【9章-13話】学園祭の終結
終結と言いながらも、私には学園祭が終わった、という感覚は一切無かった。
そこで、私が目覚めてから一体何が起こったのか話しましょう。
――私はあの失神した後、何時間も目を覚まさずに医務室で寝ていたのだ。
私が起こされたのは、学園自体が閉まる夜8時頃だった。――
――8時頃。
「…ん」
何かの衝撃でメリアは目が覚める。
それが声なのか振動なのかは定かではなかった。
メリアは目を擦り、医務室のベッドから身体をゆっくりと起こして窓の外を見る。
(外、暗い…)
メリアは、そんなことを考えていた。
だが、しばらくした後にメリアはある事実を思い出した。
――自分は何かの衝撃で起きた。
嫌な予感を胸にしながら、速まる心臓音を抑え、まだ自分が見ていない、左側を見た。
「やぁ、メリア」
生徒会長である、ナウアールだった。
(…な、なんだぁ…)
メリアはいつものように驚くことも失神することも無く、何となく感じていた人物に何故か安堵した。
その理由は自分でも分からない。
メリアは結界書法魔術の詠唱をして、魔術を展開すると、ナウアールに訊ねた。
『…ど、どうしてこんな夜に医務室へ…?』
メリアが訊ねると、ナウアールはまるでその質問が分かっていたかのように話す。
「学園祭という特別な祭で、大事な役を任されたのに、完璧に成功させたあとに失神して、今日初めて医務室に運ばれた女子生徒がいるって聞いてね。生徒会長だから、その生徒を看病しなきゃと思って」
「…ね?」
誰かの顔色を伺うように、ナウアールは後ろの簡易カーテンに向かって言う。
すると、カーテンの後ろから大きな溜息がしたかと思うと、シャッとカーテンを捲って1人の女子生徒が中に入ってきた。
「…何で私に聞くのでしょうか?」
エイラだった。
『えっと…。エイラ様は何故ここに…?』
メリアが恐る恐るエイラに訊ねると、エイラはこちらに気付いて答える。
「アリアを先に寮に送りましたから、メリア様にそちらを報告してから帰ろうと思いまして」
「…遅くなるから、僕が言っとくよって言ったのにね?」
ナウアールが言うと、エイラは呆れたように更に訊ねる。
「ティレとラウィーヌの伝言も伝えなきゃいけないのにですか?」
『あ、あの…?』
「…あぁ、すみません、メリア様。無駄な話をしてしまいました。お詫びを申し上げます…」
頭を下げるエイラに、何だか申し訳なくなったメリアは必死に手をブンブンと振る。
『えっ、いえっ、いえっ!』
メリアも頭をペコペコと下げながら謝っていると、その後ろで、ナウアールは何食わぬ顔でニヤケながら答える。
「それで、何処が無駄な話だって?」
「あら、自分で感じていなくて?」
真顔で切り返すエイラを見ても尚、ナウアールは笑みを浮かべながらエイラに言い返す。
「あぁ。何が気に食わないのかさっぱりだね」
「ならそのままでよろしいかもしれないですわ」
「…君は熟熟そう言う人だね…」
諦めたような口振りで腕に顔を埋めると、エイラは真顔の裏に満足気な笑みを浮かべると、表面の顔までも笑顔に変えて言った。
「お褒め頂き、感謝致します」
「…うん」
更に諦めたような口振りで言うと、ナウアールは魂が抜けたように腕に顔を目いっぱい埋めた。
その隙に、エイラはメリアの寝ているベッドに近付くと、
「…それで、伝言なのだけれど」
『は、はいっ…』
(ティレ様とラウィーヌ様の伝言…。また何か言われるかな…)
そして、メリアは何となく覚悟をして、エイラからの伝言を待っていた。
その様子を見ながら、エイラは何かポツポツと呟いて掌を回す。
(何かするのかな…?)
不思議そうにエイラの手元を見詰めると、エイラはそのまま自分の掌を見詰め、最後に大きな声で言った。
「――展開。」
その声と共に、エイラの掌には魔法陣が展開され、直ぐに文字を浮かべた。
エイラはその文字を読むようにして、メリアに言った。
「〈早く契約精霊にでも看病してもらって休みなさい〉とか〈ゆっくり休んでね!〉でしたわ」
『…へ?』
圧巻とした仕草に、メリアは目をパチパチと開閉する。
「お分かりでしょうけれど、前者がラウィーヌで後者がティレですわ」
『…そ、それは良いのですが…』
ワタワタとエイラに聞こうとしたことを思い出す前に、エイラはメリアの反応をまるで分かっていたかのように答えた。
「…アリアも〈お大事に!また次の日ね!〉と言ってたわ。…相変わらずね」
(あ…)
メリアが口を開けて硬直していると、エイラは構わず1歩後ろに下がる。
「では、私はこれで失礼致しますわ」
そう言ってカーテンを開けると、メリアは遮るようにそれを止める。
『…っ、まっ、待ってくださいっ!』
「…メリア様?」
(えっと…)
メリアは緊張する胸を抑えて深呼吸すると、エイラは先程まで真顔のまま固まっていた顔を崩し、微笑む。
エイラの表情を見たメリアは、エイラに向けて書いた。
『アリアに、宜しくお願いしますっ…!』
「…えぇ。言われなくとも、その反応で伝えるつもりでしたわ」
(…え?)
またもや衝撃の言葉で硬直すると、エイラは頭を下げてまた同じ台詞を放った。
「…では失礼致します。メリア様」
(…え?)
メリアは唯何も言わず、エイラの背中を見送る。
未だ疑問を浮かべているメリアの後ろで、声がした。
「…フェリンドールも今日は中々に芯が通ってるね。何も構わず帰っちゃった」
ナウアールの声に驚いたメリアは、思わず後ろに向かって凄い勢いで倒れる。
その背中を軽々と抑えて地に立たせると、ナウアールはメリアの頭の上から顔を覗かせて訊ねた。
「…ねぇ、メリア。この後まだ少し残れる?」
「――少し、付き合ってくれないかな」
「ありがとう、メリア。付き合ってくれて」
ナウアールがいつもの微笑みを浮かべながら、メリアの頬に触れようと手を伸ばす。
『えと…、寮長に怒られなければという条件を付けたんですが…。私…』
手から自分で離れ、メリアが訊ねると、ナウアールは表情一切変えず、メリアの手を掴んでエスコートする。
「大丈夫、大丈夫。もうとっくにエイラに帰りの報告を寮長にはするように、言ってあるから」
『…生徒会長って凄いですね』
「案外そうでも無いよ。別に気持ちが良い時なんてあんまり無いしね」
話しながら華麗に廊下を歩く様は、とても美しかった。
「――おっと」
何かに気が付くと、ナウアールは壁際にメリアを誘導する。
「…学園長が見回りに来てる。…しゃがんで少し静かにしてて」
『あ、あの…っ?!』
メリアが掛ける間もなく、ナウアールは学園長の持つライトの先に向かって歩き出し、あっという間にその姿は無くなった。
(…大丈夫かな?)
メリアの心拍数が上がると、静寂の所為か、廊下の中で心音が響き渡るように感じる。
(…)
目を瞑り、数分待つと、こちらに向かって歩く音がした。
しかも徐々に近付いている。
(…ナウアール様かな)
目を開けると、そこには想像した通りの人物そのものがいた。
(…?!)
ビクビクッと身体を震わすメリアとは正反対に、ナウアールはいそいそと手を差し出してメリアに言う。
「学園長には、僕が最後に戸締りするって伝えたから大丈夫。…立って良いよ」
『…は、はいっ』
それを聞くと、ナウアールは微笑んだ。
「…生徒会室の鍵は…。これかな」
「入っていいよ」
ナウアールが言うと、メリアは生徒会室の扉を押し開ける。
『し、失礼致します…』
そう口に出しながら1歩踏み入れると、ナウアールはその後ろから灯りを付け、笑って言う。
「そんな固くしなくていいよ、どうせ誰もいないし」
『…そっ、それで、話とは…?』
オドオドとした様子で訊ねると、ナウアールは手を組んで言った。
「――僕と君の関係について、だよ」




