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【短編】困った狛犬

作者: 山菜おこわ
掲載日:2026/02/17

とある神社に存在する狛犬のお話-。

ここは何処にでもある小さな神社。

知る人ぞ知る犬上神社。


今日も今日とて癖のある参拝客が五円玉片手にやってくる。


「うららちゃんと結婚出来ますように!」

「来週こそ彼女が出来ますように!ニコッ」


と様々だ。

私-巫女は、ニコッとこちらにウインクをくれた男性に貼り付けた笑みを浮かべて「あはは」と愛想笑い。


ヒラヒラ~っと手を振られたので返せば、男性は嬉しそうに顔を砕けさせ、スキップをして階段を下っていく。もう何回目なのよ。


「はぁ~もう言ってあげなよ。毎週来たってあんたじゃ無理だって」


上の方からの声に私は「こら。まだ話し掛けないで」と小さくこぼしてそちらを見やる。

そこにあったのは地面から伸びた台座の上に鎮座する一匹の狛犬の像-”(うん)ちゃん”だ。


動きはしないし生きているわけも無い。それでもテレパシーのように、その像から声が届く。


「ごめんまだ人残っていたのね。というかあの人の着ている服なに?Tシャツに大きく顔がプリントされてるけど」


「あ~、あれが”うららちゃん”だよ」


「二次元なのね」


私と吽ちゃんは、同時に大きなため息をついた。


「もう、どうしてこの神社には一癖ある人が多く来るのよぉぉ⋯⋯」


私は参拝客が居なくなった神社で一人、文字通り頭を抱えて慟哭する。


「ここ犬上神社って文字通り、動物に関して感謝する場所なんですけどぉぉ」


「仕方ないんじゃない?そもそも何の神がいるかすら参拝客は知らなそうだし」


「うぅ⋯⋯だからってぇ、変な人ばーっかり来るから嫌になっちゃうよぉぉ」


私の魂の叫びに吽ちゃんは「やれやれ」と漏らす。


「私たち狛犬の役割は魔除けと守護。本来その機能が発揮されている筈なのだけど⋯⋯」


吽ちゃんの声はそこで途切れて言いにくそうにしている。私は凡そ想像がついた。


「まーた阿ーちゃん変な人について行ったんでしょ?ほんっと今回はどこほっつき歩いてんだか」


「まったく」と私は半ば呆れながら、吽ちゃんと対をなす台座の方に目をやる。そこにはもう一匹の狛犬-”()ーちゃん”の像が、どこか誇らしげに鎮座していた。


だがそこに阿ーちゃんは居ないのだと、私には分かる。


「⋯⋯まったく」


私は何度目かのため息。

でもそれは、安心したように自然と口を綻ばせた。


ふと見上げると、大きく生えた木々を縫って煌々と辺りを照らす太陽が目に入る。

きっと阿-ちゃんも同じ景色を見ていることだろうと思えた。




「フンフフンフフ~ン♪」


見上げれば煌々と照らす太陽が、今日も今日とて僕の散歩を応援するように光り輝いている。


「きーもちいぃ!こんな日は神社から離れて日光浴がてらの散歩だよね♪」


気付けば僕の歩く四つの足は踊るように進む。そりゃそうだ。これだけ気持ち良ければ足だって弾む。


「あっ、やばいやばい!待って~~~!」


だけどゆっくりしている暇は無いみたい。

僕は小さな手足を必死に急がせて、とある人に付いていく。それはさっき来てくれた参拝客の一人。


願いはなんだっけな⋯⋯そうだ!無事妻から子どもが産まれますように-だった!


僕はやっとこさその男性に追いついて、並行しながら顔を上げる。


「ねぇねぇ。どうしてお姉さんはその人に取り憑いているの?」


見上げた先-それは男性ではなく、その身体に纏わりつくように存在する女性へと。


お姉さんはこちらに気付くと、目線はくれたけど喋らない。こりゃ一筋縄じゃいかないね。


「元カノ?それとも生霊かな?⋯⋯どちらも違う。地獄に落ちたのにその人も連れていこうとしているの?」


僕の問いに、僅かながら女性は頷く。


「生きている人の魂の邪魔しちゃダメだよ」


それでも女性は聞かないので、仕方なく”魔除け”の力を使う。


「ふむふむ。なになに~⋯⋯男性を振ったあと、幸せになったのが許せなくて?その半ば命を落としたから、せめて男性とその家庭を崩壊させてやろう、だってぇ?ばりばりの悪霊じゃないか」


女性には女性なりの言い分があるんだろうけど、死んでも尚誰かに抱く妬み嫉妬は、そのまま悪霊となる力となって働いてしまう。


「今回は地獄から手を伸ばす-だなんて、よーっぽど男性にご執心だったんだね♪」


僕はもう一つの魔除けの力を解放する。

女性は身の危険を感じたらしく、焦った様子で僕の方を見やる。


「男性からは引き剥がさせてもらうね。恨むなら僕でいいから」


「ヤ⋯⋯ヤメ⋯⋯ロォォォオオオオッ!」


「ごめんね」


僕は力を使うと、女性の身体は突風に包まれて、耐えようと必死に男性にしがみつくも虚しく、身体は空へと浮かんで吹っ飛んでいく。


「そのまま帰りなー♪」


女性には申し訳ないとは思うけど、それでも男性の邪魔をするのはダメ。


「ふぅ⋯⋯今日の散歩終わり」


心無しか、女性が離れた男性の顔色が良くなった気がした。

歩く足にも自信が満ち溢れている。きっと妻が子どもがちゃんと産めるか不安だったのだろう。


「これで男性の家庭には幸せが訪れますように」


僕はそう願って、歩いてきた道を引き返す。

またすぐ神社に戻らないと巫女ちゃんと吽ちゃんに怒られちゃう。


「あ~⋯⋯でも、もう少し陽の光を浴びたいな」


僕は少しゆっくりと歩きながら、帰路につく。

また鼻歌を歌いながら。

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