余りある利益があるから増やしておいてよかったな。
さて出港したはいいが、ただ何もしないのは時間の浪費だと思うので、少マゼラン王国の宙域に向かいますかね。そう思いつつ、艦隊に所属している全ての艦艇が出てくるのを待っていると、その内の1隻が救難信号を捕らえたとの通信が来た。
「こんな所で、救難信号を出すのかねぇ?」
「いえ、特殊な超長波信号によって送られてきています」
こんな辺鄙な宙域で、特殊な信号だと?とても怪しいな。
「特殊な信号だとすると、暗号通信だと思う」
「そう思うかい?サナダ」
「あぁ。余程の事がない限り、暗号通信は使わん」
こんな辺鄙な宙域で、他の艦艇に探知される危険性を犯してまで暗号通信を使うとなると・・・。
「ルナ、通信の発信源はわかるか?」
「ウチラの艦隊の半数以上が探知できてるんや、任せておき」
「よし、方位が確定したらすぐに向かうぞ!」
「「「「「了解!」」」」」
こうして、俺らはこの宙域の最奥部にある宙点、いわゆるデットゲート付近に向かう事にした。
~~~~~~
とある軍に所属しているとある軍艦の一室。そこには、高級将校と思われる何人かの人影がある。その全員が、歴戦の軍人である事が顔立ちと雰囲気からわかる。
そして、その内の一人が喋ると、他のメンバーも続けて喋りだす。
「辺境の警備隊とは言え、この数と練度、そして装備では我々の肩慣らしにもならんな」
「敵と同じ数で斉射した場合、全弾が命中する前に撃沈させてしまいますな」
「あ~あ、ちゃんとした戦闘になればいいんだけど」
「これまでの国の多くが、我々の技術に達していなかったので、今回も難しいかと」
「何にせよ、我々のやるべき事は変わりはしない。来るDデイに向け、力を蓄えなければならない」
「閣下、この宙域のワープゲートは使わない方針でよろしいですな?」
「あぁ、無論だ。連中はいつ、どこにいるかもわからないのだからな」
初老の男性が、それまで黙っていた巨漢に声を掛け、そいつはそう言った。
そして、その日の作戦会議は終わった。
~~~~~~
「目視により、撃沈された艦船を発見!」
「レーダーには、敵性勢力は確認できません」
「陣形は輪形陣で、警戒レベルは1を維持!」
俺達は、暗号通信を発信している艦船の捜索にあたって、周囲に敵がいないか、用心して損傷した艦に接近した。
「艦長、本当にこいつでいいんでしょうな?」
「あぁ。ルナからもらったデータではあの船から来ている。他の艦も確認しているから間違いない」
「それにしても、ひどく損傷してるな。少なくとも小マゼランでは見た事がない」
「それは本当かい?ギレン」
「あぁ、間違いねぇ。見てみろ、俺らと大して変わられない太さなのに艦を貫通してやがる」
確かに、太さが1mぐらいしかないのに槍なんかで串刺しにしたように無数の貫通弾があった。中型の巡洋艦だから装甲はあまりないにしても、ここまで鮮やかに貫通するには、実弾では不可能だ。
「よし、ギレン!」
「船外活動で回収できるモンを回収してくるよ。つっても、あまり期待しないでくれよ?」
「あるものだけで十分さ。クルリは・・・」
「武装やらなんやらの大きくて使えそうなものを回収しま~す」
「あぁ、頼む」
使えそうな物をはぎ取るのは、艦隊が結束してからのモットーなのでみんなはわかっているのだ。使える物は何でも使う。使えてもいらない物はすぐに換金アイテムとして売る、と。
物が余っている時や前世の俺ではありえない行動だが、独自の生産ルートを確保している場合やどこかの国や大きな企業と提携しているならともかく、俺らみたいな新規の民間企業では、この廃品回収が物の有効活用となり替わるのだ。
特に、なんかしらの事態に巻き込まれたら自分たちで対処しないといけない0Gドックの奴らにとって、動かなくなった艦は回収するの当たり前だ。
2時間後
「随分とあったな」
「あぁ、艦内備品や食料、個人が持っていた所持品などは傷がついているもの以外は基本的に残ってたぜ」
船外活動が終わったギレン曰く、まるで倒しても必要もないかのようにきれいに残っていた、という。
「妙だな」
「だな、サナダ」
「あぁ、ここまであからさまに残っていると罠なんじゃないか、と思うぐらいだ」
俺とサナダ、そしてギレンは言いようもない不安に包まれていると、技術士のクロムが声をかけてきた。
「艦長、ブラックボックスのデータ抽出から解析まで終わりました」
「わかった。サナダ、ギレン、来てくれ」
「了解しました」
「はいよー」
俺はサナダとギレンを連れ、技術室の一角にある解析室でブラックボックスに残されていた映像を見ていた。そして、そこには驚きの映像が残されていて、俺は驚きを隠せなかった。
「これは!?」
「データを照合してみたが、現在の小マゼランどころか大マゼランの艦船でない事が明らかになっている」
「エンジンの出力もけた違いだ。こんなのは初めて見た」
その映像は、巡洋艦が撃破された後に自動的に撮ったであろうもので、映像の左から右へと向かっている無数のオリーブ色をした艦船が何隻も移動しているのがわかる。そこからサナダとギレンは、それぞれの推論を口にする。
「映像から推測するに、この艦隊の数は最低でも200万隻はあるな」
「ワープゲートを使ってないにしても、その半数以上が戦闘艦だろうな」
「つまり、そんな数で小マゼラン王国に向かってるとすると考えられるのは1つだな」
それは、武力行使による領土拡大だ。映像に移っている勢力がどこの勢力かは知らないが、武力行使を行わない場合は敵意を見せないように数を少なくするのが一般的だ。そして内乱を起こさせ、その混乱に乗じて政権を奪取する方法が、被害が少なくて済む。
それをする事なく、直接武力でやるとなると、
「小マゼランは滅ぶな」
「あぁ、大きな海賊が少なくなってきている状況を見ると、彼らは降伏には応じないだろう」
「そうなったら、大マゼランにでも移動するかね」
「彼らは受け入れてくれるのだろうか」
「民間企業と謳っているが、その実は海賊と殆ど変わらないからな。すんなりと通れるとは思えんな」
「まぁ、俺達はやるべき事をやるまでさ」
俺たちに明日はない、てどこかの人も言っているように、白鯨は自由気ままに過ごすのさ。
「この映像は俺が厳重に保管しておく。二人共、部屋を出たらこの事は忘れろ」
「わかりました、艦長」
「俺は何もみていないし、何も聞いちゃいないぜ」
「んじゃ、解散!」
俺は、部屋を出ようとする二人にそう言うと二人共、すぐに了承してくれた。二人共、今回の事の大きさを他のクルーに漏らせば、かなりの動揺を生む事になるとわかっているからだ。
人類が宇宙に出やすくなってから2000年以上に渡って、幾つもの文明に分かれてはまとまってきたがこれまで、自分たちの脅威になりえる存在には遭遇しなかった。そのため、その存在が明るみに出たら戦う前に内部分裂して、戦う以前の問題になってしまうからだ。
だからその結末を避けるために、この場にいる3人だけの秘密にしておくのだ。
~~~~~~
惑星ボルフ
「しっかしまぁ、よくも2つ同時にやってくれたもんだ」
「そりゃあ、どーも」
オムレス宙佐は俺達のやる事に慣れてきたのか、以前のように怒らなくなってきていた。何故なら、人捜しとしてジョウロ博士の探してくるように頼んだらすぐに見つけた上、行方不明になっていた巡洋艦の捜索依頼を出そうとしたらブラックボックスだけを持ってきたのだから。
「ブラックボックスだけを持ってきた、という事は間に合わなかったのかね?」
「いえ、どうやらその巡洋艦、敵と戦った形跡がありました」
「なに?」
俺は、その巡洋艦の外見や内部の状況を事細かく説明した。するとオムレス宙佐は少し考え込んで、少しした後でこう言った。
「わかった。詳細が分かり次第、君に説明しよう。暫くは自由にしていてくれ」
「はいよ~」
どうやら今の所、出してくれる依頼は無さそうだ。という事で、俺は軍の会議室を出て自分の艦に戻る事にした。
~~~~~~
旗艦ミーナ 艦長室
「ふぅ、こんなもんか」
俺は、各部署から送られてくる報告書や要求書などのチェックとすり合わせを終わらせて背もたれにより掛かる。結成当初はかなり手間取っていたこの仕事も、部署の間でのやり取りで大幅に効率化されているため、艦長としての俺に上がってくるのが報告書だけになってきている。その結果、夜遅くまで要求書と格闘していたあの頃が懐かしく思えてきた。
「はい、どうぞ」
「あぁ、どーも」
そんな俺に紅茶を出してくれるのが、エルビラだ。訳あって孤児だった彼女を拾ったのだが、気がついたら艦隊の癒やしとして存在している。なにせ、彼女の健気な所とか笑顔になった所とか、俺を含めて癒やされている。こんな子を捨てるなんて、俺にはできないね。
そんなまったりとした時間を過ごしていると、ドアをノックする音がして、
「艦長。入るわよー?」
「クラウディア?入っていいよー」
と、珍しいクルーが来たもんだ。
彼女とは普段からそれなりに話してはいるが、彼女地震が艦長室に来るのは殆どない。あったとしても、要求書を提出する程度でそれ以上の事はお互いに話さなかった。
「艦長。折り入って頼みがあるんだけど」
「はいよ。エルビラ、クラウディアにも紅茶を出してやってくれ」
「わかりました」
そう言って、エルビラはテキパキと紅茶をコップに入れて部屋の外に出た。
「それで?頼みとは何だい?」
「艦が欲しいの」
「艦?」
話を聞くと、どうやらキュウビ族再興のためにその先駆けとして行動したいらしい。そのため、この艦隊では束縛されていては他の奴らにメンツが立たないとの事だ。
「話はわかったし、立場というものも理解できる」
「では・・・!」
「だが、妹たちはどうするつもりだ?」
「それは・・・」
「ここで、ハイそうですか、ではいかないぞ?」
このまま、艦を造って渡してもすぐに撃沈されては造った意味がないし、その艦に乗せたクルーも浮かばれない。それに、軍艦を1隻造るのにかなりの費用がかかるため、主計科がそう簡単に計画案を通さないだろう。だから、造るからにはそれ相応の対価をもらわないと許可できない。
「白鯨艦隊は徐々にであるが、名声を上げつつある。そこに君がいれば、ある程度は集まるはずだが?」
「それではダメ、時間がかかりすぎる」
「・・・どうしても今、必要なのだな?」
「えぇ」
彼女はこのまま押し切ればいける、と思っているようだが脇が甘いぜ、お姫様。俺がそう思っていると、ドアを叩く音がして、
「艦長、取り込み中の所、すみません」
「チハか、入っていいぞ」
「やっと来たわね・・・え?」
クラウディアが驚くのも無理はない。何故なら、反乱計画に加わっていたはずのチハがメーリンに手錠をして入ってきたのだからな。
「それでどうだった?チハ」
「はい。反乱計画に加わっていた50名の内、実際に行動を起こしたのは15名。その全員を拘束済みです」
「よくやった。後で何かおごると、35名に伝えてくれ」
「はっ」
反乱をここまで未然に防ぐ事が出来たのは、初期段階で警戒していたのが大きいだろう。公共の場や携帯端末などは俺が管理しているため、監視する事は容易かった。その反面、私室にまで盗撮や盗聴装置をつける事が出来なかったが自律型AIという利点を活かしたため、反乱計画の9割がたは把握できていた。
「さて、何から話そうか」
以上の事から反乱計画の阻止は容易かったが、問題はその事後処理であろう。何しろ、重要なポジションに着いていた2人を含んだ計画だから、それ相応のケジメを付けないといけない。
「まず、現時点をもって2人を今の役職を解任、営倉に入ってもらう。ここまではいいね?」
「ええ・・・」
「わかっているわ」
反乱をここまで用意周到に察知され、阻止された事にショックだったのか、クラウディアとメーリンは呆然としながらも返事をしてくれた。
「それと、残りのキュウビ族のメンバーだが・・・」
「お願い!妹たちは関係ないの!」
「なぜ?」
「今回の件は私達の独断で・・・」
「その独断によって、君らの知り合いに容疑がかかってるのだが?」
「くっ・・・」
一族の再興のための行動なのはわかるが、それによって艦隊の連携を崩されてしまっては、まとめようと努力している俺の行動が無駄になってしまう。しかも、それが断続的に続くようならばそれを未然に防ぐのも艦長の勤めだ。よって、俺はこういう判断を下した。
「キュウビ族の残りの5人。すなわち、サティ、リーナ、アヤノ、ポプリ、リンに関しては処罰を下さないが、暫く監視対象にさせてもらうぞ」
「それって・・・」
「今回のような事を起こすようならば最悪の場合、体一つで艦隊から降りてもらう」
「・・・わかったわ」
絞り出すようにその一言を、クラウディアは言った。一族の再興のための行動は、その反対の結果を招いたため、その敗北感に震えているのだろう。だが、彼女たちの目には諦めはみられない。今後、どのように行動するのか、見ものだな。
「チハ!2人を営巣に連れていけ!」
「はっ!」
こうして、クラウディアとメーリンは暫くの間、営倉で過ごす事になった。
~~~~~~
俺とクラウディアが話し込んでいた間に起きた反乱の様子と、その後の経過について簡潔に話そう。
今回の件は、白鯨艦隊に所属している主要なクルーを人質にして、俺との交渉を有利に進めようとしたのが始まりだった。
そもそも、いわゆる“亜人”と呼ばれている人達がたくさん集まる白鯨艦隊でもキュウビ族に対して好印象なクルーは少なく、反乱が成功してもその先が不確定要素がたくさんある彼女たちの計画に賛同するクルーは皆無だったようだ。
それでも、賛同して行動を起こしたクルーに理由を聞いてみると、自分の思っていた艦隊とは違っていたり、能力不足で他のクルーに遅れを取っていた、というものだった。
まぁ、簡単に言ってしまうと、落ちこぼれとか社会的に底辺と言われてしまうクルーが起こしたようだった。こればかりは俺でも同しようもない事だと思っている。
なぜなら、この世界でも元の世界でも優秀な奴がいれば、その反対の奴もいて少なからず、順位というものが決まってしまう。言わばできる奴はできるし、できない奴はどんなに頑張ってもできない。
あの天才発明家のエジソンも、努力のやり方次第では落ちこぼれのまま、歴史の闇に消えていくのだから反乱を起こしたクルーには悪いが、艦から降りてもらう事にした。ここでは、落ちこぼれだが他の所に行けばちゃんとやれるはずだ。ここにいるクルーが凄いだけだ。
しかし、それよりも問題なのがクラウディアとメーリンの待遇だ。
反乱は初動で抑えられたからいいもののこれを契機に、キュウビ族の反乱を危惧して主要クルーからの降格を唱えるギレンなどの一派と、反乱を主導したのは2人だけで他のクルーに特に目立った動きがなかったため、継続して活躍させたいカレンの一派で艦隊は真っ二つに割れた。
だが、俺の方針はすでに決まっていて、今回のような事を起こせば主要クルーは問答無用で降格にするし、これ以上の事をすれば艦隊から降りてもらう事も検討しているとした。その上で、意見や思想の違いをぶつけ合うのは大事だが、それで感情的になって武力行使に移るのは許さない、とも言った。
いわば、“和”を乱されるのは一番嫌いな訳だ、俺は。
だが、だからと言ってクラウディア達をこのまま営倉に入れておく訳にもいかないので、こっちはこっちで手は打っておく。
~~~~~~
艦長室
「はぁ~~、疲れた」
「お疲れ様です」
「自律型AIのあんたが疲れるのを見ると、不思議な気分にさせられるわ」
俺が徹夜続きでエネルギー産量が少なくなった人形を机に覆いかぶさるように寄りかからせると、エルビラと新たに艦長付きになったイザベラがそれぞれ、声をかけた。
「まぁ、人間とある程度接しているからねー。その分、演算処理に負荷がかかっちまうもんで」
「そういうものかしら?」
「そういうものです」
俺がイザベラとのやり取りの中でエルビラは、エネルギーの補充を行うためにある程度太い管を持ってきてくれた。
「はい、どうぞ」
「おう、サンキュー」
俺はその管を、自分の右側にある肩甲骨らへんにある吸入口に差し込む。そうする事で、消費したエネルギーを補給することができる。なぜ、こんな事をするかというと、効率がいいからだ。
サナダ達の開発のおかげで、食事や飲み物でもエネルギーに転換することができる人形ではあるが、それを行うにもエネルギーが必要なため、今の方法と比べると効率が悪い。特に、早急にエネルギーがほしい時なんかはこうする方がすぐに回復できて便利なんだ。
そのため、美女に管が刺さっているのはとてもシュールではあるがすぐに終わる。その最中で、イザベラは1つ質問してきた。
「ねぇ、反乱を起こしたキュウビ族をどうするの?」
「彼女たちな~」
「今回の件で、ギレンと同じ考えに人達は艦長の考えに賛同できないそうよ」
「でしょうね」
「本当に、この艦隊に置いておくの?」
「・・・」
正直な所、営倉送りにしたはいいがその先は決まっていない。艦隊クルーに戻したいのだがそうすると、彼女たちキュウビ族を快く思っていなかったギレンの一派が反乱を起こしなねない。クラウディア達の反乱はごく一部だったから良かったものの、その場合の反乱には艦隊クルーの3割以上が加わるだろう。
本来なら、そういった感情を抜きにして行動してもらいたい所だが、そう行かないのが人間の性、というものだろう。
「結局、艦長としては辛い決断を下さないといけないのかぁ」
「?」
俺の意味深な発言に二人は困惑しながらも、今回の疲れを癒やしていった。