【7章-9話】精霊語レッスン
陽が昇り、朝になるとメリアは陽の光で目を覚ました。
「ブリアンティ、ローズ…」
「いやぁぁぁぁぁぁ」
「如何致しましたか、メリア様」
メリアの目の前にはラリアードと、昨日話したルートゥがいた。
(怖い怖い怖いっ…)
昨日話した筈なのに、メリアは慌てて掛け布団を頭までかける。
「メリア様、ご自分で部屋にいていいと許可をしていたと思うのですが?」
「…でもですね…。目の前にいることは知らないですっ」
「あぁ、そうでした」
さっきまで忘れていたかののように流すラリアードに、メリアは溜息をつくとルートゥは不思議そうに首を傾げる。
「エイトゥリ、ドゥア、メント?」
「…メリア様」
「なんですか…?」
震えながら聞くと、ラリアードがルートゥの言葉を翻訳して言う。
「ルートゥ殿が大丈夫か、と質問なさっておりますが?」
「大丈夫です…」
「……あと、メリア様にもうひとつお願いしたいことがあるらしいのですが?」
ラリアードが続けて訊ねる。
「…はい、何ですか?」
「挨拶したいそうです」
「ふぇっ?」
「はい」
「挨拶?」
「はい」
メリアはルートゥに目線を合わせると、ルートゥは恥ずかしそうに指を捏ねながら何かを言う。
それをラリアードが翻訳して言った。
「お世話になるので、挨拶位はしたい、と言っております」
「でも…、精霊語なんて分からないし…」
メリアは大した経験がないので、言葉はフィーライト王国語しか分からない。
(それに…)
「今しか使わないでしょ…」
「ですがメリア様。私のただの考えなんですが、言葉が無いと人々は悲しいという感情を抱くと聞きます。人型の魔族なのですから、同じように思うかと」
「…」
黙り込むメリアに、ルートゥは隣に来て近付くと、肩に頭を乗せる。
「ピルトゥレアン、バーヴ、イサルア、ラ、ルバーン、イア…」
「僕が教えるので、覚えましょう、と。どうです、メリア様。覚えてみる気はありますでしょうか?」
「…」
(それなら…)
寝巻きのスカートをギュッと握ると、メリアは決意し返事をした。
「出来そうなら…」
「じゃあ決まりですね。早速覚えましょう。ルートゥ殿まずは〈おはようございます〉からです」
「ベイア!」
「はい、だそうです」
ラリアードの翻訳を聞くと、メリアは作り笑いで言った。
「今からぁ…?」
「あ、メリアだ!やっほー!」
図書館で声を掛けてきたのは、図書委員である高等部2年、ミレ・キャスバ。
今日は仕事の無い日で、偶然だったそうだ。
『こんにちは…』
「この前、事件に巻き込まれたって聞いたけど、体調は大丈夫?」
ミレがメリアを見つけて真っ先に訊ねると、メリアはぎこちなく答える。
『目立った後遺症とかは無いと思いますが…』
「そう。…記憶改変操作って後遺症が怖いからね。気を付けてね」
記憶改変操作は、最悪記憶の一部が消えるという恐ろしい後遺症が残る可能性があるのだ。
『…ありがとう』
「そうだった!メリア、何か探してるの?探すの手伝うよ?」
ミレが訊ねると、メリアは手に持っていた紙の切れ端を見せて訊ねる。
『こういう本ってありませんか…?』
メリアの見せたメモには、〈精霊語について書いてある本〉、〈種族に関わる本〉と書いてある。
ミレはメモを見ると、メリアの顔をニヤニヤと見る。
「メリア。王国史の範囲、分からないんでしょ」
『な、なんで分かるんですか…?!』
「だってメリア、分からないことしか図書館に本を借りに来ないし、この前、王国史でここの辺り覚えとけって言われたし?」
メリアはミレの推理にギクッと反応する。
「…そう言えば、メリアのクラスのマリアーン?っていう子も、同じような本を探してたよ」
『マリアーン様も…』
「顔はそんなに試験に焦ってそうには見えなかったけどね」
メリアはそれを聞くと、首を下げて若干俯く。
「…さぁさぁ、こんな話はやめて本を探そう!多分もう1階上がったところのコーナーにあると思う。行こ!」
ミレに引かれるように、メリアは走ってはならない図書館を駆けたのだった。
――その帰り道。
「やぁ、メリア。偶然だね」
分厚い本を何冊か積み重ねて運んでいると、ナウアールが声を掛けてきた。
(その言い方は必然な気がする…)
『こんにちは…』
「重そうだね。数冊持つ?」
『いや、大丈夫ですっ』
ナウアールが手を伸ばすと、メリアは片方の手で止める。
「…来週、試験日だってね。メリアは何か対策してる?」
『えっと…、丁度この本がそう、っていうか…、ですね…』
「王国史と種族についての本だね。…頑張って。―」
その後に何かを呟くと、メリアの方をもう1度見て心配そうに訊ねる。
「最近は体調、大丈夫かな?…それに学園祭の事、押し付けてしまって悪いね…」
いつもより悲しげな表情だったので、メリアはワタワタと本を持ちながらパニック状態になる。
『…大丈夫ですっ!押し付けられている自覚はありませんからっ!』
何か言っていることが違う。
そう感じたが、ナウアールは表情が笑顔に戻り、あたふたするメリアの顔をじっと見つめる。
「変わらないなぁ…」
呟くと、ナウアールは自持ちの時計を見る。
「…そろそろ戻らなきゃ行けなそうだ。本、気を付けてね。…それじゃあメリア、また」
そして、そのままナウアールはその場を去った。
(変だなぁ…)
メリアはナウアールの言動を不思議に思った。
「リィペア、ルーア、ナイティー…でしたっけ?」
不安げにルートゥを見ると、笑顔で「リィペア、ルーア。ナイティー」と返してくれた。
きっと当たっているのだろう。
メリアが教えてもらったのは、
「おはよう」という意味の「ブリアンティ、ローズ」や、「こんにちは」という意味の「ウェア、ルードル、カルサーン」、「こんばんは」という意味の「リィペア、ルーア」、「ただいま」という意味の「ナイティー」などだ。
文法的にはメリアが言った「リィペア、ルーア。ナイティー」は「こんばんは。ただいま」という意味になる。
(ルートゥ、案外優しい…)
メリアはルートゥの姿を見つめる。
ルートゥはきっと子供なのだ。
きっと種族は違い、見える歳ではないし、仲間では無い筈なのかもしれないが、メリアはほんの少し、ルートゥに心を開けたのだと感じた。
そして、メリアはルートゥにある提案をした。
「明日から、私の視界を共有してお姉さんを探しませんか?」
これはメリアが考えに考え抜いた提案だった。
視界共有なら姿を見て探すことが出来るし、早く見つかるかもしれない。
魔術も、メリアが専門の魔術書を借りてきた。
「これなら、格段に早くお姉さんに会えます」
メリアはルートゥの肩を掴むと、簡潔に言った。




