終章② 家族
中華風ファンタジーで読み辛い文字とかありますが
ルビ(フリガナ)をふってありますのでストレスなく読めると思います
都の春は、桜並木が薄紅の雲のように広がり、喧騒の中に穏やかな息吹をもたらしていた。
赤月哭郷での呪の赤い目との戦いから1年、俺と龍梅、そしてお父は、都の外れにある古い家に落ち着いていた。
かつて忌み子として疎まれ、古に生まれた呪の赤い目と戦った日々は遠い記憶となり、家族は新しい生活を築き始めていた。
朝の市場は、魚の匂いと行商人の呼び声で活気に満ちていた。
俺は、龍神閃を腰に携え、買い物籠を手にお使いの野菜を物色している。
都の暮らしは厳しく、物価の高さに頭を悩ませながらも、気分は晴れやかだった。
「おい、兄ちゃん! その剣、ただの飾りか?」
市場の隅で、馴染みの鍛冶屋が声をかけてくる。
「また、明か。飾りじゃないって言っているだろ? 剣舞用の剣だ。……見たいか?」
鍛冶屋の男が目を輝かせ、市場の片隅で即興の剣舞が始まった。
剣が空を切り、流れるような動きが朝の光に映える。
集まった人々が「おお!」と声を上げ、子供たちが拍手を送る。
剣舞は、かつて呪いを斬った舞いであると同時に、今は人々を繋ぐ架け橋となっていた。
「さすが龍剣先生だ! こんな舞は見たことがない!」
明は「いつも、ありがとな」と舞の代金を俺に渡してくる。
俺が剣舞を舞うことで宣伝になり、剣が売れるそうだ。
こうやって律儀に代金を渡してくれるので嫌な気もしない。
このお金で龍梅やお父に何か買って帰ろう。
「俺も都で暮らす都民になったんだな」
俺は市場から戻り門をくぐると、龍梅が庭で布を染めている。
彼女は男装をやめ、動きやすいが華やかな服をまとい、髪を一つに結い上げていた。
赤月哭郷での孤独と恐怖を乗り越えた彼女の瞳には、静かな強さが宿っている。
「龍剣、また市場で目立ってたんでしょ? 噂になってるわよ」
龍梅がからかうように言う
俺は照れくさそうに頭をかいた。
「龍梅、ちょっとした施しだよ。……それより、その布、めっちゃ綺麗じゃん」
「都の祭りに出すのよ。剣舞の衣装にしたら、映えるかなって」
龍梅の手には、龍の紋様を思わせる青と金の染め布が揺れている。
彼女は都の職人たちと協力し、剣舞を文化として広める準備を進めていた。
かつて家族を守るためだけに使われた剣舞は、今や都の人々に驚きと歓声をもたらす華やかな演舞になりつつあった。
「先生! 早く教えてよ!」
子供たちが門からのぞく。
朝陽が差し込む庭で、俺は木剣を手に、近所の子供たちに剣舞を教えている。
「もういいぞ、入っておいで」
いつも子供たちは目を輝かせ、俺の流れるような剣の軌跡を真似しようと一生懸命だ。
「ほら、力を入れすぎない! 風を切るように、な!」
俺が声を張り上げると、子供の一人が木剣を振りすぎて転び、皆がドッと笑う。
「もうリウったら! ちゃんと教えてあげなさいよ。子供たちが怪我したら大変なんだから」
龍梅が笑いながら声をかける。
長い髪をなびかせ、穏やかな笑顔を浮かべる姿は、かつての赤月哭郷での怯えた少女の面影を消していた。
「俺だって頑張ってるよ!」
前世の名「リウ」を今は愛おしく感じる。
龍梅はたまに無意識に前世の名を呼ぶ。
龍梅が前世の姉貴だったと知ったあの瞬間、過去の後悔が癒され、守るべき存在が目の前にいる喜びに変わった。
「どうりで、双子なのに頭があがらないんだ。姉貴だもんな」
庭の隅では、お父が木を削りながら子供たちの騒ぎを見守っている。
かつて記憶を失い放浪していたお父だが、今は家族との時間を何よりも大切にしていてくれる。
腰帯に差してある煙管には、祖父から受け継いだ紋が刻まれ、自分たちの祖先歴史を静かに物語る。
「父様、子供たちにも教えてあげたらどうです?」
龍梅が父に近づき言う。
「そうだな。だが、剣舞はもうお前たちで十分だ。私は…この家族を守るだけでいい」
父の声は穏やかだが、深い愛情に満ちていた。
「龍剣先生! いつもの話聞かせてよ!」
俺は子供たちを集め、剣舞の物語を語り始めた。
「この舞はな、ただの技じゃない。家族を守るために生まれたんだ。昔、王家の子孫が呪いを封じたって話、知ってるか?」
子供たちは目を丸くし、俺の言葉に耳を傾ける。
「俺と龍梅がその子孫でさ、お父が教えてくれたこの舞で、悪いものをやっつけたんだぞ!」
子供の一人が叫び、「ほんと!? かっこいい!」皆がわっと沸く。
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こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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