【9章-8話】花畑の前で告げる言葉
――「最高魔術師からの、伝言よ」
そう言ったのは、最高魔術師が1人であるルイナーレ・セイランだった。
メリアは頭の中で小さく思う。
(…それで、何故か何処かに連れていかれることになって…。伝言は…?)
しばらくルイナーレについて行っても、事情も話も何もしてくれない。
伝言と言われたのに、伝言も伝えられないまま歩いていると、ふと前を歩いていたルイナーレが足を止めた。
「…さてと、じゃあここで話をしましょうか」
(話…?)
「先に言わせてもらうわね。…これは属星魔術使いが1人、ヴィレトリア・フルリーが行使する、光属性精霊神アートバーディット神託大特化魔術による伝言。そして、…予言と導き」
ルイナーレは言うとメリアの表情を伺うように、顔を覗き込む。
(…)
「あぁ、話していいわよ。もう安定術も終えたところだし」
メリアは素早く詠唱をして結界書法魔術を展開する。
『…えっと、その伝言って…?』
「…さぁね、伝言だけ預かってきたから、ヴィレトリアの意図は分からないわ。…それに私の方が立場が下なのだし。…それなら手っ取り早くシルベート様かラリー様が話してくれれば…」
『…?』
「あの二人は貴方の学園祭フィナーレの時に周りに被害が出ないようにする結界を補強するのと守ることが仕事だったからしょうがないけれど」
軽く首を傾げるメリアの目を見ながら、ルイナーレは何かに気付くとまた口に出す。
「…でも、こんなこと言ってる場合じゃないわよね。もう直ぐ学園祭のフィナーレだし、急がなきゃだわ」
(…?学園祭のフィナーレって、あともう2時間くらいだったと…)
メリアが倒れる前、最後に確認した時間は2時頃。
そして今、メリアが校舎の時計を見てみた。
今の時刻、3時半過ぎ。
学園祭のフィナーレ、4時予定。
『…準備に行かなきゃっ…!』
思わず結界に現れてしまうと、ルイナーレはやれやれと指を立てる。
「順番を追って説明するから。…5分で終わる」
聞いたメリアが頷くと、ルイナーレは人差し指を立てて言う。
「そもそも、光属性精霊神は予言を司っているの。…だから、ヴィレトリアの神託大特化魔術も予言も聞ける。…それでヴィレトリアが聞いたのは――」
「――歴の森へ入れば、全てが明かされ、自由と新たな出会いを齎す――とメリア・ファスリードへ、ってね」
『暦の森?』
「自分自身で考えてみて。…私もあまりこういうのには関わりたくないから」
それだけ言い残すと、ルイナーレは2歩メリアから離れると、詠唱をした後にメリアに顔を向ける。
メリアはその様子を見ていると、ルイナーレは呆れたように、台詞を残して消えた。
「…達成するまで、覚えていて。…それとフィナーレも。楽しみにしてるわ」
言い残してあっさりと去ったルイナーレを呆然と見ていたメリアだったが、いい残された伝言を胸に刻み込むと、大きく深呼吸をした。
その中でも、心に決めていた。
(…私は、今できることを)
胸に手を当てると、顔を上げ、メリアは来た道を戻って行った。
校舎裏に着くと、メリアは早歩きで辺りを見渡す。
(えっと、ここを左に行けば……)
メモ用紙を片手に左折すると、目的の場所に走る。
メリアが向かっているのは校舎裏――アリーナの裏である。
何故なら、学園内の敷地全体を巻き込むフィナーレなので、扱いが良い場所がここだったからだ。
校舎裏は裏だからといって汚い訳でも手入れされていない訳でもなかった。
それよりメリアの目に入ったのは、端の方にある花畑。
大きさで言えば、花壇と言っても然程ないが、メリアの目に入った理由があった。
花畑に植えてある花々は、それぞれ赤、黄、青、紫、白…と様々な色彩を持っていた。
そんな色とりどりの花に、メリアは見覚えがあった。
『…これって、生成造花…?』
「そうです。学園の結界保護の為の今日限定の魔力生成造花です。今回のフィナーレの件で、生徒会長様が必要魔力の問題で、更に例年より数を増やしましたけど」
魔力生成造花は、誰しもが出来る技では無い。
最低でも上級魔術師か中級魔術師になって、初めて学ぶ許可が得られる魔術である。
(それにしても、なんで学校では習えないんだろう…)
魔力で作られた造花を見てふと思うと、まるで質問に答えるように、ルイナーレは花畑の一部を見つめながら言葉を返す。
「…リバン王国との件で、更に厳しくなったからかもしれないですわ」
そういって造花の中から花弁が茶色がかっている花を手に取り、ルイナーレは詠唱をした。
すると、魔力の粒が花を包み、他と同じような造花に戻した。
そうして元あった場所に置くと、また詠唱をする。
(…?)
目がルイナーレの手を追う。
慣れたような手つきで掌を出すと、光が生まれ、その中から虹色に輝く蝶が生成された。
きっと魔力の塊を蝶に見立てたものだろう。
メリアが無言で見とれていると、ルイナーレは指で掌から離れた蝶のあとを指先で追う。
その終着点は花畑だった。
ルイナーレが更に掌を蝶に向けると、蝶は分裂して同等の形を3つ程作り、花畑に向かった。
(…綺麗)
微笑むと、ルイナーレはメリアの方を睨むように見て言った。
「これは貴方の為の魔力ですから、早くなさって下さい。折角のフィナーレが遅れますよ」
『あっ、そうでしたっ…!』
「…」
(えっと、確かあっちの倉庫に…!)
メリアが慌てて奥側にある倉庫から身長より少し高い装飾が施された杖を持ってきた。
「これは…?」
『学園行事のときに使用出来る杖だそうです。…特に特別な理由は無いみたいですけど…』
メリアが含羞むと、ルイナーレは目を丸くした。
直ぐに表情を戻したが、ルイナーレは余韻の影響かコソッと呟く。
「…へぇ」
(だから、私に依頼したのねぇ…)
不気味な笑みを浮かべるルイナーレの前で、メリアは気付かす杖を握り締めたのだった。




