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【公爵家は大騒ぎ!?】消えた長女

「あなた!あなた!?」


まだ空が薄暗い頃、リテラス王国の公爵家は慌ただしく動いていた。

召使はドタバタと動き回り、夫人はまだ起きていない当主を力強く叩き起こしていた。


「何だ、わかった、わかったから。起きた、起きたとも」


息切れしている夫人を宥めると、ゆっくりと体を起こし、落ち着く様促す。


「ああ…レイダか。一体どうしたというんだね。そこまで取り乱すのは数日ぶりじゃないか」


「そんな悠長にしている場合じゃありませんわ!ドラシィナがどこにも居ないみたいなんですの!」


「ふむ」と公爵は頷き、ベッドから降りる。

「そうか、そうか」と頷きながらそのまま歩き出そうとするが、ふと足を止める。


「…待て、ドラシィナと言ったか?」


「だから言ってるんでしょう!」


途端に表情が急変する公爵。先ほどまでの寝ぼけ眼は完全に消え去り、眉間には皺を寄せている。


「ガーナットでもなく、リンギでもなくか?ドラシィナが?」


「ええ。部屋を出た痕跡すらないと聞いていますわ。あの2人だったら朝食ですら話題には出ませんわよ」


「それもそうだな…」


リテラス王国の最高位貴族、マッサンゲアナ公爵家。

泰然と構えることが美学のこの家で、朝食すら待つ事なく、緊急で会議が開かれた。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「ちょっと!行くっていってるじゃんか!ちょ、あせ、ボクをっ、この、焦らせないでよ!」


「急げと言っておるだろう…」


「アァッ!スミマセェン!」


ハァ…と公爵は大きくため息を吐く。

召使に運ばれ、遅れてやって来た三女リンギの醜態に頭が痛くなる。

次男ガーナットはもう二度寝している。三男サフィは呼びはしたものの10歳手前なので、そこまで意味はないだろう。

次女パセラも頭が悪い。


「ディア…お前が長男で本当に良かったよ…」


「あの、父上。せめて緊急会議の場以外でお願いします」


「あー冗談冗談だ」と公爵は適当に流しつつ、早速本題に入るかと思った矢先。

ディアから鋭い指摘が入る。


「父上?ドラシィナがおりませんが…」


「それが本題だ。今から説明する」


机を力強く叩きガーナットを起こすと、オーツ公爵は話し始める。

ドラシィナが早朝から部屋にいなかったこと。

そして公爵家の中には居ないであろうこと。

外出した痕跡はなく、専属の召使すらも現状が把握できていないこと。


「…大問題ですね。誘拐や殺害などといった線は薄いでしょうが…」


そう。大問題である。

「マッサンゲアナ家の長女」といえば国内の誰もが知る女傑である。

貴族が入学する名門校を主席で卒業し、魔導協会には未発見の魔法理論を提出。

成人の儀を行った翌日には竜王を撃破し、「次代の英雄」や「戦争を終結させる鍵」とも呼ばれている。


長男ディアも主席で卒業し、少なくない功績を上げており、次男ガーナットは多くの武勲を立てている。

次女パセラは多くの貴族から支持を受けており、三女リンギも多くの研究者が注目するほどの才があるという。


三男サフィもまだ幼いが、何かしらの才能は秘めている様子。


しかしそれでもなお、「マッサンゲアナ家の長女」とは並び立つ事はない。


そんなドラシィナが唐突に消えたのだ。


「これが知れ渡った時、どう思われるものか…」


「分かったものではない」とオーツは重く語る。

「た、タイヘンデスネ」とリンギの小さな呟きが静かな部屋に残る。

シンと静まり返った静寂の中、ディアが声を上げる。


「…誰も行き先に心当たりは無いんですか?専属の方なら、何か変わった所とか、思い当たる部分はあるんじゃないですか?」


「……いえ、ございません」


召使の言葉にリンギが「エ」と小さく声を漏らす。

それをディアが見逃すはずもなく。


「ほう、存外だと。言ってみるといい」


「イヤ!そのぉ〜〜〜、気のせい!気のせい…カモ〜…」


「な、なんて…」とおずおずとディアの顔を見るリンギ。

そこにはひどく冷徹な、自分のことを人だと思っていない様な顔が。

「ピィ!!」と視線を逸らした先にも、今にも槍を投げて来そうな般若のオーツが。


「はっ!はぁい!ボクの見解をっ発表させていただきまっす!」


思わず耐えきれなくなったリンギは立ち上がる。


(ドラシィナ姉の尊厳とか、アレかもしれないけどぉ!これは無理!今すぐ行きます!)


「ドラシィナ姉のあの顔!あれは恋をしている乙女の顔だと記憶しております!」


「…ほお。駆け落ちだと?」


「ハイィ!」と鳴き声を上げて硬直するリンギ。

オーツとディアはそれを聞き考え込む。

先ほどまでは、聞いているのか聞いていないのか分からない表情をしていたガーナットが口を開く。


「リンちゃんさぁ、本気?」


「………間違いありまセンッ!」


「あっそ。じゃあ、そうなんだろうね」


ガーナットは納得しているようだが、対照的にパセラは頭に「?」を浮かべている。

サフィはよく分かっていないなりに考えているようだ。


「いや、待て。ガーナット。お前は何故納得した?」


「ディア兄さんには分かんないよね〜」


はっは。と小馬鹿にするのみで、返答はない。


「あら、教えてくださらないの?」


レイダの顔には笑みが張り付いているが、声色はとても冷たい。

「それは残念だわ」と続ける口調には、明確に殺意が滲んでいる。


「失礼しました…リンギはああ見えて人の感情の動きにとても敏感です。自分の目から見ても得体の知れない想い人が居るだろう、というのはありましたから。リンギもそう感じていたのなら、間違いはないだろうと」


「…そうだったのか」


知らなかった事もそうだが、「自分には分かるまい」の意味を考え、ディアは肩を落とす。

オーツもそんな一面があったとは知らず、動揺している。


「しかし、相手の予想はついていないんだな?」


「スミマセンッ」


「いや、良い。責めている訳ではないとも」


少し落ち着いたオーツ公爵は聞くべきことは聞いたともう一度考えを巡らせる。

しかし、相手がわからないのでは動くに動けない。


痕跡が無い。ということからも自分達が理解できない何かをしている可能性がある。

捜索隊は会議を開く前に動く様に命じた。


(手詰まり…か)


手掛かりが見えている様で、見えていない。


この日から公爵家は、長女の居ない日々が続いた。


「……」


翌日、隣町で封の開いた手紙を大量に焼き捨てている召使の姿を、知る者はいなかった。

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