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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第一章 アルミ村編

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第十話 力の使い方

 次の日の朝、僕は妙に早く目が覚めた。


 窓から差し込む光は、いつもより少し薄暗い。


 着替えを済ませて台所に向かうと、母さんが湯を沸かしていた。


「おはよう、フライ」


「今日はずいぶん早いわね」


「ちょっと畑の様子、早めに見ておこうかなって」


「いいことだけど、あんまり無理しないでよ?」


「分かってる」


 パンのことは、まだ母さんに言っていない。


 ちゃんと、自分の中で整理がつくまで、軽々しく言えない。


 僕は、簡単に朝ごはんをかき込むと、外に出た。


⸻


 家の裏側へ回ると、小屋の戸をそっと開けた。


「おはよう、パン」


 干し草の山が、もぞもぞと動いた。


 白い頭と角がぴょこんと飛び出して、ぱちぱちと瞬きをする。


(ねむい)


「ごめん、ちょっと早かったね」


 パンは、あくびみたいに口を開けて、干し草から這い出てきた。


「とりあえず、朝ごはんだね」


 腰の袋から、小さくちぎった干し肉と、煮た芋を少し取り出す。


「今日は芋もあるよ、あわてて食べないでね」


(おいしい おいしい)


 喉を詰まらせないように、少しずつ渡す。


 パンが最後の芋を飲み込んで、満足そうにしたところで、僕は少し真面目なことを考える。


(試さなきゃいけない、自分の力を知らないと)


 パンの頭を撫でながら、これからやることを頭の中で整理していった。


(パン、今日はおとなしくここに居てね)


 干し草の上に、再び丸くなって眠るパンを見届けてから、僕は物置をそっと閉めた。


 そのまま、午前の畑仕事に向かった。


⸻


 畑仕事が終わり表に回ると、ちょうどセラが治療所の方へ走っていくところだった。


「おはよう、フライ」


「おはよう、今日も忙しそうだね」


「あ、ケール先生が、フライにもお礼言わなきゃってさ」


「時間あったら、あとで治療所に顔出してあげて」


 僕はセラを見て頷いた。


「グラムさんのお見舞いに、寄ってみるよ」


「じゃあ伝えたからね」


 セラは手を振って走り去る。


 明るい顔をしているのを見て、少し肩の力が抜けた。


 僕は一度、治療所に立ち寄ることにした。


⸻


 扉を開けると、治療所の薬草とポーションの匂いがする。


「おじゃまします」


「あら、フライ」


 棚の前で瓶の整理をしていたケールさんが、顔だけこちらを向いた。


「で、体調はどう」


「特に変わったことはないです」


 ケールさんは僕の額に手を当てる。


 ひんやりした指先が、体温を確かめる。


「熱はないし顔色も悪くない」


「大丈夫そうね」


 そこへ、奥のベッドから低い声が響いた。


「おーい、ケール」


「俺はもう大丈夫だぜ」


 グラムさんが、片手をひらひら振っている。


「あんたは昔から、大丈夫大丈夫って言って、大丈夫じゃないことの方が多いのよ」


「もう少しおとなしくしてなさい」


 ケールさんがじと目を向ける。


「お、フライも来てたのか」


 ようやく、僕に気がついたグラムさんが、片手を上げる。


「グラムさん、調子はどうですか」


「見ての通り元気だぜ」


「グラム、まだ安静にしていろ、と言われたばかりだろうが」


 奥のカーテンの方から、聞き覚えのある落ち着いた声がした。


 ルドーさんが、書類を抱えて出てくる。


「俺もさっきまで、ケールに説教されてたところでな」


「報告書の提出サボるからでしょ」


「こいつら事務作業は一切やらないんだから」


「報告する義務があること忘れてるのよ」


 ケールさんが軽くため息をつくと、グラムさんは肩をすくめた。


「ケールがやっといてくれよ」


「いっつも後始末は私じゃないの、いい加減覚えてもらうからね」


 ケールさんが、呆れたように言う。


「で、フライ」


「何かあったら、またすぐ来なさい」


「いつでも診てあげるから」


 そう言ってくれるのが、少し心強かった。


「グラムさんも、無理しないでくださいね」


「お、おう」


「もう十分無理してるのよ、寝てなさい」


「はい」


 ケールさんの一言で、グラムさんは苦笑いしながらベッドに背を預ける。


「じゃあ、僕は見張りに戻ります」


「変な気配があったら、すぐ村長に知らせるのよ」


「了解です」


⸻


 見張り小屋に上がり、周りの景色を見渡す。


 畑。森。遠くの山。


「よし」


 手すりに肘をついて、考える。


(赤目のとき、みんなの力がなければどうにもならなかった)


(テイムを使うにしても、周りと足並みを揃えないと危ない)


 そう考えていると、丘の下から、誰かがこちらに向かってくる足音がした。


「やっぱりここか」


 シアンさんが見張り小屋に上がってきた。


「おはよ、テイマーくん」


「おはようございます」


「……って、テイマーくんはやめてください」


 そんなやりとりをしながらも、シアンさんの目はちゃんと真面目だった。


「パンの様子は?」


「今のところ落ち着いています」


「そっか」


 シアンさんは柵に背中を預けた。


「で、本題」


「フライは、これからどうしたい?」


「どう、って」


「パンのこと、秘密で済ませられる話じゃないって、分かってるでしょ?」


「……分かってます」


 そのことが、昨日からずっと、頭の中に引っかかっていた。


「パンを村に置くってことは、モンスターを村に置くってことだからね」


「……まず、おじいちゃんに、話すべきなんでしょうね」


 僕がそう言うと、シアンさんはすぐに頷いた。


「私もそう思うよ」


 そして、少しだけ笑う。


「村長さんなら、分かってくれるでしょ」


 おじいちゃんは厳しいときもあるけど、頭ごなしに否定してくるタイプじゃない。


 それは分かっていた。


「村を守るためにテイムしたってちゃんと話せば、きっと聞いてくれるよ」


 背中を、ぽんっと押された感じがした。


「そうですね」


 納得するように頷く。


「午前の見張りが終わったら、行ってみます」


「私も行こっか?」


「来てくれるんですか?」


 シアンさんはあっさりと言った。


「私も魔力の説明とかしないとだしね」


「じゃ、いつも通り見張りして、村長さんに報告しに行く」


「分かりました」


 僕は素直に頷いた。


「がんばれ、テイマーくん」


「それやめてくださいってば……」


 そう言うとシアンさんは、笑いながら見張り台を降りて行った。


⸻


 見張りを終えるころには、頭の中で何度も同じ言葉を繰り返していた。


(モンスターを仲間にしましたって、どう言えばいいんだろ)


 下手な言い方をしたら、色々誤解されそうだと思った。


 交代の人に見張りを任せて小屋を降りると、シアンさんが待っていた。


「おつかれ」


「迷わないうちに行こっか」


「はい」


 気分は重かったが、足だけはちゃんと向かってくれた。


⸻


 小高い場所に建つおじいちゃんの家。


 軽く扉を叩くと、すぐに声が返ってきた。


「誰じゃ?」


「フライ、それとシアンさんも」


「入っといで」


 中に入ると、囲炉裏の火が小さく燃えているのが見えた。


「で、話というのは?」


 横でシアンさんが、こっそり肘でつついてきた。


「えっと、おじいちゃん」


 僕は、正面からおじいちゃんを見た。


「昨日の件と、そのあと起きたことを、話しに来た」


「ほう」


 おじいちゃんの目が細くなる。


「では、詳しく聞こうかの」


 僕は観念して、息を整えた。


「昨日見張り台に立っていた時、村の縁のところでモンスターを見つけた」


「それから――」


 昨日あったことを、全部隠さずに話した。


 おじいちゃんは、途中で一度も口を挟まなかった。


 一通り話し終えたとき、おじいちゃんはしばらく黙っていた。


「前にも言ったはずじゃ」


 おじいちゃんはゆっくり続けた。


「何かあったらすぐに報告しろ、隠し事は誰のためにもならん、と」


「ごめん……」


 僕は素直に頭を下げるしかなかった。


「モンスターは魔力を持つ命じゃ」


「何かの拍子に暴れれば、守るべきはずの村を危険に晒すことになる」


 僕はその通りだと思った。


「じゃが――」


 そこで、おじいちゃんの声色がほんの少し柔らかくなった。


「戸惑ったのも、わかる」


「テイムという得体の知れん力を、いきなり受け入れろという方が無理じゃろう」


 おじいちゃんは、ほんの少しだけ口元をゆるめた。


「しかし、モンスターの感情が読めるのはお前だけじゃ、フライ」


「うん」


 僕が頷くと、おじいちゃんは話を続けた。


「それは、この村にとって危うい希望かもしれん」


「ならば、その扱い方は、わし一人ではなく、村の民で決めねばならんな」


 すっと立ち上がった。


「今夜、集会を開く」


「まずは村の皆に話し、聞き、決めよう」


「シアン、お前も来てくれ」


 おじいちゃんがそう言うと、シアンさんは頷いた。


「もちろんです」


「魔力に関して説明できるのは、村で私くらいですし」


「助かる」


 おじいちゃんは窓の外を見た。


「……さて、忙しくなる」


⸻


 そして、その日の夜。


 村長の家の奥、前にも会議で使われた小さな部屋には、すでに何人かが集まっていた。


 囲炉裏の代わりにランタンが一つ。


 丸い卓を囲むように椅子が置かれている。


 ホルスさん、ケールさん、ルドーさん、それから年配の農民や、ハンターが何人か。


 僕とシアンさんは、少し遅れて部屋に入った。


「来たか」


 おじいちゃんが頷く。


 僕たちが席につくと、話が始まった。


「今夜集まってもろうたのは、他でもない」


「この村で、モンスターを仲間にした者が出た」


 おじいちゃんは僕の方を一度見てから、簡潔に事の顛末を説明していく。


 赤目との戦い。


 僕がモンスターをテイムしたこと。


 足りないところは、シアンさんが補足する。


「赤目のときの魔力は、本当にぐちゃぐちゃだったんです」


「それを、フライのテイムで元に戻しました」


 ルドーさんが、腕を組んで唸った。


「村長、モンスターはモンスター、危険な存在ではないですか」


「すぐにモンスターは仲間だ、フライを信じろってだけで受け入れるのは、無理があります」


 ハンターとしてもっともな意見だと思った。


「わしも、危険がないとは言わん」


 おじいちゃんは、素直に認めた。


「ただ――」


 そこで、ケールさんが口を開いた。


「赤目と対峙したとき、なんとかできたのは、フライだけよね」


「みんなは、応戦で精一杯だった」


「否定はしねぇな」


「あの力は一人でどうこうできるもんじゃない」


 ホルスさんが苦笑する。


「フライが動いた結果として、誰も死ななかった」


 ケールさんの視線が、僕に向く。


 ルドーさんは黙り込んだ。


 そこへ、ホルスさんが口を挟む。


「モンスターの怖さは、よく知ってるつもりだ」


 部屋の空気が、少し引き締まる。


「赤目みたいな奴が、群れで来りゃ、村なんざひとたまりもない」


「だから、本来なら、全部遠ざけておくのが一番楽だ」


 ホルスさんは、まっすぐ僕を見た。


「だが」


「あれを見てから、俺はこいつを信じると決めた」


「フライには力がある、それは確かだ」


 ホルスさんは続ける。


「だから俺は、その力を見張る側に回る」


「誰かが導いてやれば、きっとあの力は村のためになる」


「シアン」


 おじいちゃんが、今度はシアンさんを見る。


「魔力の観点から言うと、どうじゃ?」


「正直、あの力は万能でもないと思うところもあります」


 シアンさんはあっさり言った。


「赤目みたいなのを何体も相手にしたら、フライの方が確実に魔力切れですね」


 僕は小さく頷いた。


「ただ」


 シアンさんは続けた。


「モンスターの狂った魔力を落ち着かせることができる」


「それは、戦うとは違う、もう一つの手段になり得ます」


 ルドーさんが、深く息を吐いた。


「危ない手段には違いない」


「ええ」


 シアンさんはあっさり認める。


「けど、森でモンスターが増えてる今、頼れる力があるなら賭けてみたい」


「私はそう思います」


 シアンさんの言葉に、その場の皆が頷いていた。


⸻


 一通り話し終えたところで、おじいちゃんが口を開いた。


「よかろう」


「危険はあるが、危険を恐れて何もせんのなら、モンスターが増えて来ているこの地で、村は生き残れんじゃろう」


 おじいちゃんは一人一人の顔を見渡した。


「フライの力は、この村にとって危うい希望じゃ」


「ならば、希望としてどう使うかを、村のわしらが決めねばならん」


 そこで、指を一本立てた。


「まず一つ」


「テイムに関する話は、村の外には絶対に漏らさんこと」


「よそで話せば、フライも村もただの異端として狙われるだけじゃ」


「二つ目」


「モンスターの居場所についてじゃ」


「今のように村の中に隠しておくのは、いつまでも続けられん」


「それは、そうだな」


 ホルスさんも頷いた。


「畑の向こう側に、空き地があったじゃろう」


「昔、家畜を増やそうとして諦めた場所だな」


 農民の一人が言う。


「そこを、柵で囲ってモンスター用の牧場にする」


 部屋の空気が、ざわついた。


「今は一匹じゃろうが、テイムしたモンスターが増える可能性もある」


「村にモンスターの居場所を作る」


「三つ目」


 おじいちゃんは最後に指を折った。


「近隣の調査を強化する」


「赤目みたいな異常個体がいないか、モンスターが集まりやすい場所はどこか、ハンター達には、今以上に目を光らせてもらう」


「了解です」


 ルドーさんが、真面目な顔で頷いた。


「フライ、お前は見張りの時に、気配の異常を意識して見て回れ」


「ただし、決して一人で判断して勝手に動くな」


 おじいちゃんがじっとこちらを見据える。


「モンスターは、牧場から出してはならぬ」


「あくまで、有事の際の力になる時のみじゃ」


「それと、テイムを使うときは、必ず誰かがいる時じゃ」


「約束するよ」


「よろしい」


 ようやくおじいちゃんは笑みを浮かべた。


⸻


 話し合いのあと、村人たちが広場に集められた。


 焚き火の周りに人垣ができる。


 僕は輪の中に立っていた。


(うわぁ、これは正直緊張するな)


 そんな僕の背中を、シアンさんが軽く杖でつついた。


「だいじょうぶ、全部話さなくていいから」


 おじいちゃんが前に出て、村人たちを見渡した。


「皆に集まってもろうたのは、他でもない」


 声が、夜の村に響き渡る。


「この数日で、モンスターに襲われた者が出た」


「森からのモンスターの気配も増えておる」


 おじいちゃんは、一瞬だけ僕の方を見る。


「このフライには、モンスターの気配を読む力がある」


 ざわっ、と村人たちの間に小さな波が立った。


「今回のモンスターの件でも、その力を使って危険を察知し、暴走を抑えた」


「今後も、フライのこの力を、村を守るための手段として使うことにした」


 すると、誰かが手を挙げた。


「モンスターを、村に置くってことかい?」


 年配の男性だ。


 戸惑いが滲んでいる。


 おじいちゃんはうなずいた。


「既にフライが落ち着かせたモンスターがおる」


「柵で囲んだ場所に置き、わしらの目の届くところで様子を見る」


 焚き火の光が、おじいちゃんの横顔を照らす。


「この地で、モンスターが増えているのは事実じゃ」


「わしらが目を背けようが、背けまいが、勝手にやってくる」


 その言葉に、ざわつきは少しだけ小さくなった。


「それを放置しては、この村はただただモンスターに飲み込まれるのみなのじゃ」


「だから、フライの力は、モンスターに対抗するための村の力にする」


 ゆっくりと、村人たちを見渡す。


 しばらくの沈黙の後、理解を示す声がぽつぽつと上がり始めた。


 ホルスさんが、後ろの方から短く言った。


「何かあったら、まず俺たちハンターが出る」


「その上でフライに頼る、それが一番いいだろう」


 その一言で、少しだけ空気が変わった気がした。


⸻


 集会が終わるころには、夜風が肌寒く感じるくらいになっていた。


 家に戻る前に、足が自然と物置小屋の方へ向かう。


 戸をそっと開けると、干し草の山がもぞもぞと動いた。


(ここ あったかい)


「よかった」


 パンのそばに腰を下ろすと、少し疲れを感じた。


 言葉というより、気配で伝わってくる感情だった。


 パンの頭をそっと撫でる。


「僕も、頑張るよ」


(これは、僕一人の力じゃない、この村のみんなの力)


「よし」


「まずは牧場作りから、だね」


 僕は立ち上がって、振り返った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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