龍神閃の意思
中華風ファンタジーで読み辛い文字とかありますが
ルビ(フリガナ)をふってありますのでストレスなく読めると思います
龍梅の声が聞こえた。
しかし、時すでに遅く、剣はまるで意志を持ったかのように動きを止めなかった。
いや、なぜか止めれなかったというのが正しいかもしれない。
まるで剣が自らの使命を果たそうとするかのように、確固たる意志のもとに動いていた。
剣先は男に触れることはなかった。
それでも、閃光のごとく放たれた光の波が、男に絡みついていた赤黒い靄を一瞬で吹き飛ばす。
「あああぁぁぁぁ……」
男は人形の糸が切れてしまったかのように動かなくなり。地面に倒れこんだ。
「お前たちは触れるな!」
お父は「おい! 大丈夫か!」と声をかけ膝をつき、男の胸に耳をあて心臓の鼓動の有無を確認している。
お父は男の胸元から顔をあげると静かに首を横に振る。
「……息をしていない」
「あ……」
喉の奥が震え、言葉にならない声が漏れた。
視線は無意識に剣へと向かい、まだ微かに輝いている刃先が目に焼き付く。
俺が殺してしまった?
「ーー龍剣、大丈夫だ。身を守っただけだ。それに彼には刀傷はついていない。でも、どうしてあんな行動をしたんだ?」
「お、俺は、ーーなんでだろう? わからない……『斬れ』って聞こえて、そしたら……」
剣を持つ手が震える。
「そんな声は聞こえなかったぞ」
嘘じゃない!
確かに聞こえたんだ。
でも、なぜ従ったのかわからない。
考えるよりも先に体が動いていた……まるで何かに導かれるように。
「確かに……いや、間違いなく聞こえたんだ!」
「私も……聞こえたわ。父様」
お父は「そうか……」と静かに呟き、「お前たちが言うのだから、そうかもしれないな。現にこの男の赤黒い何かが消えたからその声は悪いものではないのだろう……」と俺たちの言葉を疑うことなく、真っ直ぐに受け入れてくれた。
信じてくれるかはわからなかった。
信じてくれたとはっきりわかった瞬間、心の奥に巣食っていた不安が確かに溶けていった。
「そ、その父様? あの赤黒い靄みたいなのは……呪いなのでしょうか?」
「呪いか……、信じがたいが、この目でみたものを否定するわけにもいかんしな」
「じゃあ、この剣からでた光で呪いを〖斬った〗ってこと!?」
「それが一番考えられることだろうな」
郷民は呪いによる影響だけでなく、飢えや疲労が極限状態に達しており、呪いが浄化されても生きる力が残っていなかったーー。
と、お父と龍梅と俺は結論付けた。
「久しぶりに〖忌み子〗って聞いたな……」
「そうね……。え!?」
龍梅は頷きかけたが、途中で動きを止めた。
そして、息を呑むように俺の胴部分を凝視する。
「龍剣! どうしたの……その手!?」
「あ? え? うわっ! なんだこれ!?」
俺の手に、青い稲妻のような紋様が手から肘にむかって浮かび上がってる。
恐る恐る触ってみたが痛みはない。
紋様はまるで生き物の鼓動のように、規則的に脈動し微光を放っていた。
「お父っ!? これ!!」
お父は「う……ん」と低く唸った。
考え込むように眉をひそめ、その視線がじっくりと俺の腕を観察している。
「今、この墨のような紋様が入ったのであれば、先ほどのことと関係があると考えた方がいいだろう」
龍梅は俺の腕をムギュムギュと掴んでいる。
指先はやや強めに押しつけられ、じっくりと確認するような仕草だ。 痛みがあるかどうか試しているのだろう。
突然、こんな紋様が入るなんて気持ち悪いはずなのに、彼女の目には好奇心が光っていた。
ん!?
「いだだだだだだだっ!! 龍梅!? 龍梅、痛い! 引っ搔いてる!? なんで!?」
「剥れるかなっと思って」
「いや、無理だって!」
「取れないみたいね。どうしましょう」
お父は「これ、止めなさい」と龍梅をたしなめてた。
「郷長邸には、この郷についての歴史や剣についてなど何も残っていなかった。龍剣のその紋様についても、な」
「山賊が、鼻紙につかったりしたからな」
お父は歴史の記録が紙切れとして消費される——そんな理不尽さに、わずかに眉をひそめていた。
「しかたがない……。赤月哭郷に行くしかない」
ドクンと心臓が跳ねる。
あの郷に帰らないといけないなんて絶対お断りだ!
「俺はいやだ! 痛くもない! それなのに……あの郷に戻るなんて冗談じゃない!」
「でも、龍剣。その手をそのままにはしておけないわ」
龍梅の声は落ち着いていたが、その瞳の奥には真剣さが宿っていた。
「そうだ。今は良くても、今後、どうなるかもわからない」
「何かわかるなら、それに越したことはないわ」
「でも、この男が言っていたのが本当だったら、呪いが蔓延しているんだ。危険だよ!」
先ほどの郷民の目が赤く染まったのを思い出し、なんとか思いとどませようと試みる。
「そうだ! お父、山賊が話していたけどさ、『郷が滅びた』といっていたのは赤月哭郷のことなのかもしれない」
「どう考えても時系列からして違うわ」
龍梅は指を頬にあて、考える。
「時系列?」
お父は首をかしげる。
どうしたんだろう? お父?
「あ……。事の流れです。彼は私たちが郷で出てから3か月後に赤月哭郷をでたと言っていたので。その頃は山賊から解放された村で父様と暮らし始めていたもの」
「山賊……まぎらわしいこと言うなあ」
クッ……、説得失敗。
二人は、もう赤月哭郷へ向かうための相談を始めている。
「待ってよ! 俺は絶対行かないからな!」
「そうか……では私だけ郷に戻ろう。危険な賭けだが、赤月哭の郷長邸に何か手がかりがあるのかもしれないからな」
「ダメだ、お父」
「だめよ、父様」
「「せっかく出会えたのにーー」」
二人の声が重なった。
もう二度と、離れたくはない。
龍梅は俺をジッと見つめる。
「……わかったよ。俺も一緒に行く。この剣があれば、呪いははじくことができる」
「私も一緒に」
こうして俺たちは、赤月哭郷行くことになった。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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