酒場にて
「しゃっせー!」
酒場の扉を開けると、流麗な音楽と、店員の元気な声が迎えてくれる。
洒落た装飾や、常駐で演奏している音楽隊が居るこの店は、お堅そうな雰囲気でありながらも店員や客、演奏者からは緩い空気が漂い、冒険者の間でも特に気に入られている。
「5名様ですねー!こちらになります!」
ハイっ!と手を挙げて案内してくれる。
座る時も「ドウゾドウゾ〜!」と言ったくれたり、いつ来てもとても元気な名物店員だ。
「良い場所ですね。堅過ぎない心地よさがあります」
「僕達も余裕がある時はよく来るんだ。それじゃ、祝勝会と行こうか」
それぞれが好きな料理を注文し、食事を始める。
いつもは昨日あったことや、どこで誰が何をしていたなどの話題が上がるが、今回は今日の話で持ちきりだった。
「んでんでんで、よ!どういう経緯だってんだよ!ドラセナとの関係はよ?」
「良い加減話すべき。口は軽くないし、どうせどこかで話すタイミングは来る。」
何やらラヴィンとドラセナが話し込んでいるため、いつもの3人で話していたのだが、途中からこの質問以外をしなくなった。
どう話を逸らしてもすぐにこの質問に帰って来る。
(どうせどこかで話すだろう、ってのはその通りなんだよな…)
変に間違った形で周囲に話されても困る。
だったら正確に状況を把握して貰って、隠すべき部分は隠してもらうのが良いのかもしれない。
「…分かったよ。ずっと前にさ、手紙でやりとりしてる人が居る、って話したことあったろ?」
それからは、できる限り詳細に状況を話した。
戦争中の隣国からやって来たこと。その国の貴族であること。いきなり僕の部屋へとやって来たこと。
手紙を送り合う関係になるきっかけを。
「…そうだったんかぁ。俺が思ってたより、ずっと長い関係なんだな」
「運命的な出会い。続いているのも、美しい。」
話終わっての反応は、少し想像とは違った。
チョコはこんな感じだろうと思っていたが、カリヤは何か思う所があるようだ。
「だったら…無理かもしんねぇなあ…」
「私もそう思う。勝ち目が、ゼロ。」
「何の話だよ?」
「いーや!何でもねっ」
何か隠されているが、こんな話を聞かされたのだ。まあ考えることはあるだろう。
(少し暑くなって来たな…)
話に集中していたから気が付かなかったが、かなり温まっていたようだ。
少し風に当たって来よう。2人も何やら話すことがありそうだし。
「ちょっと外出て来るよ。金は置いとくからさ。帰るってなったら会計して出て来てくれ」
「おう。行って来な」
席を立ち、店の外へと歩き出す。
ラヴィンとドラセナはまだ話し合っているみたいだ。
「明日、どうしようかね…」
夜風に感じつつ、これからどうなるのかをぼんやりと考えながら、月を見ていた。