【8章-6話】誰しもを振り向かせらせる魔術
後日、ミレは盲目少女の痛み止めを使用して、演劇練習が行われた。
結果から言うと、ミレは痛み止めの効果で演技は出来たものの、その後の負担は結構な程だそうだ。
盲目少女が扱える解呪も、痛み止め程度の効果で完全に解ききることはあまり出来ないらしい。
盲目少女によると、どうやら痛み止めを使うなら、その後には何倍の痛みを背負うらしい。
それでもミレは演劇の為に、呪いが解けるまで痛みを背負うのを決めた。
――『先日はありがとうございました…』
メリアが頭を下げると、盲目少女は謙虚に「いえ、いえ…」と返す。
「大したことありませんよ。…呪魔術を得意としている私にとっては…」
『呪魔術って…』
メリアが言うと、盲目少女はそのまま続けて話し続ける。
「はい。私の家系は呪魔術を得意としています。…そう言えば自己紹介がまだでした。私はティレ・イルア・ルフェード。一応イヴァリアート男爵令嬢。威張りはしないから安心してね。…貴方のことは聞いているわ、ラウィーヌから」
『…そうなんですか?』
「そうよ。ラウィーヌ、私の弟子だもの」
衝撃の言葉に、メリアの身体は硬直する。
廊下は物理的に進むべき道。
要するに歩かないといけない道、本来は止まってはいけない道なのに、メリアは止まった。
「廊下は歩きましょうか」
(ひえっ…?!)
そう言ってティレが物体浮遊魔術を使って、メリアを浮かばせて運ぶ。
メリアは手足をバタバタとさせて抵抗すると、ティレに訊ねる。
『あの…弟子って?』
「うーんと、魔術を教えてる、みたいな感じかな?家庭教師みたいな感じで」
そう考えると、年齢が合わない。
ティレはラウィーヌの師匠ということは、3年ということになる。
ローブの刺繍も3年のものだ。
そんなに近いというのは絶対と言ってもいい程ありえない。
「あぁ、年齢ね。確かに合わないもの。…じゃあここだけの話ね」
『…はい』
「私、今年成人して13年経ったの。レイランド学園には正式な普通の生徒として入ったけど」
フィーライト王国の成人する年齢は15歳。
それから考えると、ティレは28歳ということになる。
普通に考えて、おかしい。
28歳の立派な大人が、魔術師学園高等部に入っていること自体が。
「これ、誰にも言わないでね。親にも行ってないから」
『…えっと…、言わないですけど、それは案外法律的に危ないと…』
「バレなきゃいいの。いいわね?」
口封じをされ、はたまたメリアは心の中で思った。
(やっぱり、色んな人がいるなぁ…)
――別の場所で。
生徒会長、ナウアール・スウェディは、最終確認の為にそれぞれの展示やクラブ等の場所を回っていた。
(さて、次は研究部の確認かな)
当たり一帯は確認し終えたので、実質ここが最後になる。
ナウアールの目の前にあるこの教室は、科学研究室。
メリアが探していた教室だ。
ナウアールは少しして扉に手を掛けると、ゆっくりと扉を開ける。
(…確か、顧問のイーティ・アントール教諭は突然失踪していたんだっけ)
メリアがイーティに確認をしに行った時、既に本人は学園にすらいなく、それから数日無断欠勤。
言い換えれば、失踪したのだ。
そんなことを考えながら完全に扉を開き切ると、部員に明るく挨拶をする。
「急に失礼するけど、最終確認の為に少し見学してもいいかな?」
一応ナウアールは訊ねているが、勿論生徒会長を断る者はいない。…というより、断ってはいけない。
――生徒会長という立場は、学園を動かせる程の権力を持っているのだから。
「どうぞ、会長」
言ったのは副部長のビアルド・ワズリベア。
その後ろにはリバールンの姿があった。
「…会長」
「リバールン、この前ぶりだね」
「はい…」
この間のこと、根に持っているんだろうな。
想いながら中に入ると、ナウアールはリバールンの手元を覗く。
「何をしているのかな?」
「自身に何でも取り込むことが出来る魔術が、古い魔術書に書き記されていたので、それを調べて展示しています。……今は細胞体で試しに実験していますが…」
(自身に何でも取り込むことが出来る魔術か…。懐かしいな)
ナウアールはリバールンの話を聞くと、しばらく手元を見ながら黙り込む。
「…それは、止めた方がいいかもしれないね」
誰にも聞こえない声で、誰にも聞かせないような声でナウアールは呟く。
深呼吸をすると、ナウアールは別の方に目を向けた。
次に、ナウアールは副部長のビアルド・ワズリベアの元に行った。
リバールンのところに行った理由は、見てみたかったから。しかし、ビアルドのところに行った理由は、ナウアールには特に別にあった。
ビアルドが研究している題だった。
その題の名前は――
――誰しもを振り向かせられる魔術。
ナウアールは見ると真っ先にビアルドに訊ねた。
「これは、どういう魔術なのかな?」
「…はい、これは最近出た〈ルールビウスのマスター魔術〉という魔術書に載っていたものなんですけどねっ…。ふっふ。実際に使えるんですっ!禁術じゃないですしっ」
ビアルドが興奮気味に答えると、ナウアールは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「学園祭、必ず見に来るよ。その時、また教えてくれないかな」
「勿論ですっ!」
ビアルドがオタク特有の返事を返すと、ナウアールは心で思った。
(……良い生徒を仲間にしたな、僕)
「よしっ、大丈夫。ここは存分に使っていいからね、…じゃあ僕は次のところ行くから」
そう言って、ナウアールは科学研究室を出た。




