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ラヴィン

カランカランと音を立てながら店の扉を開く。

僕達が昔から魔物の討伐前に食事に来る店だ。


よく利用しているのはただ料理が美味しいから、というだけではない。

それだけなら魔物の討伐が安定し始めた時から別のところで食べ始めても良かった。

いつも通うのは、僕らが3人組で育ったからじゃなく…


「いらっしゃいませ〜!…ぇ」


尻尾と角が生えているラヴィンとの、”4人”で育ったからだ。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


席について少し話しながら、注文するメニューを選ぶ。


「ドラセナは何を頼むか決まった?少し食文化が違うみたいだったけど」


「ええ。あまり見慣れないものですが、全く違うという事は無いようですし」


「お、決まったか。ほいじゃ、すんませーん!注文しまーす!」


カリヤが通る声で呼ぶと、店員のお姉さんが注文を取りに来てくれる。

いつもはラヴィンが来てくれるのだが…そういえば席案内の時も下がってたな。

体調でも悪いんだろうか?帰る時にでも聞こう。


その後、料理が運ばれてくる時もお姉さんが持ってきた。

しかし、料理はラヴィンが作っているようだ。

彼女が作る時だけ添えられている果物や野菜がある。


「どう?口には合う?」


「ええ。とても美味しいですね。舌はかなり肥えている自負があったのですが、それでもまた食べたいと思える料理です」


それは良かった。

昨日までは名実共に貴族だったドラセナからのこの賛辞だ。ラヴィンが居たらこっそり教えてやりたかったな。


「作っているのは、先ほどの角の方ですか?」


「えっ、そうだと思うけど…わかるものなのか?」


「いえいえ、ふふ…そうなんだろうな、と。心当たりは無いんですか?」


「僕に?どういう、いや…無いけど」


「なら、良いんですよ」


あっちの国では読心術でも学ぶのだろうか?

それとも少ない情報から答えを見出す貴族の交渉術的なアレだろうか。


「ほいでよ、今日は武器の調整はどうするよ?」


「私たちは行かなくても問題はない。でも、そっちはどう?」


いつもはギルドに預けてある武器を、時々武器屋で修繕して貰ったり、改造して貰ったりしている。

自分の武器も今はほぼ触る必要はない。だが…


「私は武器の調達が必要ですね。魔法も学んではいますが、主軸となるのは剣ですので」


「じゃあ行くか!ま、掘り出し物もあるかもしれねえしな!」


カリヤは武具を見るのが好きだからか、かなり乗り気だ。

やはり棘だったりの鋭利なものに惹かれるのだろうか。


「僕らの武器は問題ないなら、ギルドに行かずに直行しても良いんじゃないかな。道中にあるし」


「うん。それでいいと思う。」


出費は少なくはないが、しばらく貯金していたし、問題はないだろう。

そんな話をしていると、全員の食事が終了し、会計をして店を出る事に。


「あの、ちょっと良いですか?」


「ええ、何でしょう?」


会計が終わったタイミングで、聞こうと思っていた事をお姉さんに声をかける。


「ラヴィンの事なんですけど…」


「あっ、あのさ!」


ちょうど聞こうと思っていたラヴィン本人がやってきて声をかけられる。

見た感じ、体調には問題はなさそうだが…?


「ラヴィン!ど、どうしんだ?」


「わ、私をさ!連れてってくれない!?」


あまりに唐突な言葉に、僕達は固まってしまった。


「今日って、魔物の討伐に行くんでしょ?あの、ち、違った…?」


「いや、そうだけど…」


そうだけど、そうじゃない。

いや、ラヴィンも戦えるというのは知っている。

なんなら種族的には僕らよりも強いだろう。ただ…


「店はどうするんだ?いつも、僕らが帰ってくるころまで働いてるじゃないか」


「店長から許可は貰ってる。店長が出てくれるって」


あの店長が?姿を見ることすら珍しいのに、働いてる所なんて見た事ないぞ…。

いや、やっぱり様子がおかしい。適当言っているんじゃないか?


「本当なんですか?こう言ってますけど…」


「いや、知りませんが」


どうやらお姉さんは知らないらしい。

やっぱり嘘なんじゃないだろうか。


「まあ、店長が本当に出るなら私は構いませんが」


お姉さんの声に対し、店の奥から「出るよー」と気の抜けた声が聞こえてくる。

どうやら本当らしい。


「足手纏いにはならないからさ、連れてってくれないかな?」


「う〜ん…」


自分としては店長たちが問題ないと言っているなら、問題ないが…


「どうする?」


「私は戦力が多いほうがいいと思う。戦場では何が起こるかわからない。」


「俺は別に何でも良いぜ?チョコもそっちがいいって言ってんだしな」


2人は何も気にしていない様子だ。

ドラセナは…


「…いえ、気にしませんよ?私こそ唐突に同行させて貰っている立場ですし」


何やら思うところがありそうだが、承諾は得た。

なら大丈夫だろう。


「だ、大丈夫みたいだ。じゃあ、今日の魔物討伐、手伝ってくれるかな?」


「ありがとう!じゃ、行こっか!私はこのままでも大丈夫だから!」


ラヴィンはぱっと笑顔になると、僕の手を取って歩き出す。

こうしてラヴィンを加えた5人で、武器屋へ向かった。


何年もこんな事言ってこなかったのに、いったいなぜ今日に限ってこんな事を言い出したんだろうか。

あの笑顔も、今まで見た事ないような…どこか本心が無いような、乾いた笑顔に見えた。

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