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武器屋の新入り

一見品揃えの悪い武器屋に、耳の長い影が差し込む。


「たっ、たのもう!です!」


「アァ?」


「はわっ!」


横へと伸び、尖った耳。スラリとしたシルエットは高く伸びている。

エルフだ。

低い身長が特徴のドワーフとは対照的だ。


「おお?知らねぇ顔だな。客ですかい?ご用件は?」


「いえ!わわ、私!」


ガバッと頭を下げるエルフ。

背中に背負っているバッグから鉱物類やハンマーが溢れ落ちる。


「このお店にっ!弟子入りしたいのですが!」


「そうかい。俺は知らねぇよ」


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「で、でし」


「だってよ。どうすんだ?」


モグラのマスクを着けた店長は、なんとか考えようとはしてくれてるみたいだが、ウチでやっていくのは正直な所難しい。

金銭面的には問題ないので、雑用だったりならいくらでも雇ってやれるんだが…


「…こ、お…ッスー…」


店長はこんな感じだ。

俺との1対1だったら問題なく話せるんだが、それ以外だと全く話そうとはしない。

緊張とか怖いとか、そういうのではなく、信念的な何かなんだという。


「ちょいと待っててくれな。できるだけいい答えを用意すっから」


「はっ、はい…」


見ている感じは店長も乗り気ではあるらしい。

ただ弟子として仕事を共にするとなると、マトモに話せる状態にシフトすることになる。

俺との関係だって、「最初は人として見てなかった」というカスみたいな理由があるからだ。


「…やっぱり、あたしじゃダメなんでしょうか…」


「そういうモンじゃねえさ。それよりもあんたの方こそだ。なんでウチなんだ?エルフなんてこの国でも端っこぐらいにしか居ないだろ」


鍛治をやりたいってエルフも聞いたことがない。

生まれてから魔力に恵まれて成長するエルフは、大体が魔法関係の何かしらをやって過ごしている。

ここに来た何かしらの理由がある。それを聞いてみないと何も分からない。


「その、あたし…森の国で育ったんですけど。何かを作るっていうのがとても好きで」


「おん。芸術家が向いてるな」


「それで、ある日冒険者さんがあたしの働いてた宿屋に来たんです。すっごく綺麗な斧を持って」


「そうか。陶芸家でも目指すといい」


向いている職種を教えてやっているが、耳に入っていないらしい。

あんなに耳がでけぇのに。不思議なもんだ。


「機能美とデザイン性が組み合わさっている物を作るのって、凄く拘り甲斐がありそうだなって、思ったんです。しかもその斧が、凄くその冒険者さんに似合ってて…」


なんとなくは読めてきた。

それは、確かにウチに来るだろう。


「その冒険者さんと話をしたら、持ち易さとかも自分に合ってる…って。そんな所も含めて武器を作れるだなんて、なんて凄い事だろうって。だから、ここに来たんです」


「そうか。」


品質だけなら、他所でいい。

見た目を重視するなら、他所がいい。

店長がまだ若かった俺に、何度も言っていた事だ。

自分達は、道具の本質を生かすべきだと。


ちらりと店長の様子を見る。

真剣に考え込んでいるようだ。

客からこの称賛を受ける事は多くあれど、作り手から憧れられたのは俺が知っている中では初めてだ。


「…うん」


そう呟くと、店長はもぐらのマスクを外した。


「本当に、僕たちの道具を、良いと思ったんだよね?」


「そうです。私の目指す場所はここだと、心の底から思いました」


「接客は、得意かな?」


「宿屋での経験があります」


その聞き方は、接客要員が増えるのが第一じゃないか?

思想の方に納得したんだよな?


「分かった。弟子として認めるよ。最初の内はお客さんの対応をお願いするね?」


「任せてください!頑張りますので!」


すげえ熱量だ。これならまあ大丈夫だろう。


それから、武器屋の日常に1人、加わる事となった。



エルフっ子は名をパミラといい、戦争真っ只中の隣国を越えてやってきたのだという。

エルフの森で宿屋をやっていたのは15年前で、ウチの知名度が低すぎて中々探せなかったようだ。

それだけ時間がかかったのは、鍛治以外で稼ぐのを禁じて生活し、辿り着いた時に恥をかかないようにしたかったからだという。


その生活もあってか最初から基礎的な技能は高く、弟子として働き始めてからわずか十と数日で、冒険者に武器を作る許可を得た。

基礎だけでなく、応用力があり、飲み込みの速さも異常と言って良いほどであった。

伝え忘れていた部分も、いつの間にか俺たちを見て既に学習していたり、接客でも必要な情報を自然に引き出してくる。


俺や店長が武器を作ると「あたし、まだまだですね…!」と燃え上がってくれるのだが、少しすれば同じ領域まで上がってくるだろう、という確信があった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


休日の昼頃、食事を終えて素材の確認でもしようと立ち上がると、ふと思い出した。


「そういや、最近来ねえな」


「えっ、何がですか?」


「ああいや、この街じゃ誰でも知ってる3人…4人組がいたんだがよ」


カリヤとかいうガキは覚えているが、それ以外の名前までは覚えちゃいねえ。

大体週に1回は顔を見ていたような気がするんだが。

何日来てないんだろうか。


「え、知らなかったんだ。あの子達が行方不明なの」


「は?そうだったのかよ。事件か?」


「分からないって」と首を振る店長。

そうか、そんな事になってたのか。

似た様な生活ばっかりだと、日付の感覚がおかしくなるもんだ。


「最後に見たのは…知らねえ嬢ちゃんが一緒にいた時か。それ関係っぽいよなあ」


「僕がその話聞いたのもう二週間ぐらい前だよ。どんだけ遅いのさ」


呆れている店長に「うるせ」と返事を返してやる。


「そうだ。あの時作った剣、かなり良い出来だったよね。取りに行かない?」


「お?あんのか?」


それは気になるな。

武器は調整する時が特にそうだが、使い手の戦闘スタイルや何が得意なのかが大体は読み取れる。

あの嬢ちゃんがどう戦ったのか、興味はある。


「じゃあ、あたし受け取ってきますね!」


「うん、任せたよ〜」


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


しばらくしてパミラが戻ってくると、手には大きめの袋を持っている。


「ちょっと時間かかっちゃいましたけど、ちゃんと借りてこれました!」


「あんがとよ〜。デザートと飲み物用意してあんぜ〜」


「わぁ〜っ」とすぐに食べ始めるパミラ。

脳にスイッチでもありそうな切り替わりだ。


「じゃ、出すね…」


ゆっくりと店長が取り出す。

長い刀身に刻みこまれた魔力回路は、全くの傷がなく、新品同然に輝いていた。


「こりゃすげえな…」


あの時の自分は随分と調子が良かったらしい。

今の自分が全く理解できない構造で、めちゃくちゃな埋め込み方をしている。

その上からどうやったのか上手い事耐久の保管に鉄を載せている。回路を阻害しない様に。


使い手の技量も相当な物だ。

握り手の部分には異常な様相の振り跡と、魔力焼けがある。

だというのにも関わらず、全くもって無理はさせておらず、想像を絶するほどの高出力を破綻なく成立させている。


熟練の剣士や魔法使いですら、この領域には至っていなかっただろう。

そう思えるような異常な使用感が残っている。


「…」


パミラはスイーツを口に頬張ったまま停止している。

「何かおかしいけど、なんで成立できてるんだろう」という顔だ。


正直俺もそうなんだが。


「…僕も、明日からちょっと作る数増やそうかな!」


あの店長が珍しくやる気を出している。

自分はこれを再現するのは無理だと萎えているんだが。


よし。明日からはこの2人に任せよう。


そうしよう。


翌日、パミラの強い要望により、ガラクタコーナーを一掃し、持ち主が帰ってくるまでは武器屋で展示しておく事となった。

ギルドからは色々と文句を言われたが、今までの貢献でノーカンとしてくれた。

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