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一話 魔王倒しました


 炸裂する魔法、炎が宙を走り爆発を起こす。美しかった装飾は粉微塵になり、大理石で出来た壁や床も只の瓦礫に変わっていく。


 壮絶という言葉を表しているその部屋の中で二つの影が縦横無尽に飛び交う。巨大な影の方――山羊の頭と下半身に屈強な人間の肉体の上半身、そして背には身の丈以上の巨大な翼を持った悪魔――は炎と雷、氷に風とあらゆる魔法を目の前に迫る小柄の影へと放つ。

それを迎え撃つ小柄の影は姿こそ人間だ。しかし、正しく化け物と呼ぶにふさわしい相貌に挑む彼も当然ながら常人を逸脱していた。


「――――」


黒い髪と日焼けた肌、鍛え上げた肉体は最早一つの鎧となっていた。凡百の者が見ても凄腕だと思える雰囲気を佇ませ、武芸の道を歩んだ者ならばその先も察することが出来るだろう。


 ―――人間とは思えないと。


 迫る魔法を前に彼は両の手で持つグレートソードを握りしめると、短く息を吐いて剣を薙ぐ。

 それはまるで台風のようであった。彼が剣を薙ぎ払うと同時に周囲の全てが吹き飛ばされた。大理石の床と壁は崩れ、粉塵が風に乗って周囲に叩き付けられ、瓦礫に傷を付ける。その暴風は悪魔の放った魔法さえも吹き飛ばした。


「化け物め…」


 悪魔がしわがれた声で呟く。その声を目敏く聞きつけ、青年はニヤリと笑い口を開く。


「これでも血反吐吐いて努力してきた結晶なんだ。そんな一言で片づけんなよ」


 握っていた剣が半ばから折れ、大きな音を立てて地に落ちた。青年は折れた剣に苦笑するとポイと投げ捨てる。力を得てからは良くあることだ。最後の一本であったために多少は惜しくあるが、持っていてもかえって邪魔になるだけだろう。


「覚悟しろ魔王。此処から先は拳で行かせてもらう」


 青年の言葉を魔王と呼ばれた悪魔は鼻で笑う。


「良かろう。リーチを捨てたことを後悔するがいい勇者よ」


 魔王は飛び立ち勇者を見下ろす。


「我の全てを持って貴様の髪の毛一片すらも残らず消し飛ばしてくれるわぁ!!」


 一体どれ程の力が残っているのか、魔王は自身を中心に数えるのが馬鹿に思えるほどの数の魔法陣を展開する。

 それを見て尚勇者の顔に嘆きは表れない。この旅を始める前から絶望的な状況など山ほどあった。為せば成る。きっといける。へーきへーき。

 考えれば潜り抜けられる状況ではない。自分がすべきことは一つだけ。この後の魔法の嵐を抜けて殴るだけだ。


「吹き飛べぇ!!」


 放たれる魔法はどれも最高峰といって過言でないもの。人間一人に使う物ではない。


「ッシ!ラァ!!シャァッ!!」


 迫る魔法を躱し、弾き、消し飛ばし、宙に立つ魔王目指して地を蹴る。

 大地が割れ、飛び出した勇者に遅れて着いてきた風が周囲全てを吹き飛ばす。魔王の放つ炎が、雷が、氷がぶつかってもその速度に陰りは出ない。


「ぶっとべぇオラァ!!」


 魔法の嵐を抜けて、勇者の拳が魔王の頭を捉える。その速度に魔王の回避が追いつけるはずもなく、結果は一瞬だった。


「あ゛……」


 間抜けな声が一瞬聞こえ、その瞬間首から上が消し飛ぶ。力を失った肉体はだらりと落下していった。


「………」


 四肢を投げ出し物言わぬ魔王の死体を眺め、勇者の瞳に涙が溢れる。


「そっか…終わったのか…」


 その感情は一体何だったのか、身体を震わせ、崩れた壁から差し込む光の中で勇者は叫んだ。


「あんな生活に戻りたくねえええぇぇぇぇぇ!!」


 悲哀を含んだ感情が叫びとなって溢れ出す。

 魔王を倒した彼は、今まさにラストダンジョンの扉を開けたのだった。


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