【9章-3話】その本は
――魔物や魔族が突如として狂い暴れるのと同じ様に、人間は自身の知らない真実を知ると、半狂乱に狂い暴れる。――
それは、何処かで聞いたのか、それとも読んだのか見たのか分からないが、誰かの言葉であった。
魔術には様々な種類がある。
元は属性で区切られているが、その応用として操作系魔術や召喚系魔術も生み出すことが出来る。
魔術は別に、魔法という概念もある。
魔法は、主に自然の力に頼ったり身近なもの、そこに“存在する”ものを動かし、操る方法を指す。
そしてもうひとつ特徴がある。
――それは、魔法には詠唱が要らない、ということだ。
魔法は、自然や身近なものを操る方法のことである。
故、主に魔力で流れを作ることにより、魔法は生み出される。
じゃあ魔術も同じだろうって?
否、全く、全然、何も違う。
魔法は魔力で流れの“形”を作り、“自然の力や身近なもの”に頼って“流れを作る”こと。
逆に、魔術は人工的に光や惑星の力、風、闇等を術式によって生み出す為、魔力で術式を編んで、“無いもの”を“生み出す”こと。
そう言った違いがあるのだ。――
これは、メリアが何処かで読んだか聞いたかで伝った言葉だ。
(…誰から教えてもらったんだっけ)
興奮も時期に治まり、胸の高鳴りもすっかりと言って良い程に落ち着いた。
メリアが先程まで探していた本は、運悪く先客に取られていったのだ。
…見るからに位の高い貴族のような身なりの男に。
(ちょっと待って下さいの一言さえ、言わせてくれない表情してたからぁ…)
肩を竦めてトボトボと地に落ちている小石を蹴る。
改めて古本市を何周かしても、あまり興味のそそられる代物はメリアの目に入らない。
どれを見ても論文、エッセイ、紀行…と全く魔術に関係ないものばかり。
「それなら、魔力量の論文や魔術師の功労を書いた論文とかで良いのに…。…せめて小説とか簡単な魔術書とか…」
本音を呟くように口にしながら吐き捨てると、丁度ある本が目に止まった。
――“魔術に基づいた、人間の仕組みについて”。
その本が、唯一のメリアが気になった本であった。
本の体を隈無く見ても、何処にも著者の名は記載されていなかった。
(…少し、見てみようかな?)
メリアが本を手に取り、開こうと表紙を持とうとすると、後ろの方で声がした。
「おい、そこの嬢ちゃん。本を開くにゃあ買わねぇと――。おっ」
メリアが自分の出せる最速で振り返ると、そこに見覚えのある者がいた。
『…ディアブさん?』
「おぉ!あの時の嬢ちゃんじゃないか。…ところでだが、金払わねぇとここらの本は買えねぇからなー?」
相変わらずの団子頭を搔いて言うと、メリアはディアブと自分が持ってる本を2度見して訊ねる。
『そうなんですか?』
「あぁ、店主が言ってた。見に来た時言われなかったかい?」
『あ、えっと…』
メリアが指を弄ってモジモジとしていると、ディアブは片方に持っていた小さい本をメリアに見せる。
「まぁいいさ。あたいはもう買ったから、あんたもその本かな?買って行きなよー、あの店主マジで怖ぇからな?!」
どんどん声が大きくなるディアブの後ろで、店主らしき男の陰があった。
『あ、あのぉ…。ディアブさん?』
「ディアブ」
メリアが気にかける前に、男が圧を掛けながらディアブの肩に手を乗せる。
「声クソデカ魔導具屋のぉディアブ?ちょーいとこっちに来てくれねぇかな?」
「うぁぁ…。ごめんあんた。ちょいと失礼するよっと!」
ディアブは身体を回すと、男の方とは逆の方に走っていった。
「チッ、アイツ直ぐ文句ばっか言いやがる…。……嬢ちゃんは、その本買うかい?」
『…あ、えっと…』
メリアは手に持っている本をじっと見つめると、胸で抱き抱えて言った。
『か、買いますっ!』
驚くことに、その本は昔メリアが読んだ本だった。
最初にはメリアの見覚えのある文が載っていて、メリアはその後から読むことにした。
――また、魔術は操作系を唯一行使できる方法でもある。
だが、極稀に魔力を編みも形を作りもせずに魔術のような魔法のようなものを扱う者がいる。
それが先天的能力を持つ者だ。
先天的能力を持つ者は、名の通り生まれながらにして心理操作や身体操作を自由自在に操る。
それも魔術とは違った、短縮詠唱のような短い詠唱を使う方法で。
しかし、便利なことに先天的能力を持つ者は、見た目で判断出来ることが多い。
その判断方法とは、瞳を見ることだ。
先天的能力を持つ者は、例外なく必ず瞳の色が変わるのだ。
瞳の色が変わると言えば、多重人格者だ。
多重人格者は人格が代わると瞳の色も連動して変わる。
時に闇のような黒、時に世を照らす白へ変わる。――
「これ、人格操作魔術が載ってる――」
思わず声に出す。
「メリアー!」
アリアがこちらに向かって走って来る。
手には分厚い本を抱えていて、大きい為か、走り方が少しぎこちない。
(アリアも買ったんだ…)
本をしばらく見ていると、アリアがメリアに気付くと笑って言う。
「金欠だったんだけどさ、魔術っていう文字見たら直ぐ買っちゃうから…。困っちゃうよ…」
『やっぱり…』
(オタクなんだね…)
心の中で言うと、後方から自分達を呼ぶ声がした。
「ファスリード嬢、ラクアレーン嬢!」
この清々しい声。
メリアはその声に聞き覚えがあった。
『殿下――?!』
「やっほー!2人共、本買ったの?!私も買ったんだー!」
「殿下、そんなに燥いでは目立ちますよ」
後から来た従者レーベによって抑えられたが、構いもしない王子ウェリアーンは続けて話し出す。
「偶然にも魔術に関する本を見つけてしまってね…!帰ったら直ぐ読もうかなと…!」
早口で話を続ける王子の隣で、従者がメリア達にコソッと囁いた。
「…聞いてください、おふたり様」
『なんでしょうか…?』
メリアとアリアが息を飲むと、従者は一息呼吸すると、言った。
「頼みなのですが、ナウアール・スウェディ様に会わせて貰えないでしょうか?」
メリアはポカンと口を開けると、自然と首を縦に振った。




