・不思議生物は故郷のアレ
テーブルにごとりと音をたてて置かれたのは、大きなジャムのビンだった。
何処か気まずそうにそれを4つほどテーブルに並べた翔太と梓は、押し黙ったままのテーブルを挟んだ臨の前に腰を下ろした。
「なんだこれ」
「・・・ビンです」
「外じゃなくて、中身は、何だ」
梓に肘で小突かれたのか、視線を逸らしながら渋々答えた翔太に、トンとテーブルの天板を指で叩いた臨が判りやすくビンを示して問う。
ほんのりとパステルカラーに色づくそれの至るところには、同系色の小さな粒がまるで宝石のような粒が散りばめられているプルンとした見た目の何かだ。
1つのビンにつき1色で、4色。
――淡い桃色ベースには赤色の粒。
――淡い黄色ベースには橙色の粒。
――淡い緑色ベースには緑色の粒。
――淡い紫色ベースには紫色の粒。
そんな“奴ら”がビンの中でプルプル、ぺとぺと、びちゃんぱちゃんと好き勝手に蠢いている。
「これで動いてなかったら、懐かしい・・・と言うか物凄く見覚えあるんだがな・・・主に日本で」
「「ですよねー・・・」」
ビベチャッ! とビンの内側で、弾けるようにガラスに張り付いた黄色に頬を引き攣らせ、こっそりと指を引っ込めた。
飛び散った大小の欠片がずるずるとガラスに沿ってゆっくりと流れ落ちている。
粘度があるのか水の流れ落ちる速度よりも緩やかに・・・否、よく見ればぬちゃぬちゃと下に向かって移動している。
粒がある大き目の塊の方が若干早い。頑張れ粒なし・・・!
小さな黄色を目で追っていると、最終到達地点は――当たり前だが――底に溜まるように捕獲されている本体だった。
飛び散った欠片が到達する度にふる、ぷる、と蠢き、粒を持った欠片が到達すると捕食するように大きくぷるんっ!と震えて同化する。
そんな様子を見ながら、臨は無意識でまた呟いた。
「何だこれ」
これが単色で粒々した何かが一つで核のように内側に隠されていればスライムだ。
この世界のスライムは溶けかけのゼリーの様な姿をしている粘菌で、家庭内害虫の一種で、主にロバートの部屋で良く見かける。
某有名シリーズに登場し、肉まんになった様な姿だったらまだよかっ・・・否良くないか。
「ぷ・・・」
「ぷ?」
「プルンチェ、です」
気まずそうに斜め下を向き、ぼそりとそれの名称を告げた梓に臨は聞き返す。
「フ■ーチェ?」
「臨さん! それ商品名! アウト!!」
聞き取りづらかったと言うのもあるが、思い込みとは怖い。
「俺も最初は思ったけど!」と翔太が盛大にツッコんだ。
プルンチェ、スライムの一種。
糖度の高い果樹や野菜以外は養分として受け付けないスライム。
個体によって好みがあるらしい。
冷気に弱いので、ある程度冷やすと僅かに凝固しその命を終える。
“食用”主に田舎の子供のおやつ。
「・・・何というか・・・」
「ですよね、気持ちは判ります。と言うか、俺たちだけで抱え込みたくなかったんで持ってきました」
額を押さえた臨に向け、要はこの何とも言えない気分を共感して欲しかったのだと翔太が明かす。
「因みになんですけど、臨さん」
「・・・予想ついた、聞きたくない」
全体的にピンク色のビンの蓋をさっと開け、氷系統の下級魔法を唱えた梓がニパッと笑った。
「味もまんま臨さんの言った“アレ”なんで安心してどーぞ!」
「・・・こいつら牛乳どっから調達してんだろう」
もうヤダこの世界の不思議生物・・・と、ぼやいた声は同郷の二人にスルーされた。
end
小ネタを発掘したのでアップ。
内容なんてない。
因みに、赤はイチゴで黄色はオレンジ、緑はメロンで紫はブドウです。