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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第一章 アルミ村編

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第八話 はじまりの日

 あれほど濁っていた気配は、今はもうほとんど感じられなくなっていた。


「……行った、のか」


 ルドーさんが、槍の柄を握ったまま小さく息を吐いた。


「群れへ帰りました」


 僕は、教えた方向を指さす。


「本当に、行かせちまってよかったんですかね?」


 バードさんが、弓を下ろしながら言う。


「グラムさんをあそこまでやったやつですからね、危険じゃないですかね」


 ホルスさんが、静かに言う。


「フライが言うに、目の前にいたのは、帰りたがってる迷子だったんだろ」


「だったら、斬ることはできねぇだろ」


 その言葉に、ルドーさんも小さくうなずく。


「ホルスさんが、そう言うならな……」


 少し不思議な感覚だった。


 さっき繋がっていたとき、確かに感じた。


 ただ飢えて、怖くて、帰り道をなくしていた。


 それに少しだけ手を貸しただけだ。


 シアンさんが魔杖を片付けながら、その場のすべてを見ていた。


「本当に、こんなことってあるんだね」


「まだ自分でもよく分からないです」


 僕は正直に答える。


「声が聞こえて、放っておけなくて……気がついたら、勝手に手が伸びてました」


「繋がってみたら、苦しんでいて、帰りたい気持ちがわかりました」


 バードさんが、くすっと笑う。


「いやぁ、でも、いきなりモンスターと心の会話とか、あの狂気を鎮めちゃうとか、世の中わからないこともありますねぇ」


 みんな少し笑った。


 すると張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。


「ノエル、大丈夫か?」


 ホルスさんが後ろを振り返る。


 少し離れたところで、ノエルさんは小さくうなずいた。


「はい、大丈夫です」


「みなさんがお怪我されなくて、本当によかったです」


 ノエルさんは、ほっとした表情で全員の顔を見た。


「とりあえずここで立ち尽くしてても仕方ねぇな」


「日が落ちる前に森を抜ける」


 そうして、ホルスさんが先頭に立ち、僕たちは森を引き返し始めた。


 さっきまで胸を圧迫していた、あの濁った気配は、もうない。


 僕はもう一度、森の気配を探る。


 すると、遠くからうっすら気配が伝わってきた。


(あたたかい におい みんな いた ありがとう)


 少しだけ落ち着いた、感情の欠片。


 それを最後に、気配は森の向こうに溶けていった。



 アルミ村の門が見えたころには、空は藍色へと変わり始めていた。


「戻ったよぉー!」


 バードさんが、手を振りながら声を上げる。


 門の上の見張り台から、聞き慣れた声が返ってきた。


「おかえり!」


 セラだ。


 村の中に入ると、数人の村人たちがこちらに顔を向けた。


 治療所の前から、ケールさんが足早にやってくる。


「みんな無事ね」


「その顔だと、何かあったみたいだけど」


「色々とな」


 ホルスさんが苦笑する。


「とりあえず、詳しい話はあとで村長も交えてする」


「そう」


 ケールさんは、すぐにうなずいた。


「ホルスさんとフライさんは、一度休まれた方が……」


 ノエルさんが静かに言う。


「いや、村長のところに行く」


 ホルスさんが首を振った。


「こいつも一緒にな」


「僕もですか?」


「当たり前だろ、報告の主役だ」


 そう言われてしまっては、断れない。


「じゃあ、わかりました」


「私も行くわ」


 ケールさんが手を上げた。


「治療所として、ちゃんと聞いておきたいしね」


「あたしは、グラムさんの様子見てるね」


 セラは少しだけ唇を噛んでから、笑って言った。


「じゃあ、ちゃんと寝てるように言っといてね」


「あいつ、すーぐベッドから出ようとするから」


「あたしの言うこと、聞けばいいですけどね」


 セラは手を振って、治療所へと戻っていった。


 誰も傷つかなかった。


 その事実だけが、足取りを少し軽くしてくれていた。



 おじいちゃんの家の奥の部屋に入ると、昨日と同じ顔ぶれが揃っていた。


 おじいちゃん、ホルスさん、ケールさん。


 そこに今日は報告に、ハンターたちも加わっている。


「戻ったか」


 おじいちゃんが、僕とホルスさんを見てうなずいた。


「まずは、おかえり」


「ただいま、おじいちゃん」


 椅子に腰を下ろすと、さっそくおじいちゃんが口を開いた。


「で、本題に入るが、どうだった?」


 その問いに、ホルスさんが苦笑した。


「赤目のモンスターは、いなくなったと言っていいだろう」


「どういうことじゃ?」


 視線が、自然と僕へ向く。


 ホルスさんが、僕に合図した。


 僕は一度息を整えてから、森での出来事を順に話していった。


 森の様子。


 赤目の登場。


 狂ったような赤い気配。


 声が、はっきりと聞こえたこと。


 それを鎮めて、群れに返したこと。


「そして……ただ、帰れなくなってただけでした」


 言い終えたとき、部屋の中は静まり返っていた。


「帰れなくなっていた、か」


 おじいちゃんが、繰り返す。


「獣やモンスターを可哀想と思いすぎるのは、危ない考え方じゃ」


「だが、今回に限って言えば、フライのやったことは間違いでもないんじゃろうな」


「俺もそう思う」


 ホルスさんが、はっきりと言った。


「出会ったときの赤目と、フライに接触してからの赤目は、もう別物だった」


「凶暴な獣から迷子になってた」


 ルドーさんも、ゆっくりとうなずく。


「ホルスさんがおっしゃる通りで、殺気の圧が、明らかに薄まってました」


「槍を構えていても、こいつを仕留めるのが正しいのかって、迷うくらいです」


「バードは?」


「うーん、俺は」


 バードさんは、肩をすくめる。


「危険だとは思うし、射抜けって言われたら射抜けます」


「ただフライくんがアレをやったあとで、矢はあまり射ちたくはなかったですかね」


「シアンは?」


 シアンさんは、はっきりと口を開いた。


「フライが間に入らなかったら、きっともっと長い戦いになってましたね」


「それこそ、誰か怪我してたかも」


「だからフライがやったことは、ちゃんと意味のあることだったって思います」


「ノエルはどうじゃ?」


 最後に、ノエルさんに視線を向ける。


「私には戦いのことは分かりませんが……」


「誰も傷つかなかったのは、間違いなくフライさんのおかげです」


 部屋の視線が、自然と僕に集まる。


「フライ」


 おじいちゃんが僕の目を見て言う。


「昨日、わしが言ったテイム」


「今日、お前がやったのは、それなのか?」


「モンスターの声を聞き、迷いと恐れを知り、帰り道を見つけてやる」


「それは、特別な力でもないとできんことじゃ」


「わからない……」


「でも、心の声が、赤目の声が聞こえたんだ」


 思わず、そうこぼしていた。


「なるほどのぉ」


 おじいちゃんは静かに言う。


「見て、聞いてしまったから」


「倒す以外にもできることがあるって、知っちゃったから、やらなきゃって思って」


 僕はしっかりとした口調で言った。


「そうか」


 おじいちゃんは目を細める。


「とにかく、生きて帰って来てくれてよかった」


「生きていれば、そうすれば、次にできることが増えるじゃろうからな」


「うん」



 話し合いが終わり、皆が部屋を出ていく。


 ホルスさんは、廊下で僕の肩を軽く叩いた。


「よくやったな」


「ホップにも、いつか話してやらねぇとな」


「フライは、モンスターテイマーになりつつあるぞってな」


「やめてくださいよ、そんな大げさな」


「まだ、なりつつある、だからな」


 ホルスさんはそう言って笑い、夜の村へと消えていった。



 家に戻ると、母さんが台所で何かを煮ていた。


「おかえり、フライ」


「ただいま」


「今日はたくさん歩いたでしょ」


「スープ、いつものより多めにしておいたからね」


「お腹ぺこぺこだよ」


「じゃあ、作った甲斐があったわね」


 そんなやりとりをしながら、椅子に座る。


「そういえば、文鳥が昼間来ていたわよ」


「……文鳥?」


「お手紙だわ、あなたに」


 母さんから手紙を受け取る。


 筒を外して中を見ると、見慣れた癖のある文字が目に飛び込んできた。


『フライへ』


 最初の一行だけで、誰からかすぐに分かった。


 ホップだ。


 椅子に腰を戻し、手紙を広げる。


『ガルディアについた』


『騎士見習いとして、剣の稽古をつけてもらってる』


『ここの先輩は、親父より厳しい』


『でも、力もめきめきと付いてきている、と思う』


『村はどうだ?』


『みんな元気だといいな』


『あと、実験料理はほどほどにな』


『お前はお前で、村でのこと、頑張れよ』


『いつか、どっかで肩を並べれたらいいなって思う』


『ホップより』


 手紙を読み終えると、心が少し暖かくなった。


「テイム、か」


 呟きながら、窓の外の夜空を見上げる。


 ホップがいるガルディアの方向は、どっちだろう。


 リュミエールが眠る山の上には、いつもより星が多く瞬いているように見えた。

読んでくださり、ありがとうございます。

少しずつフライも成長して行きます。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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