前世の記憶
中華風ファンタジーで読み辛い文字とかありますが
ルビ(フリガナ)をふってありますのでストレスなく読めると思います
俺には、前世の記憶がある。
今の俺の存在とは別に確かに生きていた、もうひとつの人生。
俺は、日本のどこにでもいるごく普通の高校生だった。
特別な才能もなければ、目立つこともない。ただ、平凡な日常を送っていた。
春から大学生になる、そんな期待に胸を膨らませながら、短い春休みを満喫している時だった。
俺を溺愛してくる、ちょっとウザイ姉貴が「リウ。入学祝を買ってあげるわ」と妙にテンション高く張り切っていて、財布やキーケースとか革小物を買ってくれる流れになった。
そんなわけでデパート行った。
「これがいいかしら? ピンク色だったら誰とも被らないわよ?」
「いや、その色はちょっと……」
姉貴は「じゃあ、ダサかっこいいデニム、絶対イケてるわ」と目をキラキラさせて絡んできた。
「ダメージ加工越えて破れてる財布って何!? ダサすぎだろ! それ持ったら大学で即ハブられるわ!」
俺が全力で拒否ると、姉貴は「えー、ダサかっこいいが分からないなんて、リウまだまだ子供ね」と笑いながら俺の肩を叩いてきた。
結局、俺はデパートで無難な色の革の財布を買ってもらい、満足感を抱きながら帰宅するために駅へ向かって歩いていた。
「姉貴、ありがとう。大切に使うよ」
姉貴は小さく笑った。
その笑顔は、どこか誇らしげだった。
「ずっと使い込めば味が出るんだろうな」
俺は「これを姉貴だと思うよ」と冗談交じりに言い、「やだ、私、死んじゃうみたいじゃない」と何気ない会話が続く。
「せっかくだし、俺のアルバイト代でケーキでも食べに行こうよ」
「あら、リウに奢ってもらえるなんて……、わかったわ。一人でお店に入るのが恥ずかしいのね」
「バレたか……」
本当はただ姉貴に喜んでほしかっただけなんだけど、まっ、いいっか。
「もうすぐ、家をでるから。毎日会えるのも、これで最後になっちゃうわね」
「俺じゃなくて、お義兄さんを構ってやってくれよ」
姉貴は「たった一人のかわいい弟なんだから! 結婚、もう少し後にお願いしようかしら」と笑ったーーこれが、姉貴との最後の会話になるなんて。
「その女は誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 誰?誰? 誰? 誰? 誰? 誰? 浮気なの!? うそ? どうして? 許せないぃぃぃいぃぃ!!!!!!」
目の前の道を知らない女が塞いだかと思うと狂気じみた叫び声を上げた。
その瞳はぎらぎらと焦点が定まらず、息を荒げている。
「え……?」
俺は凍りついたように立ち尽くした。
女の顔は、見たこともなかった。
年齢は、母さんより少し若いくらい。
学校の女子でも、塾の浪人生でもない、完全に、初対面の人間。
ただの勘違いだ、きっとそうだ――そう思った瞬間、女の目が姉貴を捉え、まるで憎悪の塊のように歪んだ。
そして、女は何かに取り憑かれたように叫んだ。
「消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 私の幸せを邪魔する女は、いなくなれぇぇぇえ!!!」
女の声は、まるで呪いのように響き、俺の鼓膜を刺した。
ドンッ!
女の手が、信じられない速さで姉貴の胸を突き飛ばした。
姉貴の身体がふわりと浮き、車道へと無情に投げ出される。
「姉貴!!」
助けなきゃ! とにかく助けなきゃ!
俺は反射的に駆け出し、姉貴の手を掴もうと手を伸ばした。
だが、その指先は空を切り、届かない。
次の瞬間、甲高いクラクションと金属の軋む音が世界を飲み込んだ。
視界が歪む。
衝撃。
痛みも感じないほどの強烈な衝撃ーー俺の意識は、その一撃で完全に途切れた。
俺は車に跳ねられたのだろう。
マジで初対面なのに……なんで?
俺の人生は、たった一人の狂気じみた女の手によって、呆気なく終わった。
なんて、酷い記憶だ……。
俺は、前世で姉貴を失い、その傷を抱え続けている。
厳密には知らない女のせいなんだが、そんなことは関係ない。
姉貴を救えなかったのは、他ならぬ俺自身だった。
俺はもう、大切な人を失いたくない。
今世こそは、何があってもお兄を守る。
今度こそ、守り抜く。
何があろうと、絶対に。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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