表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

夜風野晒し、二人の始まり

木の椅子に座って夜風に当たっていると、こちらへと足音が近付いて来る。


「ここに居ましたか」


ドラセナが来たみたいだ。

そのまま隣に座り込む。


「月を見ているんですか?…綺麗ですね、月」


「ん、そうだね。今日はまだ満月じゃないかな、あれは」


何が引っかかったのか、悪戯っぽく「んふふ」と笑っている。

何だ、あれは満月なのか?


「いえ、こちらにはまだ広まっていないようですね?」


「広まって…?」


「なんでもないですよ」と穏やかに笑う。

月明かりに照らされているだけでも、竜狩りとはまた違った話から飛び出て来たような、そんな魅力がある。


「____そういえば、なんだかここ、見覚えがありますね。」


「…覚えているのか。そうだね。昔、君に会ったのはこの近くだったんだ」


ここから少し移動した裏道。

そこがドラセナと出会った場所だ。


「案内してくださいますか?あなたが助けてくれた、あの場所に」


「わかった」


怖くはないんだろうか、嫌な思い出だろうに…そう思う所はあったが、当人が向かう事を望んだのだ。

理由を聞くのは、後でいい。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「何も変わっていないですね。今でも鮮明に思い出せます」


大して発展していない町の裏道なんてそんなものだ。

ドラセナと出会って10年近く。それだけの年数が経とうとも、この治安や法律の外側は変わらないまま。


「懐かしいですね…まだ武術を学んでいない頃でしたから。誘拐犯に腕を掴まれて何もできず、そのまま連れ去られるだけだと、半分諦めていました」


あの頃は、まだギルドが大きくはなく、この辺りも冒険者があまり歩いていなかった。

昼頃であったとしても、ここまで引き摺り込んでしまえば、見つけられる人はそうはいない。


「お父様!お母様!じいや!って。何度叫んでもどこからも反応がなくって。ここですね。このひらけた場所」


裏道の中でも少しひらけた場所。

少し剥がれている屋根を見るドラセナの顔は、穏やかな笑顔だ。


「ここで突然何かが降って来たと思ったら、掴んでいた腕が解かれて。逆の腕を掴まれて引っ張られて」


「あそこから飛び降りたんですのね?」と優しく問いかけてくる。

僕はただ無言で頷いた。


「『こっちだ!』って手を引かれてひたすら走って。明るい道に出たら探し回ってるじいやが居て」


それで終わりだ。

うまく行くかどうかわからなかったけど、あの時の判断は間違っていなかった。


「ふふ、『どうやって手紙を送って来たんだ?』って最初は気にしていましたよね?」


そうだ。

もう忘れかけていた頃に手紙が届いたんだ。

送り先と、簡単な謝礼が包まれていた。


「あの後、実はウチの者に尾けさせていたんです。『ありがとう』で終わりは嫌だと。私がわがままを言ったのは、それが最初で最後でした」


なんと、そうだったのか。

それはちょっと怖いな。


「改めて感謝いたします。私の命も、私が私でいられるのも、全てあなたが居るからなのですよ?」


す、と僕の手を取る。

見つめているその瞳は、怯えていた少女と全く同じ色をしている。



「手紙では、ずっと言えないことがあったんです」


細い裏道、弱い月明かりが差し込む中。


告げられた一言に、僕は答えを返すことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ