【9章-1話】開祭と共に
フィーライト王国有数魔術師学園、レイランド学園学園祭当日。
天候、快晴。
学園祭に相応しい天候の元、生徒会長ナウアール・スウェディが開祭式を務めた。
ナウアールは外で空に掌を向けると、魔術師を目指す者らしく、詠唱をして言った。
「――最高の1日と、楽しみに。今、開祭を告げる。――」
そうして、学園の敷地には光、水、火等様々な形の魔力が降り、文字通り開祭を告げたのだった。
「レーベ、最高の始まりだったね!何処か行きたい所はある?」
「殿下…。私は従者なんですけれど…?」
フィーライト王国第3王子ウェリアーン・ラティア・フィーライトとその従者レーベは、木陰で2人話していた。
ウェリアーンは変装しているつもりのようだが、庶民や平民が着る質素な服でも、王子の溢れ出る美貌は隠せていない。
ウェリアーンの方は抑えきれない程に興奮気味で、レーベは必死に見られないように徹底する。
「護衛も付けなくて良いって…、王子の身でそれは可笑しいと思うんですが…」
「私だって、魔力位持ってるよ。なんかうわわ〜んと言っていれば良いんだろう?ナウアールとロヴィリアが言っていた」
「いつまでも5つの時に測定したことで判断しないで下さいよ…。あの道化師、本当か分からないんですよ?」
王子が護衛無しで外出の方が深刻な気がするが、レーベは従者として王子を安全な方に導こうとしているようだ。
褒めてあげたい。
「でもそんな事ばかり言っちゃあ、楽しめないじゃないか」
「はぁ…」
王子らしからぬぶっ飛んだ考えに、レーベは口を開ける。
「じゃあ私が行きたい所に行かせてもらうよ!着いてきて、レーベ!」
「この学園祭には第2王子がいることも、忘れないで下さいよー!?」
走る王子を、苦労人従者が追い掛けていった。
「メリアー!」
アリアがメリアに声を掛ける。
(…そうだった)
『一緒に回るんでした、よね?』
「そうよ。…もしかしてだけど、忘れてたとかは無いよね?」
詰め寄るアリアに、メリアは『いや、いや』と言うと、若干疑いの目を残したままメリアに訊ねる。
「…じゃあ、どこか行きたいところは?」
メリアはその質問に、直ぐ答えることが出来なかった。
『えっと、私が行きたいのは――』
――あれ?思い出せない?
メリアは後ろを向いて、込み上げてくる嫌な予感を取り払う。
決して、メリアは考えてなかったのではない。
言えなくなったのだ。
(なん、で?)
自身の頭を抑えて必死に思い出す。
つい昨日までは覚えていた筈なのに。
――に行こう、って決めていたのに。
そう考えている内にも、痛みが頭を襲う。
これはまるで、記憶改変操作のようだ。
メリアは頭を抑えて痛みを軽減させようと試みた。
アリアを見ると、特に深刻そうな表情はしていなかった。
「どうかした、メリア?」
『…ううん、大丈夫。アリアが行きたいところは?』
何とかアリアに誤魔化せたことに、メリアはホッと胸を撫で下ろす。
「古本市に行きたいんだけど、どうかな?」
頭の痛みも治まり、アリアの行きたい場所も聞けた。
(…なんだったんだろ?)
『早速、行きません、か?』
「勿論!行こー!」
メリアは突然の頭痛に違和感を覚えながら、メリアはアリアについて行った。
――「こ、ここがレイランド学園、かな…?」
派手に装飾された校門の前で、ローブを着た少女が震えた手で杖を付く。
その杖は神託大特化魔術を行使する者にしか現れない白い紋様が、魔力を自然放出しないように等の効果がある石に刻み込まれている。
目は光の角度を変えれば紫にも桃色にも見える、コチニールレッド。
彼女の名はラリー・ムルトスタ。属星魔術使いの1人だ。
「来てみたはいいけど…。結界補強の役って何処に行けば良いのかな…?」
辺りを見渡しても、案内板らしき物は見つからない。
魔導地図を使えば一発だが、結界補強の為の魔力を残さなければならない。
魔導地図は、辺りの地形、道筋、人の行き交いが一瞬で現れるが、基本魔術3本並の魔力を消費することで知られている。
なので、魔導地図は長旅に長けているが、一方で短時間使用には向いていない。
「魔導地図を使うのは…、少し難儀だなぁ…」
(いっそ、神使召喚魔術で地神様に道を教えてもらうとか…?)
神使召喚魔術も、魔力消費が激しいことで有名だ。
何せ、神を呼び起こすのだから、魔力を捧げるのはその代償に過ぎない。
神々からしたら、これらは日常茶飯事、当たり前だ。
「…あぁっ、もう迷ってる暇じゃないじゃん!?えっと…、じゃあもう神託大特化魔術使えばっ…」
杖を天に向け、詠唱をする。
「――奇跡を。」
すると、杖の白い紋がラリーの身体を包み込み、光の粒としてラリーごと飛散し、跡形もなく消え去った。
(…妙ね)
ラウィーヌが生徒会室の窓から、学園内の敷地を見下ろす。
同時に生徒会室の扉が開いたかと思うと、1人足を踏み入れる。
「ラーヌちゃん、どうしたの。こんなところで」
「年齢サバ読み師匠が、一体絶対何を言ってるのですか?」
どうやら、部屋に入って来たのは盲目少女――ティレだったようだ。
ティレはラウィーヌに向かって何歩か歩くと、ラウィーヌの髪をひと房摘む。
「ちょっ、お師匠様?」
そのまま無言で髪を弄っているティレに、ラウィーヌは訊ねる。
「何故ここに来たんです?ルレード様は?」
「ラーヌちゃんと、回りたいな〜って思ってね。ルレードも別の子と行きたいって。…はい、これで三つ編みくるりんぱ完成っ!」
ティレに言われて、ラウィーヌは髪を触る。
ふんわりとした髪と、三つ編みの触り心地があった。
正直、空間視で見える範囲は知らない。
(それでも編めるものなのかしら…)
そんな疑問がありつつ、止めること無く触っていると、ティレは28歳にはあまりにも見苦しいポーズで、ラウィーヌに言った。
「いっつもラーヌちゃん怖いじゃない?折角髪が綺麗なんだからお洒落しないと」
そのポーズは片足を上げ、指を頬に添えたポーズだった。
ポーズに言うことは無いが、言葉には少々思うことがあった。
――「髪、お洒落しないとって言ってるよね?エイラちゃんにも言われてるから…。分かった?」
(…そう、なのかもしれないかしら)
ラウィーヌがまた窓を見ようとするのと、生徒会室の扉が開くのが重なる。
「…これはどういう状況ですかね?」
ユベリアンの言葉に、ラウィーヌは顔を向けないまま返した。
「気にしないことをお勧めするわ」




