望まぬ再会
中華風ファンタジーで読み辛い文字とかありますが
ルビ(フリガナ)をふってありますのでストレスなく読めると思います
郷長邸に隠してあった保存していた干し肉と根菜でなんとか厳しい冬を越した。
山に入り、獣を狩ることができる春が近くなってきた頃だった。
もうすぐ俺たちは都に向けてこの名無し郷の旅立つ。
郷の入口で、旅人が地面に伏しているのが見えた。
山賊のこともあり、龍梅にお父を呼ぶように伝え、警戒して近づく。
面倒ごとは嫌だけど、仕方がない……。
「……誰か、医者を……」
泥にまみれたその身体は、皮膚の色がわからなくなるほど汚れている。
頬はげっそりとこけ、目はうつろ。
長い飢えに蝕まれ、まるで生命が削られ尽くそうとしているような風貌だった。
「……お前はーー忌み子っ!?」
「なんでーー!?」
その男の顔に見覚えがあった。
その顔は確かに赤月哭郷の郷民だった。
だが、その姿は以前とまるで違った。
「龍剣! 父様を呼んできたわ」
男の目が、龍梅を捕えた瞬間、更に声を振り絞り叫んだ。
「お前たちが! お前たちが……何か……したんだろう!!」
「何を言ってるんだ! 俺たちは何もしていない!」
龍梅が怯えるのを見て、咄嗟にその男の胸倉を掴んだ。
「お前たちがしても、俺たちは何もしなかっただろ!」
赤月哭郷での過去を思い出して強く反論した。
あの理不尽な扱い、影のように生きることを強いられた日々。
お父が間に入ってくれなかったら、この弱った男を殴る卑怯な男になっていただろう。
その男は、俺たちが赤月哭郷を出てから、3か月後に呪いを解くという名目で逃げだした郷民だった。
彼は必死に息を継ぎながら、震える声で何度も何度も不吉な言葉を紡ぎ出していた、滅びと――そして呪い。
「お、俺は、他の郷民が叫び狂い始めて、こ、怖くなったんだ。家に閉じこもり、誰にも合わず……で、でも、妻とこ、子供が同じように狂い始めたんだ……」
その男は、逃げるように家の外に出て郷の様子を目の当たりにした。
正常な人間は自分を除いて数人しかいなかったとうつむき「妻も……子供も……置き去りにして逃げたんだ……」と涙を流した。
「でも……仕方がなかったんだ! わ、わかるよな!」
自分を正当化しようとするその声だが、滲み出る罪悪感があった。
「みんな目から血を流しーーその紋! その紋のように目が、目が、目が!」
男の目が剣の柄に突き刺さるように向けられた瞬間、彼は狂ったように叫び始めた。
「呪いだ……! 呪いは……感染するんだ!!」
彼は怯えたように後ずさるも、震える手を伸ばしながら俺たちに訴えかける。
「何か……知ってるんだろ……!? 助けてくれ……!」
彼はふらつきながら、お父の腕にしがみついた。
その指先は異様なほど細く、力なく震えていた。
「私たちは何も知らない。残念だが……」
「そ、そんな……、みんな死んでしまう。もう、俺もダメだ……」
その瞬間、違和感が走った。
男の目がゆっくりと赤く染まり始めるーー血が滲むような薄紅ではなく、異質な赤。
そして、赤黒い靄が全身を包み始めた。
「龍剣、龍梅! 離れなさい!」
「目が、目が……見えない。あ……あ……!」
次の瞬間、血が。目から赤い雫が流れ落ちた。
それは涙ではなく、まるで絶望をあらわしたような生々しい赤。
「うわあああああ!!!」
男は狂ったように叫び、両手で顔を押さえ、爪を立てて引き裂く。
赤黒い靄が生命のように蠢き、空を這いながら、次の獲物を狙うように延びてくる。
「うそだろ……」
なんなんだ! 何が起こってるんだ!?
俺の頭の中でこの赤黒い靄は危険だと警鐘が鳴る。
「こっちくんな!!」
じわじわと這いよる靄は、俺たちを包み込もうとしてグワッと四方へ伸ばし広がる。
突然ーー俺の腰に差していた龍神閃が光を放った。
「今度は何!?」
俺は驚きに息を飲みながらも、本能的に剣の柄をしっかりと握った。
剣を握った瞬間、心の奥底で何かがざわめいた。
「……斬れ」
どこからともなく響いてきた。
それは、まるで幽界から囁くような、神秘的な声だった。
焦りながらも剣を構え、反射的に「斬る!」と叫び、上から斜めに振り下ろした。
「龍剣ロンジエン! 止めて!」
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こんにちは、作者のヴィオレッタです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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