【特編】フィーライト王国の数々の出来事〈後編〉
「…っあー。これで戻す作業は終わりかな、ナーフェルディア?」
プルディスティアンが腕を組みながら訊ねる。
聞かれたナーフェルディアが大きく溜息をつくのと同時に、ソルメリドが作業机の下に置いてある酒瓶を手に持つ。
「…終わったけど、次は書き記す作業があるわよ?現実に影響が無いかも確かめなきゃいけないし」
「それならやっておいた。…だが書き記すのは任せるよ」
驚いてソルメリドの方を向くと、本人は酒瓶を片手に何かを探すような仕草をしていた。
「あれ、何処やったっけな…」
「これのことですか?」
次にナーフェルディアはプルディスティアンの方を見る。
プルディスティアンの手には、青く光る掌サイズの石のようなものが乗っていた。
「…ソルメリドはこれを使わないと能力が使えないからねぇ?」
「その言い方は止めてくれないか?俺の使うのは、能力とは意味が違う」
「まぁいいじゃないか、仲間同士だしね?」
「…そうだが、そういう意味では…」
「じゃあいいね♪」
そう言ってプルディスティアンは石を浮かせる。
そして間もなく、石は光に包まれてその場所から飛散し、消え去った。
「まずは仕事から済ませようよ。僕の自動情報収集魔法陣装置はっと…」
「プルディスティアンのやつはもっとこう…」
後ろでナーフェルディアがウズウズとしていると、魔法陣に触れたプルディスティアンは口端を上げて呟いた。
「いいねぇ、いいねぇ!」
「うげっ…」
呼吸を荒らげて明らかに興奮するプルディスティアンを、横でナーフェルディアが見る。
「今日、約1000年前の新しい歴史的発見が見つかったんだって!…それと、それと!」
段々と声が大きくなるにつれて、流石のソルメリドも耳を塞ぐ。
一気に静まり返ると思うと、辺りが悪寒と静寂に包まれる。
後にプルディスティアンが発した言葉には、見て分かる程の憎悪と憤怒が込められていた。
「…歴史館、博物館、美術館、一部作品を別国に寄贈…?歴史館書物数点紛失、図書館爆発…」
忽ち辺りが寒気に包まれると、作業机に掌を力強く叩き付ける音が響き渡る。
先程までの興奮した鼻息はすっかり治まり、代わりに光の無い目が、ソルメリドとナーフェルディアには見えた。
2人を順番に見つめたプルディスティアンは、自身の拳を震える程に握り締めて、小さく呟くように提案した。
「…っ、ねぇ2人。僕、すっっっ…ごくいいこと思い付いたんだけど、案を聞いてくれないかい?」
「はいはい、聞かせてくれ」
(はぁ…、これが日常茶飯事だと思うと、ねぇ…?だけど――)
ナーフェルディアは、再び溜息をつくと闇に似合う不気味な笑顔で言葉を返した。
「止められないのよねぇ?」
「ここにも変な奴がいたか…」
ソルメリドは不気味に笑う2人を目の前にして、頭を抱えた。
そう言うと、自分が1番まともなのではないか、と疑ってしまうのではないだろうか。
考えたが、ソルメリドは直ぐその考えを払っていた。
「犯人を暴いて殺す!これ良くないかな?!」
プルディスティアンが放った言葉は、想像を遥かに超えた意外なものだった。
それと、ナーフェルディアも調子が狂っている為か、狂気的な笑い声が聞こえる。
「…それって、大罪になるんじゃねぇか?」
人殺しは確実に何らかの大罪となる。
酷い時は処刑、軽くても無期懲役だろうか。
「まず記してからの方じゃねぇと…」
「あぁ、勿論記しは終えてある。だから今こうやって提案をしているのだよ?」
「いいわねぇ、いいわねぇ…」
ナーフェルディアが笑っているせいか、相まってプルディスティアンの声のトーンが上がる。
「僕の能力になら完璧に起こすことが出来るのだがね?どうだい、共にしてはくれないかな?」
「歴史を乱す者はこの世に存在する意味が無いのだよ!だから何をされても文句は無いよね、ソルメリド殿?!」
「あー、ごめんな。分からないな」
呆れた声で返すと、プルディスティアンは狂気的な目でこちらを見つめてもう一度訊ねた。
「…文句は、無いよね?」
「あー、ごめんな、変わらないな」
恐れることもなく先程とほぼ同じ言葉を返すと、「ちぇっ」と言ってプルディスティアンはそっぽを向く。
その間に目が覚めたナーフェルディアは、机をカツカツと指で叩いて2人を待っていた。
いや、目が覚めたもないのかもしれない。
(…このままだと)
「ねぇ、眼鏡とでかいの。2人の“先天的能力”、使ってみてくれない?」
割って声を掛けるが、2人は「はいはい」と口を揃えて生返事をして小さく何かを呟く。
恐らく、詠唱をしているのだろう。
やがて2人の詠唱が終わると、急に2人の前に魔法陣が展開する。
「しかし、久々に使うねぇ。ふっ、左手が疼くっ…」
「流石に引くぞ…と言いたいところだが、本当だもんなぁ…」
そうだ。
プルディスティアンの先天的能力は、これまた常人とは違う能力を持つ。
触れた者の思想を読み取ることが出来るもの。
使用時には、左手に紋様が浮かび上がり、その左手で触れると相手の思想が読める、操作出来る、という仕組みらしい。
前に使った“歴戻”とは別物だ。
…と、よく分からないが、疼くのは…きっと本当だろう。
「…で、ナーフェルディア。これで何をする気か?」
「久しぶりの、連携に決まってるでしょ?そっちの方が速いことも、2人はよく分かってるんじゃないの?」
訊ねると、左手をしばらく押さえていたプルディスティアンが突然我に返って呟く。
「連携…。確かにこれなら数秒で終わらせられるっ…!ナーフェルディア、君は天才だったのかな?!」
「…どうだっていいでしょぉ?」
プルディスティアンに言い返すと、大きく溜息をついたソルメリドが言う。
「言ってる暇あるんだったら早くしてくれねぇか?」
「はいはい、分かったからねぇ〜」
生返事を返すと、ナーフェルディアは息を整えて詠唱をする。
「――具現化」
最後にそう呟くと、一気に地に部屋全体の床を覆い隠すような巨大な魔法陣が展開する。
そこにソルメリドが掌を向けると、空間が渦巻いた錯覚ような状態になる。
そしてナーフェルディアが、空間から何かを引っ張り出す仕草を見せる。
すると2人の人物が目の前に現れる。
どちらも暗い色の系統の服を着ていて、コソコソと何かを話している。
だが、一切こちらのことは気付かずに、話し続けているようだった。
「――枯葉の如く其処で眠らんことを」
プルディスティアンが決め台詞のような言葉を掛けながら、その2人の肩に同時に触れた瞬間、2人は枯葉サイズの塵となって跡形もなく消え去った。
終了の声も待たず、ナーフェルディアは2人に伝える。
「皆一斉に跳ねるからね?」
「あぁ、分かってる」
「了解っと」
3人が集まると、ナーフェルディアの「せーのっ」という声で同時に跳ね上がる。
すると、急に魔法陣が光となって消え、ふわりと3人は地に着地した。
歴史が変わった世界に落ちると、3人は辺りを見回す。
慣れた光景に、3人はいつも通り伸びをしてハイタッチをした。
「歴史修復記録人、本日の仕事は終わり!」
ナーフェルディアが声を上げる。
「酒祭りじゃあっ!ハッハッハ!」
「いいねぇ、いいねぇ!」
明らか様子の可笑しい2人は、両手に1本ずつ酒瓶を持っていた。
それを見たナーフェルディアは、労う気力も無くなり、机に突っ伏す。
(何でもかんでも彼奴らは酒瓶で打ち上げかぁ…)
立ち上がって外に向かうと、ナーフェルディアは扉を開けて空を見上げて、1人打ち上げた。
――「今日も理想なる世に向けて星に願わん」
これが、“歴史修復記録人”の仕事だ。




