【10章-1話】悪夢のような心地の良いような夢を見た翌日のこと
夜が明け、翌日。
(…ん。もう朝…?)
メリアは自身のベッドで目を覚ます。
何の変哲も無いいつもの時間に、変わらぬ服装で目が覚めると、ベッドから身体を起こす。
「おはようございます、メリア様」
(…っ?!)
反応して声のする方を見ると、そこには手を組んでベッドの隣に立っているラリアードがいた。
「…如何致しましたか?」
「あ…、えっと…。おはようございます…」
挨拶を返すと、メリアは続けて立ち上がって机の方に歩いていく。
(…昨日のあの後の記憶が無いけど、ナウアール様大丈夫かな…。私、何もしてないよね…?)
不安を抱えて制服のローブに着替えようとすると、机に置いてある1枚の紙が目に入った。
(これは?)
机から手に取って自分の方に寄せ、その紙に書いてある文を呼んだ瞬間、メリアはラリアードの方を向いて訊ねた。
「こ、これは何時貰いましたか…っ?」
「それは…。…確か先日の夜遅くでした。12時を回っていたと思われますが?」
「…ありがとう」
その紙に書かれていた文を改めて見ると、メリアは急いで今着ていた服を脱ぎ始めた。
(言わなきゃ、絶対に…っ!)
「おはよー、メリア」
教室に着くと、アリアが初めに声を掛けてきた。
『おはようございます…』
「…うーん。メリア、気分悪くない?顔が明るくないわよ?」
鋭いところを付かれてピクっと反応したが、メリアは無理に口角を上げる。
『だ、大丈夫です…っ、よ』
「本当…?」
疑念を持ちながら訊ねるアリアに、メリアは再び言う。
『大丈夫っ…ですっ!』
「そう。…ならいいけど」
アリアが言うと、メリアは鞄の中に手を入れる。
(…良かった)
安心したのも束の間、突然に教室の扉が勢い良く開かれた。
走って来たのか、やけに五月蝿い息切れをしながら教室に入ってきたのは、驚きの人物だった。
「メリア、ちょっと着てっ…!」
――それを告げたのは、ミレ・キャスバだった。
「ごめんね、突然呼び出しちゃって…」
『い、いえ…。全然大丈夫ですが…』
メリアが廊下に出た間もありながら、ミレは膝に手を当てていた。
結構な距離を走って来たのだろう。
メリアの後を付いてきたアリアが、ミレに訊ねる。
「もう授業が始まるって言うのに…。何かあったの?」
「ごめんね、伝えるのが遅くなって。…学園祭直後で気分が悪いのだけど…。…それよりも悪いことがあるの」
(悪いこと?)
『…どういうことですか?』
メリアが首を傾げると、ミレはいかにも深刻そうな表情で言った。
「…悪霊の取り憑きが始まったかもしれないってこと」
悪霊の取り憑きとは、魔族が主として精霊を操り、人間までもを操ることを指す。
弱い精霊が操られれば、人間にはほぼ害を成さないので特に警戒することは無いが、強い精霊が操られれば騒ぎになるか、大混乱に陥ることが多くなる。
主な症状は、身体に痣が浮き出て身体が主の思うままに操られる、という。
しかし、この主は遠距離に行けば行く程操作の効力が弱まる為、近くにいることが多い。
「…悪霊の取り憑きが始まったってことは…」
「…被害はもう出ているわ」
「何で、ミレ、貴方が知ってるの…?」
アリアの言葉に、ミレは答える。
「察して頂戴。…兄が取り憑かれたのよ」
「…ごめん」
「大丈夫、大丈夫。…でもアリアとメリア。貴方達こそ大丈夫?」
ミレが言うとアリアは何かに気付き、メリアの手を引っ張る。
『ど、どうしたのアリア…?!』
「次の授業、音楽室だったでしょ?行くわよ…!」
『あ』
「ほら、行くわよ!」
そうしてメリアが答える暇も与えずに、アリアは音楽室方面へとメリアをグイグイと引っ張っていったのだった。
(…早くない?)
メリアは驚いたが、手の引っ張りで直ぐにそれを忘れた。
「…駄目」
アリアが呟く。
思わずアリアの方を見ると、アリアは立ち止まってメリアの方を振り返る。
「メリア。これだけ言っておく。…いつまで経っても階段まで着かない」
階段は廊下の端に設置されている為、廊下の端に行くと上にでも下にでも行くことが出来る。
しかし、その階段に辿り着けない。
それは何を意味しているのか、メリアには伝わった。
(何か仕掛けられてる…?)
辺りを見回すも、何ら変わりないいつもの廊下であること以外に気付くことは無い。
「―魔力探知。―」
メリアが魔力探知を展開するも、それらしい反応も無い。
『…アリぁ――』
そこで、メリアの頭に衝撃が加わった。
次に意識が戻った時、自分がいたのは自分の教室だった。
「ねぇねぇ、メリア。特に何も無かったよね。あの後」
あの後と言われても、メリアには意識が無かったのでよく分からない。
(話を合わせとこうかな…)
『う、うん。そうだね…』
「…何か怖いよね」
(え?)
『何が…?』
「いやーね、音楽室行く時のことだよ。普段なったこと無かったもん」
笑って答えるアリアを見てメリアは笑みを作る。
(…)
『…今日から気を付けないとね』
「そうだね…。…あ、次の授業また移動教室だよ。行こ!」
その言葉で、メリアは自分の席から立ち上がった。
(…ナウアール様、今日は来てないのかな…)
3年の教室に立ち寄ったメリアは、扉から覗いてナウアールが登校しているか確かめる。
隅から隅まで見れるところは探したが、ナウアールらしき人物は何処にもいなかった。
生徒会室、図書館、教室。
思い当たるところを全て回ったが、何処にもナウアールの姿が無い。
(…欠席したのかな)
諦めて階段を降りていると、右側に寄っていた筈が、知らぬ間に徐々に左側へとズレたのか、反対方向を歩いていた生徒と肩がぶつかった。
『す、すみませんっ…!』
「…あぁ、平気だ――。…ファスリードか」
聞き覚えのある声を聞くと、メリアは直ぐに顔を上げた。
『ロヴィリア様…?』
「…あぁ、そうだが、何で1年のお前が3年の教室の階にいるんだ?」
『あぅ、えっと…』
モジモジするメリアを見ると、ロヴィリアは呆れたようにピタリと言い当てた。
「ナウアールを探してんだろ?」
『…えっ、何で分かるんですか?』
「3年の階から戻るってことは今日いない3年を探してたってことだろ。それくらい分かって当然じゃねぇのか?」
「ちなみに、今日はあいつはいねぇよ。多分1週間は来ないだろうな。」
最後に何か呟いたような気がしたが、メリアは気にせず、ロヴィリアの話を聞いた。
「…とりあえず、またな。そろそろ帰らないといけねぇし」
メリアの声を待たず、ロヴィリアは階段を登り切って3年の教室へと入っていった。
(…)
それと反対に、メリアは流れるように去っていったロヴィリアに対して驚きを隠せなかった。
(…え、えっ?)
驚きで、しばらく硬直すると、メリアは気を取り戻して階段を降りた。
――(少しあそこに寄っていこう)




