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星が瞬く夜に、願いを捧げます。  作者: 夜花みあな
第8章「学園祭準備編」
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【特編】フィーライト王国の数々の出来事〈中編〉

 ――約3000年前。

辺りは緑に包まれ、城といった建造物や街、国の境がなかった頃。

「おーい、アトロじぃさん。これ、向かいの家に持ってくよ」

「ありがとうね、リスバ坊」

年老いた老人と10から15辺りに見える少年が会話する。

少年は色とりどりの野菜が入った籠を持ち、向かいの家らしき建物に向かって歩く。

老人は腰が悪いのか、自身の家の前に座り込んでいた。

――その時だった。

バタバタと向かいの家から、少年が飛んで戻って来た。

「アトロじぃさんっ、やっぱ怖ぇよ!?問答無用で追い返されちゃって…」

「やっぱりだめじゃったか。…ん、そういえばじゃな。もう直ぐで日が真上に昇る頃じゃないかね?」

老人が陰と空の太陽を差し比べて少年に言うと、少年はハッとした表情で慌てて、擦り切れが見える服の裾を整えて言う。

「…それだったらやっべ!じぃさん、これで行っていいかな?」

「気にしなくとも行っていいじゃよ。楽しんでな」

言われて少年が走り出す後ろで、誰にも分からない程の時空の歪みが森で起きた。

「よっと」

歪みに出来た魔法陣のような円盤から、1人の男、眼鏡で細身の男プルディスティアンが現れる。

プルディスティアンは慣れた手つきで魔法陣のような円盤に触れると、仲間の名を呼ぶ。

「ナーフェルディア、ソルメリド、何回目だと思っているのかな?いい加減出られるようにならないのかな?」

返事が無い。

不思議に思い、プルディスティアンが円盤を覗くと、中から1人の女がプルディスティアンの顔を思い切り掴んで飛び出る。

「…っ!少々宜しいかな、ナーフェルディア」

頭に手を当て、疼きつつ訊ねると、ナーフェルディアの表情は謝る意思を見せず、寧ろ綻びを感じた。

「あぁ、ごめんねぇ。分からなくってぇ。め、が、ね、さ、ん?」

「…そろそろ行かねぇか?2人」

後から現れた大男ソルメリドがまともなことを言うのは珍しいのだが、それより表情が蔑みに満ちていた。

だからか、他の2人は大人しく口を揃えて「はい…」と返事をすると、ソルメリドは「ふぅ」と力を抜いたかと思うと、2人の服の首元を掴む。

「それなら早く行くぞ」

「フッ、(やつがれ)の消費体力が減った。感謝するよ、ソルメリド」

「…」

ソルメリドはその後、プルディスティアンを歩かせて目的地へ向かわせたそうだ。


――「で、今回は何処で何すりゃいい、ナーフェルディア」

「うーん…、全治の森に行きたいから案内を…、この時代は魔法の起源の世界だから服装は変えておきたいかな」

大木の木陰で話していると、プルディスティアンが奥にある集落を見て呟く。

「結構古いね、この時代は」

そう言った理由はきちんとあった。

まず、プルディスティアンらが着ている現代の服装は、シャツの上に何らかを着ている場合があったり、職によってローブを着たりする者も様々だ。

しかし、この時代は薄汚れた1枚の布を縫ったもので身体を覆っていた。まだローブと普段服の違いさえも無いくらいだ。

1番近い服装なのはナーフェルディアだが、それでも時代の差は埋まらないことを表すかのようにまるで似ても似つかない。

(それなら住民に話し掛けて服を借り、…いや待て)

「異国の者と言ったら、彼らは信じると思うかな?」

「この時代は…、まだ付近の住民としか関わっていない筈だから行けるのかな?」

ナーフェルディアが首を傾げて言うと、ソルメリドは手を2度叩く。

「そうとなれば、早速誰かに聞こうか!」

「そうだね、ナーフェルディアは準備はいいかな?」

「いちいちそうしてると、時間が掛かるんだけど…?」

いつもに増して活力がある2人に、ナーフェルディアは溜息をついた。


道に出て、しばらく歩いていると後方から声を掛けられた。

「あの、そこの御三方様…」

振り返ると、そこには先程何処かへ走っていった筈の少年がいた。

「異国者でしょうか?」

「…あぁ。そうだ」

「何かお困りでしょうか?」

なんてぴったりの質問なのだろう。

プルディスティアンが思う。

だが、少年がこの質問をしたのは恐らく、…いや絶対別の理由だ。

プルディスティアンは開けた道で「困ったなぁ、困ったなぁ」とやけに大きい声で呟きながら、行き来していたのだ。

プルディスティアンただ1人が。

「…少年。道案内をして欲しいんだが、宜しいかな?」

訊ねると、少年は顔を引き攣らせながらも答えた。

「は、はいっ!」


(…困ってそうだったから聞いたけど、まさか道案内で方向が真逆なんて、聞いてないよ?!)

少年が声に出さないようにしながら、心で叫びを上げる。

少年の愛称はリバル。

昔、孤児で名前が無かった彼に、異国の者がその国での〈勇気〉の意味がある〈リベルト〉から取って付けたらしい。

そこから、周囲の集落の住民から〈リバル〉という愛称で親しまれている。

そんな彼は、今日仕事の為に北側にあるロブアスの家に行く途中だった。

しかし、途中で困っていた異国者の3人の助けになろうと、気遣いで声を掛けたところ、「道案内をして欲しい」と全治の森に案内することになってしまった。

全治の森は、リバルの目的地であるロブアスの家の真反対に位置している森だ。

それも結構な程南に向かって移動しなければならなく、そこら日が暮れるまで帰れるかどうかも怪しい。

(もう日が傾いてきた…、……あっ!)

しばらく歩いていると、目の前に広大な森が見えてきた。

リバルは直ぐに、それが全治の森ということが分かった。

リバルの心は仕事に行けなかった後悔と、やっと着いたという嬉しさでぐちゃぐちゃになる。

「…皆さん、着きました――え?」

見間違えだろうか。

人が、人間が空中に浮いている。

「…あの?」

「少年。今のは見なかったよね、そうだよね?」

3人の内の眼鏡男が圧を掛けるように、リバルに迫る。

「…は、はいぃ」

苦笑いで答えると、3人の内の女が申し訳なさそうに頭を下げる。

「案内してもらって…。こっちがありがとうって言う側なのにごめんねぇ。…これでも足しにしてよ」

そうしてリバルの手に、無理矢理何かを乗せる。

少し重みがあったので、何を持たせたのだろうと見てみると、そこには光に照らされ、春に咲くたんぽぽに似ても似つかない色でキラキラと光る物体があった。

「これは…?」

「今は価値が無いかもしれない、でもこれはあそこにでも埋められてるから」

分かったような口ぶりで西側を指差して言うと、口を開けたまま硬直するリバルに女は言う。

「本当にありがとう。…じゃあまたね」

「待っ――」

リバルが言う間もなく、身体中が眩い光に包まれる。

――それまで、記憶があった。

しかし、瞬きを1つした瞬間、時は戻り自分の住む集落に戻っていた。

そしてもうひとつ。

記憶が無くなっていた。

ある筈の、誰かと話した記憶が。

リバルはどうしても引っかかるところを気にしながら、目の前にいる年老いた老人に言った。

「おーい、アトロじぃさん――」

この言葉は、何故か口から勝手に、定められた運命のように口から零れた。


――「さて2人。後は森に行って“やる”だけだけど、さっさと行かねぇか?」

ソルメリドが言う。

「早くしないと国から怒られるし、そうしようか」

「…(やつがれ)がするんだけどな、それ」

呟くようにすると、ソルメリドがプルディスティアンの背中を強く押して、数歩分飛び出させる。

「口答えしないでさっさと行け」

「はぁ、何で(やつがれ)がこんな目に合うのか…」

やれやれと首を振るプルディスティアンに、ナーフェルディアはビンタをかました。


全治の森は、思ったよりも密度が高く、日を一切通していなかった。

辺りには小指程の光の破片が散らばっていて、それを踏みしめると光の粒となって飛散する。

その中の中心で、3人は立ち止まる。

「――今書き換えられん歴史共よ。現代の変わらぬ未来へ変わることの無い永久の不変な歴史を取り戻し、書き換えを拒絶せよ。――」

フィーライト王国語でも精霊語と呼ばれるフィアライ語でもない言葉で、プルディスティアンは詠唱のように唱う。

すると、辺りに散らばった光の破片がプルディスティアンの周りに集まり、1つの光となる。

「――歴戻。」

最後に力強く言うと、森は光に包まれ、3人は目を瞑る。

次に目を開けると、3人はそれぞれ現代の自分達の仕事机に座っていた。

「成功か?」

「そうだね、複製されたのもいないし」

立ち上がって辺りを見回し、プルディスティアンが言う。

ナーフェルディアも頷くと、安心した様子のままの2人に忘れているであろう事実を告げる。

「…大事なこと、忘れてない?」

「何かな?」

「まだ歴史が変わってるところあるから、戻さないといけないよ?」

プルディスティアンは久々に疲弊した低い声で言った。

「少し、…休ませてくれ」

そう言ってバタリと床に倒れ込んだ。

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