受ける
私は依頼を受けることにした。かつてのパートナーが困っているのを放ってはおけないからだ。
勿論、彼女の顔を見たいという気持ちはあるが、人妻に手を出す趣味はない。
早速、彼女とコンタクトを取り、近場の喫茶店で落ち合うことになった。
久しぶりに会う彼女は大人の雰囲気が漂い、私が言うのも何だが、いい女になっていた。
暫し世間話をした後契約を交わし、翌日から私は、彼女の旦那の張り込みを始めた。
一週間程で、旦那は尻尾を出した。若い女性とホテルから出てくる姿を、使い慣れた一眼レフにおさめた。
しかし、彼女に伝えるのは心苦しい。意を決し、彼女にダイヤルする。三回程呼び出し音が鳴ると、彼女は電話に出た。
彼女に結果を伝えると、受話器の向こう側で啜り泣く声が聞こえてきた。私は思わず下唇を強く噛み、自分の入る余地はないと実感した。
知り合いの弁護士を紹介し、慰謝料、離婚の手続きまで面倒を見てやった。
依頼料は、
『もう一度助手をやってくれれば、チャラでいい』
と、言いかけたが、言葉を飲み込み、四十五万円の請求書を彼女に渡した。
これで良かったのだと自分に言い聞かせ、煙草に火を点けた。陽当たりの悪い事務所からの景色は、いつもと変わらない……
END