【9章-5話】魔力漏れした術式
メリア達は、シルベートを連れて学園内を歩いていた。
(…ずっと学園内部でうろうろしてるけど、何か方法があるのかな…?)
メリア達がシルベートに共同行動をお願いしてからしばらく経ち、メリアは不安げに表情を伺う。
すると気付いたのか、それとも何か思い立ったのか、先導していたシルベートは足を止めてこちらに振り向く。
「一通り、学園の中を回ってみましたが、少し気になることがあったので、少々お訊ねしても宜しいかしら?」
「はい、お気になさらずにどうぞ」
ティレが答えると、シルベートは軽く頭を下げるとぶつぶつと呟きながら、指で四角を描く。
何周か描くと、手元に魔法陣が浮かび上がる。
「…これ、魔導地図っていうやつ?」
アリアが呟くと、隣にいたティレは顎に指を添えながら「そうね」と答える。
シルベートが展開した魔導地図は、学園校舎の部屋の区切り、人間の密度…と精度の高く計算された情報が刻まれていた。
(…凄いけど…、これで何が…?)
関心しつつ疑問を感じていると、続けてシルベートが掌に浮かぶ魔法陣を広げ、ある場所を指差した。
――空き教室。
それも、唯の空き教室では無く、この間事件に巻き込まれた空き教室だった。
「ここの教室から、異常な程の魔力反応値があったので入りたいと思い…」
(あれ?でも確か、あの空き教室は何処かのクラブの展示だった気が…?)
『空き教室は、例外なく全てクラブの人達が使用してる筈ですが…』
メリアが訊ねると、後方からアリアが肩を叩いて耳打ちする。
「工作術式クラブだと思う。エイラも言っていたし」
『ら、らしいです…!』
「私に聞こえるように言ってもらわないと分からないですが…?」
自分自身が放った気が抜けた発言に、メリアは思わず口元を手で塞いで、「むごごごっご…!」と声に出した。
恐らく「ごめんなさい…!」と言っているのだが、当然シルベートには聞こえないので、シルベートは悪気なく言った。
「…とりあえず、もう行きましょうか…」
メリアは直ぐに手を外し、横目でシルベートが魔導地図を仕舞うのを見つめた。
「ここですか?シルベート様」
「そうですね。…案内感謝致します」
深く頭を下げると、シルベートは空き教室の前で考え込む。
空き教室は、誰でも入れるように扉が全開になっていて、中側がはっきりと見える。
工作術式クラブという名だけあって、部屋中には様々な術式が並んでいた。
また、魔術を使用したのだろう飾り付けも、飽きないように施されていた。
術式は声に出さなければ発動はしないので、こういったクラブは作れるのだ。
「…これは興味深い。特定の花を咲かせる魔術と物体を使わず日を遮ることの出来る魔術…」
1冊の本に書かれた、数多い術式の中でシルベートは呟く。
(この魔術、掛け合わせないと作れないものだったんだ…)
メリアは少々驚きながら術式を見る。
するとシルベートの後ろに、1人の人陰が近寄る。
「属星魔術使い様は、こういった術式は創作しないのですか?」
更に驚いて見ると、そこにいたのはいかにもお嬢様のような少女、エイラ・フェリンドールがいた。
「私達の仕事とは、術式を作ることと無関係ですのであまり創作はしないのですよ」
「そうなのですか…」
エイラが言うのと同時に、新たな発見にメリアはなるほど、と頷く。
ふと本の名前を見てみると、小さく【エイラ・フェリンドール】と書かれていた。
『これって…』
呟くと、エイラは今更こちらに気付いたかのように「メリア様、アリア、ルフェード様、ご機嫌よう」と頭を下げる。
気後れしないように、続けてメリアが訊ねる。
『エイラ様の創作した術式でしょうか…?』
「はい、そうですが…」
他の術式が載っている本を見比べても、一瞬で違いが分かるくらいにエイラの本は分厚い。
「これでも副クラブ長なので、クラブ員よりは多いと自負しています」
「けれど、ここには風魔術に関した術式が無いですよね?」
ページを全て読み終えたシルベートが、エイラに訊ねる。
「やはりお気付きになられましたか。実は、風魔術は術式創作に向いていなく、あまり個人的に使用しないのです」
「でも、貴方風魔術の使い手でしょう?風化だったり突風の術式は作れると思うのですが?」
「…そ」
エイラの目は輝いていた。
「そうなのですね!?今まで創作できないと思ってきたから嫌いでしたけれど…、もし良いのでしたら教えて貰うことは出来兼ねますでしょうか…?!」
(だから「嫌い」って…)
はっとしたメリアの後ろで、アリアが口を開く。
「エイラ、その人属星魔術使い様だよ…?」
アリアがエイラに告げると、エイラは首を傾げて再度アリアに訊ねる。
「属星魔術使い様…」
そうして黙り込むと、何かを思い出したエイラはシルベートの手を取って、また興奮気味に話し出した。
「…これから属星魔術使いの恩人様と、呼ばせてもらっても宜しいでしょうかっ…!?」
「ま、まぁ…?」
「感謝致します…!」
目を輝かせるエイラに、シルベートの表情が若干柔らかくなると、コホンと咳払いをして言った。
「…城に招待するから」
その声はエイラには聞こえていなかったのか、エイラは満面の笑みを浮かべていた。
その後ろで、会話をしていたティレとシルベートにアリアが訊ねる。
「…話を遮って申し訳ないのですが…、先程仰っていた気になることは、何ですか?」
アリアが言うと、シルベートはハッとしてある術式を指差した。
「エイラ殿…、と申されましたでしょうか。貴方の術式から魔力が漏れているのですが…」
「魔力漏れ…、でしょうか?」
エイラが慌ててその術式を見ると、直ぐに部屋の天井を見上げる。
「上の階に繋がってる…?」
その声にメリアも顔を上げる。
確かに、言う通りだった。
術式からは魔力が漏れ、天井に向かって伸びている。
術式は、魔力と文字から出来ている。
だが、その魔力は術式から穴が開き、気付かずに漏れることが少なからずある。
漏れた場合、液体のように流れを作って別の魔術や術式に組み合わさることが多い。
(でもこれ、魔力漏れより繋がっているように見える…)
今魔力漏れしている術式は、“魔力を溜める”魔術の術式。
きっと、この術式には通常の倍以上の魔力が使われている。
故、制御出来なくなり、漏れているというのがメリアの見解だった。
しかし、シルベートは迷わず漏れた魔力に指を触れさせると、こちらを向いた。
「この上の階は、本日使用していますか?」
「えっと…」
アリアが上を向くと、ティレが後から答えた。
「――魔術研究部が展示を行っています」
言うと、シルベートは深刻な顔つきで言った。
「皆、行きましょう。私が先導します」
その台詞は、総てを護る者の言葉だった。




