雨の日の中で
この作品は、多人数参加型西洋ファンタジー世界創作企画『ティル・ナ・ノーグの唄』の参加小説です。
非常に多数の魅力的なキャラクターを出す予定ですので、さらにお話を深めたい方は是非とも企画サイトをご覧ください。
雨の日は苦手。なぜか胸が締め付けられる想いになるから。
特別、雨の日に嫌なことがあったわけではないけど、太陽が隠れて暗い中、雨が降っていると、とても気分が重くなる。
外に出るのが億劫になるからか。
温かな陽射しを浴びることができないからか。
それとも――心の中で隠された嫌な出来事が、無意識のうちに思い出されるからか。
あたしにはまだその理由はわからない。
ただ現実的なことを言えば、雨の日は客足が遠のきがちで、売り上げが落ちる。
今日は朝から久々の雨だったため、お菓子の量をいつもより控えて作っている。店番も外の雨を眺めながら、ぼんやりとしている時間が長い。
こういう時間が長いのは正直言って苦手。嫌でも今後のことを考えてしまうから。
「――あたし、これからどうしようかな」
* * *
雨の日は嫌いだ。思い出したくもない出来事を思い出してしまうから。
こういう日は部屋に籠もって本を読みながら、周囲や現実への壁を作ってしまうのがいい。けれどそういう日に限って、外出をしてしまっている。
雨が降っている日に際しては、非常に動きにくい体になってしまった。小雨なら足早に宿に戻ることも可能だが、強めの雨が降っていると、いくら服を着ているとはいえ、自分に降り懸かる災いの危険度が高いからだ。
今日も雨が止むまで雨宿りしなければならない。鬱々とした気分で滴る雨をぼんやりと眺める。
「――僕はいったい何を求めているんだろう」
* * *
夕方近くになって雨は止んだ。
道には買い物を控えていた人たちが、慌ただしく行き交っている。夕飯の支度を始めるまではあまり時間はないが、家にある食材では足りないという人たちだろう。
ある少女は夕方になって混み始めた店を、明るい声を発しながら、てきぱきと仕事をこなしていく。
ある青年は少し早足で道を進みながら、寝泊まりしている宿へと急いでいく。
それぞれの人がそれぞれの思惑を抱きながら、アーガトラム王国東部にある城塞都市ティル・ナ・ノーグはやがて夜を迎える――。