二振りの龍神閃
中華風ファンタジーで読み辛い文字とかありますが
ルビ(フリガナ)をふってありますのでストレスなく読めると思います
「ところで、そなたさまは何ゆえ、そのような装いを? そして、こちらの御方は男の姿を取られているのですか?」
幽魂の郷長が、じっと俺たちを見つめながら問いかけた。
「龍梅を守るためだよ」
「龍剣を助けるためよ」
俺は「え!? そうだったの?」とお兄と呼んでいた龍梅に言った。
「そうよ。私が女だったら龍剣が厄介なことに巻き込まれるでしょう?」
龍梅が厄介ごとに巻き込まれることはあっても、俺が?
う~ん?
龍梅にまとわりつく人間を払うことなのか?
確かに、龍梅は美人だからな!
「ああ、大切なことをお伝えしないと。そなたさまのお持ちのその剣……、もしや、龍神閃ではございませんか? いや、間違いなく龍神閃でございましょう」
「龍神閃?」
この剣に名前があったのか……。
この剣に名前がある――それだけで、ただの武器ではないことが分かる。
名を持つということは、歴史があるということだ。
「その紋……間違いございません。その剣はどのようにしてお手元に?」
「お父から貰ったんだ」
正確には赤月哭郷長の娘を経由してだけど……。
今更ながら、なぜお父が婚姻を断り続けていた郷長の娘に預けたのか気味が悪くなってきた。
「そうでございますか。あの祭壇に、もう一振りの龍神閃があります。持っていってくだされ」
「この剣がもう1本? 双剣なのか?」
「龍神閃は双剣ではなく、双子剣でございます」
俺は剣を見つめる。
この剣と、もう一振りの剣ーー。
「龍神閃。その剣は、古の山岳王国で、双子の王と王女が民を救った英雄譚に由来しております」
郷長の言葉は、俺の中の疑念と葛藤を刺激する。
俺たちの生まれ育った赤月哭郷では、英雄譚ではなく国を滅ぼした双子として伝えられてきた。
「英雄譚? そんなわけないだろう? 俺らは山岳王国を一夜で滅ぼした双子と同じ双子だから、忌み子と呼ばれ迫害されてきたんだ!」
思わず叫んだ俺に、郷長は揺るぎない視線を向ける。
まるで俺の言葉を受け止めた上で、すでに答えを持っているかのようだった。
「いいえ。間違いございません。双子の王と王女はーー確かに民を救ったのです」
その言葉は、まるで歴史に刻まれた真実を紡ぐようにゆっくりと紡がれた。
「その代償として国の存在を消さねばならなかった。国を歴史から消す際に、王と王女はそれぞれ龍神閃を手に取り別々に暮らしたのです。王女が暮らしたこの郷は、その剣を守り伝えることが使命でございました」
「でしたら、この剣は私たちが貰ってはいけないのでは?」
龍梅が戸惑いながら郷長に伝える。
確かにそんな大事なものを、俺たちが持つ資格などあるのだろうか?
「もう1本の龍神閃を持つ御方がいる、これも縁でございましょう」
郷長は周りの郷民たちへ視線を移した。
「それに私たちは死んでしまった」
この郷の使命を全うすることができないと言っているのだろう。
龍梅はゆっくりと歩を進め、簡易霊牌台の前に立つ。
深く息を整え、静かに頭を下げた。
冥府の実が入った白い提灯が次々と強く燃え上がり一番上の板に炎がもえつたう。
左右の炎が出会った瞬間、板が細かく砕け、まるで風に溶けるように燃え尽きた。
「おおおっ!?」
なんだアレーー!?
なんだ、今の現象は! 妖術とかある世界なの?
簡易霊牌台が消えたと同時に剣が下の段に落ちてくる。
「んんん!?」
「郷長! 空から剣が!」そう叫びかけたが、言葉を飲み込んだ。
剣は舞い降りるようにゆっくりと落ちてきた。
龍梅の手へと吸い込まれるように収まった。
「あら、凄いわ。こんなこと初めてね」
俺も初めて……。
郷長は、龍梅が剣を手にしたことに満足して、郷民に合図をした。
「最後に剣舞をして貰えないでしょうか?」
郷長と旅商人、そしてその後ろに郷民が立ち並び、膝を折って「剣舞」を求める。
俺と龍梅は、顔を見合わせ剣を構える。
龍梅は静かに息を整え、一瞬、目を閉じた。
そして次の瞬間、柔らかな足運びで舞い始めた。
剣先は光を受け煌めく。
俺もそれに合わせ、剣を振るった。
息を合わせながら舞いの形を作る。
剣舞はただの演舞ではないーー亡き者の願い、郷の誇り。それらを剣の軌跡に込めて舞った。
やがて最後の動作を終えたとき、静寂が訪れた。
「見事な舞…剣の主、主君の子孫で間違いない。わが郷の恨みも、この舞で昇華された。最後にわが郷に伝わる主君……に会……えた……」
郷の使命から解き放たれたかのような穏やかな表情を浮かべていた。
「停、留さ……渡してな……埋めて……いた。銅……銭……。持って……い」
その姿はすでに淡く揺らぎ始めていて、それでも最後の力を振り絞るように言葉を伝えようとしている。
「あ、旅商人さん……」
「二人……仲良くな……それと……見事な剣、舞だった……逃げ、……従業員も同じ、舞をし……て……」
その言葉に、俺は眉をひそめた――。
「同じ?」
俺は無意識に龍梅へと視線を向けた。
「この剣舞は俺たち家族しか知らない!」
「ちょっと待ってください! その従業員って!?」
「み……都、……逃げ……まだ……生き……こ……る」
ゆっくりと、立ち込めていた白い靄が薄れていく。
そして、俺たち以外の幽魂――郷民や旅商人たちが、静かに光の粒へと変わっていった。
その光は儚く、美しく、そして静かに。
「成仏……往生したんだな」
「……ええ、そうね」
龍梅は優しく目を閉じた。
その表情はどこか安堵しているようだった。
静かになった洞窟。
「……お父かもしれない!」
「……父様かもしれないわ!」
「ああ、『都に逃げた、まだ生きている』ってそう言ったーー」
生きている!
でも、俺たちを捨てたお父……。
双子の俺たちに会いたくないのかもしれない。
会いに行くべきなのかーー
その時だった、洞窟の入口から誰かが歩いてきた。
「龍梅……」
「龍剣……」
俺たち二人は名前を呼びあい、互いに息をのむ。
山賊が来ることはないが、では誰なのか?
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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