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三話 田舎生活始めました

 朝露が葉を滑り地に落ちる。静かな森の中に響くのは鳥の声のみであり、この世の何よりも澄んだ時間だろう。

 その中に紛れ、カーンという軽やかな音が響く。


「―――ふっ!」


 短く息を吐いて繰り出される手刀。強すぎる訳でもなく、かといって弱すぎる訳でもない。己の力を絶妙にコントロールして繰り出された手刀が薪に吸い込まれ、二つに割れる。


 まだ甘い。


 割れた薪を拾い切り口を見る。鮮やかな断面はまるで上等な斧で割られたかのようであるが、それでも彼にとっては不満の一言の代物であった。そもそも、彼にとっては音が鳴った時点で失敗なのだ。理想は割るのではなく別れる。まるで薪と手が溶け合うかのように滑り込ませて割ることが彼の理想であった。

 そんなことが出来るわけがない。しかし、出来るわけがないと言われたことを彼は成し遂げて見せてきた。力を極めることに置いて妥協などと言う言葉は、彼にとって微塵も許されない。

 もう一度、もう一度、あらゆる雑念を捨てて打ち込む彼は、皆に勇者と呼ばれ羨望される者だ。



◇◇◇◇◇◇◇



 メンヘラ、もとい姫から逃れた勇者は人里離れた森の中で暮らしていた。彼が此処にいることを知っているのは近くの村に住む村人だけだ。

 森の中は彼にとって素晴らしい環境であった。くだらない権力の話をする者はなく、休む間もなく胃を責める者もいない、自然と触れ合い己を高め、時折近くに住む村人たちと交流する。彼自身、疲れた身体が癒えていくのを感じていた。


 建築に使う木材用の丸太と火にくべる薪を積み上げて、汗を流しに川へと向かう。ここ最近懐き始めた動物たちと出会う度に互いの親睦を深める様に触れあう。


「はぁ~~~」


 出してから自分でも驚くほどの満足した声。魔王を打倒してからの日々では最も晴れやかな気分だ。

 

「勇者様~!」


 勇者の名を呼ぶ声とガサガサと茂みを掻き分ける音。草を掻き分けて現れたのは一人の少女であった。栗色の髪と瞳、整ってはいるが何処か芋臭い雰囲気の顔立ち、足首まで隠すほどのスカートに頭には三角頭巾をした少女は正しく平民然とした姿だ。

 その恰好で森に入ってきたのかと少しばかり呆れながら勇者が返事をすると、少女はぱぁと顔を輝かせて振り向いた。


「ひゃあ!」


 しかし、その顔をすぐさま朱へと染め上げて少女は悲鳴を上げた。


「いきなりどうした」


「な、ななな、何で裸でいるんですか!」


「汗を流していたんだから当たり前だろう」


「それならせめて一言言ってください!」


「生娘め」


 そっぽをむいて蹲る少女を見ながら、姫様もこうであったら良いのにと思わず考えてしまう。いや、そもそも彼女に自分の肌を見せたことなど一度もないのだから、もしかしたら彼女もこんな反応を示すのかもしれない。そうであれば失礼な言葉であったなどと勝手に考え込み始めてしまう勇者。


「ま、まだ終わらないんですか」


「ああ、すまん。まだ着替えていない」


「なんでですか!?」


 恥ずかし気に尋ねる少女の言葉で勇者は考えを中断して衣服を手に取る。


「焦れるな。命の危険でもない限り余裕は持って然るべきだ」


「含蓄ある言葉は今はいりませんから!!」


 少女の言葉に溜息を吐きながら衣服を身に着けると勇者は口を開く。


「それで今日は何の用だ?」


「は、はい、実は村の近くで獣の声が聞こえる様になって、少しずつ鳴き声が増えていくものですから勇者様に相談願いたいと村長が…」


「獣退治か。別に良いが獣を殺すかどうかは見てからでないと分からんな」


「そうなのですか?」


「獣とは言え生き物だ。喰う以外のことで殺す気はあまりしないからな」


「私には分かりません…」


「あくまで俺の在り方だからな。普通は自分か同じくらい大切な物を守ることの方が重要だ」


 その言葉に好奇心を刺激され少女は口を開く。


「勇者様にも大切なお人がいたりするのですか?」


 彼女もまだまだ年頃の娘ということだろう。しかし、彼女は少しばかり勇者という男を知らな過ぎた。


「当たり前だ。お前も大切だ」


「えっ」


「それにお前の村に住む者、都に住む者、共に歩んだ仲間も大切な者達だ」


「……恥ずかしいこと言わないでください」


「当たり前のことを恥ずかしいと言われるのは勇者でも傷つくぞ」


 自分が勇者と言う英雄に大切と言われ嬉しい反面、他の者達と同じと言われて悲しい、そんな複雑な気持ちを植え付けられ乙女はまた一歩大人の階段を上る。

 そんなことも知らずに、勇者は少女の言葉に僅かばかり落ち込んでいた。



◇◇◇◇◇◇◇



「そう言えば何時もお前だな」


 川辺を歩きながら村へと向かう途中、不意に勇者が言葉を零した。


「?何がですか?」


 突然の言葉にもしや何か粗相をしてしまったのかという考えが過る。しかし、それも杞憂であった。


「いや、俺の所には大体お前が来るだろう。俺のいる辺りは人を襲う獣が出ないとは言え少女を送ってくる…。村から何かされてはいないか?」


「い、いえ!そんな訳ではありません!!私が一番慣れているからと自分から望んでのことですから!!!」


「そうか…?だが、もしものことがあった時―――」


「大丈夫!大丈夫ですよ勇者様!!」


「そ、そうか…」


 少女の有無を言わさぬ勢いに押され、勇者は困惑しながらも分かったと頷く

 本人に言える訳がない。英雄に会えると言うことに村中の者が手を上げる中で毎度死ぬ気でこの役を取って来ているなどと…。口が裂けても言える訳がない。もし知られてしまえば少女は恥ずかしさのあまり死んでしまうだろう。


「まぁ困ったことがあれば何時でも言え。何でもできる、とは言えないが愚痴を聞くだけでも出来る」


 少女の頭をポンポンと叩き、勇者は歩き出す。

 自分の頭に手を置く勇者に思う。この人は自分より年上ではあるが、それでも自分の父や母程の歳ではない。多く見積もって二十代後半、そんな者が勇者と言う役目と世界からの希望を背負い魔王に挑んだのだ。決してそれは楽なものではなかった筈。日々魔物たちと戦い、その身も心も擦り減らして、それでも尚人々の為に剣を握り続けていたのだろう。そう考えると目の前にいる勇者の背が見た目よりもずっと大きな物に感じられる。


「ありがとうございます、勇者様」


「……ああ」


 心から安心を感じられる。その思いを込めて感謝を告げる少女。

 彼女が気付くことはないだろう。


 姫様もこれくらいの接し方を覚えてくれればなぁ。


 彼が旅に出た目的がたった一人の女から逃げだす為であったなどと。



◇◇◇◇◇◇◇



「おお、勇者様!」


「勇者様!」


「勇者様が来たぞー!」


 村に到着するや否や勇者の姿に気付いた村人たちが手を止めて彼の下へと集まって来る。


「お元気そうで何よりです」


「これ、村で出来た作物です!よかったらどうぞ!」


「ちょっと勇者様にそんな物をお出しするなんて―――」


「いや、頂こう。俺の為にありがとう」


「いえいえ、そんなこと―――」


 一人捌いても二人、三人と周りに集まり勇者は身動きが取れなくなってしまう。その様子を面白くなさそうに見つめていた少女が声を張り上げ中心にいる勇者の手を取る。


「皆!勇者様は森の中を見てくれるって言ってやって来てくれたんだから!!ほら、行きましょう、勇者様」


「そうだな。すまない、また戻ってきたら話を聞こう」


「そんなー」


「勇者様―」


 ぶー、ぶー、と文句を垂れる村人たちを少女が鋭い眼光で人睨みして黙らせると二人は村長の家へと向かう。


「これはこれは、勇者様。このような所へ遥々御足労をおかけしまして」


「掛けたままでいい。腰が痛むのだろう?」


 勇者の言葉に老人が少しばかり目を開き、柔らかく笑う。


「そのようなことまで見抜いておりますとは…」


「仕事柄どうしてもな、後で薬草を届けよう」


「ありがとうございます」


「ああ。それで、獣の声が出ると言うことだが」


「はい、ですがその前に…。エミリア、お前さんは席を外しなさい」


「えー」


 勇者を此処まで案内してきた少女、エミリアは唇を尖らせる。


「エミリア」


「すまないが席を外してくれ」


「…分かりました」


 二人からの言葉に残念そうな表情をしながらエミリアは席を外す。

 外に誰もいないことを確認し、勇者は席に着くと口を開いた。


「わざわざ彼女を外したということは問題は獣だけではないらしいな」


 勇者の切れ長の瞳が更に鋭くなる。その雰囲気に僅かにあてられ村長が僅かに身動みじろぎする。


「ええ、周囲の森から狼の吠える音が聞こえまして…。何人かの者達が森に踏み入ったのですが、狼の他に奇妙な足跡を見つけたのです」


「魔物か…」


「恐らくそうかと。小さな子供の足跡と大の男よりも大きな足跡です」


「数は?」


「見つけた者達はこれ以上そこにいるのはマズイと思い慌てて帰ってきました」


「そうか…」


「申し訳ありません」


「いや、その判断は正しかっただろう。もし何かあれば村人たちも不安に駆られていたことだろうしな」


 深々と頭を下げる村長を勇者は手を出し制する。


「その足跡の一つはゴブリンだ。もう一つはゴブリンと獣を従えるリーダー、…大きさだけでは何とも言えんがオークの類だろうな」


「このままでは村が襲われてしまいます。なんなりとお礼はします。ですから、どうかこの村を御救い下さい!」


 もう一度頭を下げる村長に勇者は笑う。


「礼などいい。お前達を助けられるのならばこの身は何時でも捧げよう」


 その言葉に顔を上げた村長の瞳から涙が零れる。


「ありがとうございます!ありがとうございます!!」


「任せておけ。ここ数日は村人を外に出さないようにしろ。戦える者達は交代で見張りをさせておくと良い」


「はい、どうかよろしくお願いします」


「ああ」


 村長の言葉に自信満々に返すと勇者は家を出る。まだ空高くに陽が昇っている。村人たちの言っていた言葉通りであれば、ゴブリン達が動き出すのは恐らく夕方から夜になるまでであろう。それまでに足跡の調査や罠、周囲の動物たちの動きと多くのことを調べねばならない。


「もういいんですか?」


「ああ、此処からは俺一人で行く。此処までありがとうな、エミリア」


「………」


「…エミリア?」


「い、いえ、何でもありません!はい!」


「それなら良いが」


 今まで勇者の下へと通っていた彼女だが、彼から名前を呼ばれたことは初めてであった。それもそうだろう。何故なら今まで彼は彼女の名前を聞かなかったし、彼女もまた、初めて会った時は緊張のあまり自身の名前を言うことを忘れていたのだ。

 しかし、今この時はそんな事などどうでもよかった。勇者に名前を呼ばれたという喜びは存外に大きく、彼女は俯き勇者に見られない様はにかむ。


「私だってまだ名前で呼ばれたことないのに…」


「ッ!!?」


 背筋にゾクリと怖気が走る。慌てて周囲を見回すが彼女と勇者以外に近くには誰もいない。きっと喜びのあまり何か幻聴でも聞こえたのだろう。きっとそうだ。

 そう思い込むことにしてエミリアは勇者へと話しかける。


「夜はどうするんですか?」


「森の中に潜む。村の中に俺がいたら目立つからな」


 それじゃ、そう言って歩き出す勇者の背に少女は小さく祈る。彼が無事でありますようにと。



◇◇◇◇◇◇◇



 鼻をひくつかせ、落ちている木の葉や周囲の幹に注視しながら歩いて行く。現在は太陽は西の空へと落ちていた。

村人たちが見た足跡を見つけたが、その正体はゴブリンとオークであった。数は最低でも4、獣を含めれば6匹だ。しかし、村人たちの話通りであれば、少なくとも獣はあと2匹はいるだろう。そう考えればゴブリン達も同数はいると考えて良い。

 ゴブリン達を殲滅するのは簡単だが、近くに小さな巣でも作られていたら堪ったものではない。巣が何処か分かるまでは手出しすることは出来ない。


 ゴブリンやオークは苦手だ。人の言葉が分かる程の知能はないし、あったとしてもそもそも彼らは享楽的で此方の話を聞く耳持たない。ここで逃がしたら違う場所で同じことをするだろう。彼らと戦うのならば殲滅するしかない。


 なるべく風下を歩きながら勇者は木の上に登る。後はただ静かに待つのみだ。



◇◇◇◇◇◇◇



 ゴブリン達が現れたのはすぐであった。

 小さく子鬼達が喚く声が聞こえてくる。耳を澄ませば聞こえてくる足音は14予想より僅かに数が多い。恐らくは群れが大きくなり幾つかに別れた内の1つなのだろう。恐らくはやがて少し大きなゴブリン討伐の依頼が聞こえてくることだろう。


「………」


 そちらの仕事は傭兵達の出番だ。世捨て人に近い自分がすべきではないだろう。彼らもそうすることで生計を立てているのだ。しかし、勇者としての性かどうしても心に引っかかってしまう。


「……考えるな」


 声に出し自分に言い聞かせる。今は目の前の仕事だ。後のことは終わってから考えればいい。

 森を行くゴブリン達の後を追うべく、勇者は闇夜に溶け込み追跡を開始する。


 位置は常に風下に、狼に気取られることのないよう最小限の動きで木から木へと飛び移る。

 やがてチームのリーダーであるオークが何かを指示すると他のゴブリン達は頷いて二手に別れる。


「………?」


 自分の中の疑問の火種が燻り始めながらもオークのいるチームを追跡する。二手に別れたゴブリン達は狼を吠えさせながら村の周囲を歩いて行く。しかし、ただ一点、西側でだけは狼を吠えさせることはない。


 村人たちに恐怖を与えている。恐らくは狼を吠えさせることで村人が外へ出ることがない様に操作しているのではないだろうか。今村を襲わないのは戦力が足りないと考えているのか、はたまた別の考えがありそれを行う準備が整っていないのか。


 此処まで来ればもう分かる。ゴブリンやオークは享楽的かつ短絡的、こんなことをする位ならば普通は既に襲ってしまっている。十中八九、裏で何者かがゴブリン達に指示を出している。

 明け方、勇者はゴブリン達が合流するまで待ち、再び動き始める。


「ゴフ…ギフッ…」


 濁声だみごえで指示を出しながら歩いて行くオーク。そしてそのオークを囲む様にそばを歩く狼とゴブリン。恐らく巣へと帰るのだろう。ならばそこに指示した者がいる可能性が高い。

沸き上がる怒りを抑え勇者は静かにオークの集団を追っていった。



◇◇◇◇◇◇◇



森の奥、鬱葱とした樹木が陽の光を遮り明け方であるにも関わらず此処だけは未だ夜の様であった。

 そんな森の中を進み、一際大きな木の洞の前に着いたオーク達は足を止める。


「ゴフ…フゴッ、ギュフ」


「良くやった。その調子だ」


 洞の中から聞こえてくる男の声。縁に手を掛けて長身の男が洞から出て来る。

 男は見た目こそ人間だが、普通の人間とは異質であった。

 文字通り青い肌に黒で塗り潰された瞳、背には蝙蝠の羽を生やし、両手の爪は鋭く尖り人間の何十倍もの長さであった。


「………」


 その顔に見覚えはない。けれど間違いなく元魔王軍の魔物だろう。組織の長であった魔王が死んだ今、生き残った魔物たちは散り散りになっていたがこんな辺境にまでやってきていたらしい。

 此処まで来ればもう姿を隠す必要はないだろう。

 勇者は木から降りると魔物たちへ近づく。


「おい」


「――――ん?おいおい、何で人間がこんな場所にいる?お前達、まさか追跡つけられていたのか?」


 不機嫌そうな表情を隠しもせずにその魔物はオーク達を睨む。オーク達は命乞いをしているのか、主人である魔物に情けなく鳴いている。


「っち、さっさと始末しろ。俺の機嫌をこれ以上損ねたくないならな」


 洞の縁に腰かけると、魔物は勇者を顎で指す。オーク達も死にたくないだろう。武器を構えて鼻息荒く勇者へと走る。


「失せろ」


 それは一瞬であった。

勇者が一歩踏み出し右腕がぶれる。その一撃は突風を起こし勢いよく木の葉を舞い上げる。


「……ぐっ」


 突風が顔を叩き魔物の男は目を瞑る。やがて風が止み目を開いた時、男は有り得ざる光景を見た。

 陽の光を遮っていた枝全てが吹き飛ばされ光が差す、そしてその光の下に横たわる14の死体。どれもが肉体の半分以上を消し飛ばされ、絶命しているのは誰が見ても明らかであった。

 これをあの人間がやったのか…?たったの一撃で?


 驚愕に身を震わせていた魔物が向かってくる男の正体に思い付き声を震わせた。


「な、なな、まさか、まさか貴様…!?何故こんな所に!!?有り得ん!有り得んだろう!?何故貴様が此処にいる――――勇者!!」


「お前に答える義理もなければ知る必要もない。本来であれば降伏するかどうかを問いたいが―――」


 勇者が一歩近づく。

 その一歩は魔物の男にとってまるで自身が起きたかのような衝撃だった。あれは自らの命のカウントダウンだ。一歩近づくたびに男が後生きていられる時間が減って行く。


「お前に選ぶ権利はない」


 ガチガチとやかましく歯を鳴らして男が一歩後退る。それを埋める様に勇者はまた一歩男に近づいた。


「ヒッ!」


 勝てるわけがない、相手は魔王を倒した男だ。

恐怖のあまり顔は青を通り越して白くなり、生暖かくなる股座、眼は白目を剥きかけている。


「行くぞ」


 短い言葉を残し、勇者の身体がぶれる。

 痛みなど感じはしなかった。次の瞬間、男の視界には青空が広がり,動こうと思っても身体が動くことはない。

 何が起きたのか…。

 男がそれを理解するより早く青空を黒が塗り潰し、やがて男の意識は途切れていった。


「………」


 落ちてきた男の頭を拾い、自身の服で顔を包み込む。この男が何所から来たのか調べておく必要がある。


 死体は全て地に埋めると勇者は伸びをする。一度村に戻り報告はするが、念の為もう一度辺りを見回っておいた方が良いだろう。

 しかし、今回は俺が来れたから良かったがもし来れなかったら…。

 考えただけでぞっとする。エミリアも、もしかしたら自分の下に来る前に襲われていたのかもしれないのだ。


「王とギルドにも報告しておくか」


 これからは国内を兵に巡回させた方が良いのかもしれない。

 考えながら、再び王都に行かなくてはいけないのかと憂鬱になる。漸く逃げられたと思ったら自分から戻るなど馬鹿ではないか。

 しかし、事情も事情、今回は仕方ない。その他にも調べることが多くある。


勇者としての日々は終わったと思っていたが、もう少し続けられるらしい。


 そのことに僅かに気分が高まる。不謹慎ではあるが、自らの役割を持てるというのはどうしたって嬉しいものだ。


 緩んだ頬を叩いて引き締める。きっと、村長たちも今か今かと報告を待ちわびていることだろう。早く報告しに行かなければ。


 足取り軽く、珍しく鼻歌も歌いながら勇者は森を歩いて行った。




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