【8章-2話】なりたくてなってる訳じゃ無いんですぅっ…!
――レイランド学園の学園祭は、2日間に渡り、普通の学園とは違う催しが行われる。
その内容は生徒会によって決まり、毎年生徒達は決まるのを心待ちにしているそうだ。――
「さて、今回は…」
1人の青年が呟く。
並んでいる教室の外では、皆学園祭について話している。
――「どこ回るか決めた?」
――「準備どう?」
喋る声を聞きながら、青年は零れた髪を耳に掛ける。
そしてある場所を見つめると、にこやかな笑みを浮かべて呟いた。
「……行くか」
呟くと、青年は急いでいる様子でその場を離れた。
「よし。皆立ってくれないかな?」
生徒会室で、生徒会長であるナウアール・スウェディが声を上げた。
「なんだよ、やっと区切りが着いたのに」
「区切りが着いたからこそだよ。皆でやりたいことがあるんだ!」
呆れるロヴィリアに、ナウアールは興奮しながら生徒会室に声を響かせる。
「…生徒会長らしくないのでは?」
「いいじゃない、サリアル。何やるかワクワクしない?」
「…別に」
素っ気なく答えるサリアルに、ユベリアンが上から目線で慰める。
「まぁ、いいじゃないですか。先輩なりの考えがあるんでしょうし」
「…私、先輩なのだけれど」
「…あ」
「聞いてくれないかな?」
そう言ったナウアール笑顔は、裏に怒りがあった。
「…どうぞ」
「ありがとう」
ナウアールは咳払いをすると、準備していたかのように魔法陣を差し出す。
「魔術師育成学園らしい気合いの入れ方、考えてきたんだよね。…皆、何か魔術を出して。40章まで限定で」
言うと、皆はそれぞれ詠唱をして月魔術、日魔術、光魔術、水魔術、氷魔術、炎魔術、――そして星魔術。
全ての魔術をナウアールの掌に集めると、ナウアールは続きの詠唱をした。
「―――総ての魔術を集わせ、花咲く光と成り変われ。―――集大成。」
「――我々生徒会は、学園祭の成功を願う。それまで全力を尽くすこと。それじゃあ――」
間を開けると、ナウアールは思いを馳せながら言った。
「――晴れやかな学園祭へ…っ!」
魔術は魔法陣と共に光となって散り、生徒会室を彩りに包んだ。
(…この後は、魔術装飾の所で試しに飾って…)
職員室から出てきたメリアは、地図を開く。
メリアは文化委員会で、飾り付けの担当だ。
委員会決めの時に真っ先に立候補したそうだ。
立候補した理由はただひとつ。
「人と無理に喋らなくても出来そうな委員会だから」
メリアらしいと言えばらしい理由だ。
委員会は別に大丈夫だが、メリアにはもうひとつ問題があった。
――方向音痴。
学園生活で、多少は建物には慣れてきたがメリアの方向音痴は治らない。
――「そんなに方向音痴なの…?逆に怖いよ…」
アリアにも何故か大袈裟に驚かれた。
しかし、気を抜けばしっかり迷うので、メリアはこうして地図を常に所持している。
メリアが次に向かうべき場所は昇降口。
「ここを左に曲がったら昇降口。…昇降口」
自身に言い聞かせて左に曲がると、目を瞑っていたせいか、誰かとぶつかる。
『す、すみませんっ…!』
直ぐにお辞儀をして謝ると、相手は優しい声で言った。
「いいよ。それより行ったらどう?生徒が集まってたわよ」
ぶつかったのはメリアより少し身長の高い少女。
ラウィーヌの雰囲気に似ているが、感情はあるようで、表情も変わっている。
お淑やかだが、髪色が金髪のせいか、そこまでには見えない。
『あ、ありがとうございます…』
(…?)
言い方に違和感を持ちながら通り過ぎると、メリアは指を差された方へ走っていった。
(もしかして…)
『盲目…?』
相手は何も言わず、メリアとは逆方向に歩いていった。
「あら、メリア。メリアも文化委員会なのね。宜しくね」
ラウィーヌがメリアの隣で言う。
先程まで気付いていなかったかのように振る舞っていたラウィーヌが、突然に声を掛けてきて、メリアは滝汗をかく。
当然、ラウィーヌが文化委員会とは知らなかったメリアは、見るからに慌てながら答える。
『な、何で文化委員会に…?』
「そうね、…余り物で選んだだけよ」
思いもしなかった理由に、メリアは机に突っ込む。
(…ラウィーヌ様、未来予知でも持ってるのかな…)
「心理操作は使えるわよ」
突かれたメリアは、仕事を始めようとラウィーヌと自分以外誰もいなくなった教室を出た。
今日は最悪な日だ。
メリアは思った。
理由はこの状況にある。
「メリア、最近調子はどうだい?」
『最近って…、最後に話したの1週間前ですよ…?』
ナウアールの訊ねに答える。
「メリアー、アリアが酷いんだけどー」
『すみません、後でで良いですか…?』
「だって、レジリア。残念でした」
縋り付くレジリアはアリアによって引っ張られていく。
「メリア、フィナーレ、どうするか決めたかしら?」
ラウィーヌが肩を掴んで訊ねる。
『魔術で締めようと思ったんですけど…。まだ考えてる途中です…』
「あら、そうなのね」
ラウィーヌの訊ねが終わると、ロディスとノディスがメリアの手を引っ張る。
「魔術演劇の役に入ってくれないかな…?」
「誰もやってくれないんだよ…。舞台が悪かったのかな…」
2人は目をメリアに集中させて同情を狙っているようだ。
(私って、いつからこんなに頼られるようになったんだっけ…)
頭の中で考えていると後ろでナウアールを待っていたロヴィリアが呟く。
「大変だな、ファスリード。…凄いな。ある意味」
そこまで来ると、口が悪いロヴィリアが1番まともに思えてくる。
『もう、助けて下さい…、ロヴィリア様…』
「悪い。もう行かなきゃならねぇ。じゃあな」
ロヴィリアはナウアールを引っ張るようにして、メリアを置いて去っていった。
「楽しみにしてるからねー、メリアー」
プレッシャーに塗れたナウアールの言葉が、更にメリアの心を抉り、最悪な日だと痛感させた。
(今日は世界が終わるのかもしれない、いや私が終わる…)
メリアは両手を掴まれたまま移動した。
――どうやら、この出来事は移動最中に行われていたらしい。
凄いな。ある意味。
(私だって、なりたくてなってる訳じゃ無いんですぅっ…!)
ロヴィリアの言葉の返事を、メリアは心で返した。
「…それ、言っておくわね」
心理操作を使うラウィーヌの言葉によって、メリアは身体の力が抜けた。
しかし、問題はあった。
まだ1日さえ経っていなかったのだ。




