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「…そうですか。まだ、ですか」


まだ、答えることはできない。

僕にはそれ以上、言えることはなかった。


ドラセナも薄々分かってはいたのだろう。

寂しそうな表情を見せているが、ひどく落胆してはいないようだ。


「それは、私が貴族だからですか?」


「いや…戦争中、だからだ」


貴族がその辺の平民を拾って来るのとは話が違うだろう。


「私が戦争を終わらせたとしても、その時は立場が、って言うんじゃないですか?」


「…そう言われると、否定はできないかもしれないね」


痛いところを突かれる。

あの時踏み出せたのはただの正義感からだ。

結局のところ、僕は一線を踏み越える度胸なんてない、ただの一般人だ。


「そもそも、僕が良いと言ったところで、すぐ捜索隊が出るだろう。戦争中だからかなりの時間はかかるだろうが…それでもいずれ、その時はやって来るはずだ」


他国の人間と文通している、という前提条件もあるのだ。

ここに辿り着くのは、想像しているよりは幾らか早くなるだろう。


「…そう、ですよね。ええ、だったら、そうですよね」


何か、ドラセナは考え込んでいる。

僕はこの状況でできる事など無いと思うが、しかし。


「追手が来れなければ、それで良いんですよね」


「それが保証できれば」とドラセナは言う。

どういう事だ。

何が良いという話なんだ。


「誰も知らない、誰も辿り着けない場所まで行けば。私たちの立場なんて知らない人しかいない場所なら、問題は無い。そういうことですよね」


「…」


思い出すのは、昨日の夜。

ドラセナは距離という概念を飛び越えて僕の部屋にやってきた。

しかもピンポイントで僕が座っている、あの部屋に。


パチン、とドラセナが指を鳴らすと、ブゥン、と四角く空間が切り開かれる。

向こう側には、見たこともない建築物、知らない動物が高速で行き来している。


「行きましょう?2人で。誰も追いかけられない場所へ」


ここで行かない、というのは明確な『拒絶』になる。

様々な問題から逃れ、一緒に生きていくことができるこの提案を拒否するというのは。


(僕は…)


今の生活は勿論ある。

でも、戦争が無かったら。

旅立って会いにいく予定だったのは、変わらない。


未知の場所だって、今まで狩りの中で知らない場所を探索してきた。

人との関わり合いだってそうだ。


何より、僕自身の想いは。

手紙が届くたびに心躍って、大切に取ってあった僕の気持ちは。


突然な事ばかりで、目を向けられていなかった、今までの想いは。


あの時からずっと。


「…ああ。行こう。どこへでも行くよ。君と一緒に」



「どこへでも」


一度離した手を、もう一度繋ぐ。


踏み出す一歩に、もう迷いはない。


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