【特編】フィーライト王国の数々の出来事〈前編〉
これは番外編のようなものです。
不定期に中編、後編も投稿する予定です。
フィーライト王国では、古くから起こった出来事を書き記し、後世に継ぐという行為が正式に行われている。
それが行われているのは、王都付近にある隠れ家のような建物。
一切目立つことなく佇むその建物には、3人の者がいた。
「うーん、やっぱたまんねぇな!」
「うっさ…」
「こんな真昼間から酒かい?今事件か起こったらどうなる事やら…。フフッ」
1人目、酒の瓶を手に持って盛大に辺りを散らかしている大男。
2人目、机で静かに積み上げられている書類の間で何かを書いている質素な服の、成人したてに見える女。
3人目、光さえも反射させる真っさらな机で眼鏡をも光らせ、嬉しそうにやれやれと首を振る細身の男。
部屋の汚さで心が分かるというのは、こういう事なのだろう。
部屋は普通の家より大きいが、他と比べると古く感じる。
「…最近は何も起きないねぇ」
「何も起きない方が楽なんだけどね?」
眼鏡男が言うと、質素な服の女は頬杖をついて溜息をつく。
「眼鏡は屁理屈ばっかゆーし、でっかいのは酒ばっか飲むし…、応募しなきゃ良かった…」
「いい加減名前を覚えたらどうです?」
「そうだぞー、ナーフェル…い…だったけな、て…?何だっけか」
頭を搔いて苦笑いを作る大男に、質素な服の女は呆れたように返す。
「…ナーフェルディア。覚えてよ?3年の仲なんだから」
「君が言えることじゃないけどね?」
眼鏡男の言葉で言い返すことが出来なくなったナーフェルディアと呼ばれた女は、拳を握る。
それを見た大男は、酒瓶を手に持ってナーフェルディアに近寄る。
「これでも飲め飲めっ」
「いやっ、あたし、成人はしてるけど酒は飲めないからっ!?」
「…じゃあ何をしたら飲んでくれる?」
眼鏡男が訊ねると、嫌々ながらもナーフェルディアはヤケになって叫ぶ。
「何か勝負でも挑みなさいよっ…?!」
「じゃあそうさせてもらうよ」
眼鏡男は木で作られた棚から重なったカードを取ると、ナーフェルディアに見せつける。
「カードゲームで勝負は如何かな、レディ?」
「…っあぁ!ムカつくっ!いいわよ、やるわよ!」
「ハッハ!じゃ、俺も混ぜてくれ!」
「好きにしてっ!」
――数時間が経った。
「これで4勝目か。…にしてもつまらないね。最高魔術師が精霊を捕まえた位つまらない」
眼鏡男が言うと、ナーフェルディアが大男に向かって睨む。
「絶対コイツのせいでしょっ?!イカサマかなんかしてるんじゃないでしょうね…?!」
「俺はイカサマなんてつまんねぇことはしねぇからな!安心しろ、…なんだっけな」
「ナーフェルディア!」
声を荒ぶらせて叫ぶナーフェルディアだが、大男はずっと大声で笑っている。
「…ところでソルメリド、少々その汚い机を見ても宜しいかな?」
「うん?…あぁ、いいぞ」
大男が言うと、眼鏡男は何かをブツブツと呟く。
すると、大男の机の上に置いてあった書類、本が全て宙に舞う。
そして端に寄せると、下から数枚のカードが顕になる。
「…これがイカサマじゃなかったら、一体何なんですか?」
「へっ、俺の机が汚ぇだけだ。イカサマじゃねえぞ?」
「…じゃあこちらは?」
眼鏡男がまた詠唱をすると、大男の後ろにあった空き瓶を魔術で寄せる。
「貴方は未来を予知出来るんですよ。その通りにすることが出来るし、止めることも出来る」
「――都合が悪かったんだねぇ。そうじゃなきゃ机にダミーカードなんて置く筈も無いし、隠す為に酒を飲む必要も無い」
眼鏡男が分かったような口ぶりで言うと、大男は「ハハッ」と笑って掌をパタパタと動かす。
「このゲームは、数多い数字の中から2つのペアを見つけることによって成立する。…一つも欠けてはならない。歴史のように」
眼鏡男は何処からかトランプの束を取り出し、何か閃いたかのようにカードを崩す。
「提案なんだが、僕の考えたゲームを遂行しないかい?」
「ちょっとは俺の話を聞けよ。…まぁいいぜ。聞かせてもらおうか」
「…プルディスティアン、その一人称止めた方がいいよ?」
ナーフェルディアが言う言葉も耳に入れず、眼鏡男は微笑んで言った。
「…名付けて、〈プルディスティアンの数字合わせ〉だっ!」
「自分の名前を入れるなんて…ダッサ」
その言葉を聞くと、眼鏡男は拳を握り締めながら別のカードセットを取り出す。
「っ…じゃあ隣国のカードゲームでもしよう…か」
「ダメージしっかり受けてるじゃん」
「違うっ、これは神が僕に膨大な能力を授けた時の衝撃だっ。お前なんかの言葉じゃっ!」
「厨二病、キツいわ…」
ナーフェルディアの言葉で、眼鏡男はその場に倒れた。
「なぁ、プレ…なんだっけな」
「プルディスティアンだ。ナーフェルディアより覚えてないんじゃ?」
眼鏡男、プルディスティアンが言うと、大男、ソルメリドは表情はそのままで話を進める。
「…これ、おかしいぞ?」
酒の酔いで頭がボケたかと、プルディスティアンがソルメリドが指を差した方に目を向ける。
「…僕の自動情報収集魔法陣装置ですかね。王室が協力して作ってくれたものですが…」
「――は?」
プルディスティアンの一言で空気が一変する。
それを見ていたナーフェルディアは、何が起きているか分かっていた。
プルディスティアンは滅多に怒らない。
プルディスティアンが怒るのは、たった一つの事実だけだ。
――「歴史に何かが起こる」
ナーフェルディアは直ぐに魔法陣に近付くと、掌を当てて解析をする。
僅かながらの魔力で解析すると、ある歴史について口に出した。
「魔法と魔術の起源についてと、魔術師が喧嘩を売ったことについて、…最近の魔術師が精霊を捕まえたことについて――」
「行くか」
「久しぶりだなぁ?」
「――じゃあ、行くよ」
そうして3人はその場から消えた。
――この3人には歴史を記す他に、別の役割がある。
それは、
〈書き換えられた歴史を正すこと〉である。




